2015年06月10日

水素エネルギーの展望と課題

 日本政府は中・長期的な計画で水素エネルギーシステムの推進政策を打ち出しています。最近、水素エネルギーが注目されている背景や今後の展望についてふれてみます。

■様々な水素の製造法
 現在、工業的には水素はメタンと水蒸気を反応させて製造されています。このプロセスは水性ガスシフト反応と呼ばれ、水素の生成と同時に二酸化炭素が発生します。また、製鉄において水素とメタンが副生ガスとして得られますが、このメタンからも水素を作ることができます。
 上記のような既存の方法では水素の製造時に二酸化炭素も発生します。再生可能エネルギーで得られる電気を使って水を電気分解して水素を製造したり、バイオマスから得られるメタンを用いて水素を作る場合は、二酸化炭素の発生はほとんどゼロと考えることができます。

■水素エネルギーの展望
 現在のところ水素エネルギーとしての一般的な用途は燃料電池自動車と家庭や事業所の定置型燃料電池です。乗用車の他、燃料電池を搭載したバスやフォークリフトの実用化も進んでいます。燃料電池で水素を燃焼して出る排ガスは水蒸気ですので極めてクリーンです。
燃料電池自動車や定置型燃料電池を大量に普及させるためには装置のコストダウンが不可欠です。また同時に水素の製造コストも低減させて用途を広げていくことも重要です。航空機や船舶でも水素を燃料として使用できるようにしたり、将来は火力発電や原子力発電に代わる水素発電の構想もあります。
 日本エネルギー経済研究所の試算によれば、水素・燃料電池の国内市場は2050年に8兆円になると予測されています。2020年代まではエネファームを中心とする定置用燃料電池が市場の半分以上を占めますが、2030年代には燃料電池自動車が拡大し、2040年代に入ると水素発電や水素供給インフラの市場が伸びていくと予測されています。
 日本政府が掲げる水素・燃料電池戦略ロードマップの最終目標は、二酸化炭素回収・貯蔵技術と再生可能エネルギーを組み合わせて二酸化炭素を排出しない水素供給システムを確立することです。

■世界は電気自動車へ
 燃料電池で電気を起こし電気モーターで走る燃料電池自動車は電気自動車の一種です。米国をはじめ世界で電気自動車が実用化されていますが、主流は蓄電池に貯めた電気を用いて走る電気自動車です。
燃料電池自動車の普及には水素を販売するスタンドが必要です。日本のような社会では水素スタンドの普及も可能かもしれませんが、ガソリンスタンドのように世界に広く普及させていくことは、安全確保や経済負担などの課題を考えますと、大変困難と思われます。それに対して電気は世界中に普及していますので、蓄電池への電気の充電は比較的容易と考えられています。また、近年は軽量で充電容量の大きい優れた蓄電池も開発されています。
 将来世界の主流が蓄電池式の電気自動車となり、燃料電池自動車がガラパゴス化して日本のみで利用されるというような状況も懸念されます。

■40年前にも注目された水素エネルギー
 最近、急に水素エネルギーが話題となっておりますが、実は40年ほど前にも同じような事がありました。
 中東戦争に端を発した第一次石油危機により原油価格が上昇しました。当時日本では一次エネルギーの約75%を石油が占めており、そのほとんどを輸入に頼っていました。石油に代わるエネルギーの一つとして水素エネルギーの研究開発が日本でも盛んに行われました。しかし、水素エネルギーが普及することはありませんでした。
 4年前の東日本大震災後に日本の原発は全て運転が停止しました。火力発電の増強により二酸化炭素の排出量が増えております。原発に代わるエネルギーとして期待された再生可能エネルギーも、いくつかの電力会社ではメガソーラーの購入を見合わせています。地球温暖化対策にもなる新しいエネルギーとして、水素エネルギーが今また政府により取り上げられています。

■一次エネルギーではない水素エネルギー
 資源として得られる石油や石炭、天然ガス、ウランは一次エネルギーと呼ばれます。水素は一次エネルギーを変換して得られるので、二次エネルギーと呼ばれます。水素は石油や石炭と同列ではなく、厳密に言いますとエネルギーと呼ぶことは不適切です。水素は「エネルギー媒体」であると考える方が適切と思われます。40年前には米国でも水素エネルギーが注目されましたが、水素が二次エネルギーであると気付いた政治家の関心が急に薄れたというエピソードがあります。
 
 地球温暖化対策や原発に代わるエネルギーの模索が手詰まりになる中、政策のつじつま合わせに日本政府が水素エネルギー推進計画のアドバルーンを上げたという感じが否めません。40年前の経験を教訓として、水素エネルギーにのめり込むのではなく、国民の生活や産業を支えるエネルギーについて、地に足が着いた政策を期待いたします。