ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム 環境・科学

2014年08月08日

海洋エネルギーの現状と展望

 現在日本では再生可能エネルギーのように自然界から得られるエネルギーに大変関心がもたれています。今回は海洋エネルギーにふれてみます。

■海洋エネルギー
 海洋エネルギーとは海洋が持つ多種多様なエネルギーの総称です。漠然としたエネルギーのように感じられますが、それぞれの海洋エネルギーをまず科学的に理解してみましょう。海洋エネルギーを形態別に整理しますと、次のように分類されます。

1.波力や海流、潮流などの運動エネルギー
2.表層と深層の温度差を利用した熱エネルギー
3.潮汐の干満による位置エネルギー
4.海水の塩分濃度差による化学エネルギー

 海洋エネルギーの主たる源は、太陽のふく射エネルギーおよび月の位置エネルギーです。すなわち、太陽の熱で地球上の水の動きが作られ、月により潮の満ち引きが生じます。
 通常は、海洋エネルギーは波力発電、海流発電、温度差発電、潮力発電などの方法で電気に変換されて利用されます。

■波力発電
 波力発電は波のエネルギーを利用して発電する発電方法で様々なタイプがあります。波力発電は航路標識ブイの電源として実用化されており、全世界で数千台以上使用されています。
 波力発電は主に二つの方法があります。「振動水柱形空気タービン方式」は、没水部の一部が開放された空気室を水中に設置し、ここから入射した波で空気室内の水面が上下し、上部の空気口に設置した空気タービンが往復空気流で回転します。空気タービンには、往復空気流中で同一方向に回転するウェルズタービンが使用されます。
 「ジャイロ方式」は、波の上下動をジャイロにより回転運動に変換します。従来のタービン方式と比較して2倍以上の効率が期待できるものがあります。
 営業発電の事例としまして、2008年にポルトガルにおいて世界で初めて2.25MWの規模で営業運転を開始しされました。将来的に21MWまで拡大する計画でありましたが、経済環境の変化もあり現在では運転が停止されています。

■潮力発電
 潮力発電は潮汐流が持つ運動エネルギーを電力に変える発電方法で、潮汐発電とも呼ばれます。また、潮汐による海水の流れを利用していると考えれば、潮力発電は海流発電の一種とも言えます。
 潮力発電は干満の落差の大きい場所に堤防を作り、満潮時に水門を開いて貯水池に海水をため、干潮時に放流しつつ発電を行います。なお、満潮時の充水時にも発電を行う2方向の発電方式も考えられます。世界には十数か所の潮力発電所があります。
 潮力発電の実施例としまして、1966年に完成したフランスのランス潮力発電所があります。ランス川河口を幅700mにわたって堰止めて建設されました。ランス潮力発電所付近は地形的に潮位差が大きく、最大潮位差が13.5m、平均潮位差8.5mあります。
 ランス潮力発電所の最大定格出力は24万kWで、年間発電量は6億kWhです。日本では4人家族の1年間の電力使用量が約5500kWhですので、11万戸分に相当します。
 ノルウェーのクバルスン潮力発電所は2003年に完成した潮力発電所です。最大定格出力は300kWで、クバルスン海峡に10mに及ぶプロペラを海峡に沈めて建設されました。クバルスン海峡の海流の速度は毎秒1.8mです。
 ヨーロッパでは湾口の幅が広い湾の奥の潮位差が大きい場所で潮力発電が行われています。残念ながら日本ではそのような潮力発電に適した場所はなく、潮力発電は実用化されていません。

■海洋温度差
 海洋温度差発電は、水深約1000mあたりの温度の低い海水を汲み上げ、海表面付近の温かい海水との温度差によってエネルギーを発生させる方法です。温度差は10℃~20℃程度です。
 温かい海水でアンモニアなどの熱媒体を気化させて発電用タービンを駆動して発電します。使用後のガスを深海から汲み上げた冷たい水で冷却液化します。

■海流発電
 海流は太陽熱と偏西風等の風により生じる大洋の大循環流で、地球の自転と地形によりほぼ一定の方向に流れています。日本では黒潮が有名で、八重山諸島、トカラ列島、足摺岬、八丈島など多くのエネルギー資源が存在します。
 海流発電に利用される羽根やタービンは、回転軸の方向によって、「水平軸型」、「垂直軸型」の2種類があります。また回転ではなく振動によって発電する形式の「振動水中翼型」も利用されています。

■海洋エネルギーの課題
 海洋に装置を設置する場合、陸地に比べて様々なデメリットがあります。機器の貝などの付着物の除去や機材の塩害対策等に維持管理費がかかります。また、装置の耐用年数が5年から10年と短いためにコストパフォーマンスが悪くなります。漁業権の問題や航路等からの様々な制約から設置場所が制限されます。なお、場所によっては生態系への影響、景観の問題も生じます。
 自然エネルギー全般で言えることですが、海洋エネルギーはエネルギー密度が小さく、火力発電などの既存の発電方法に比べて発電コストが高くなります。

 海洋エネルギーには含まれませんが、最近話題のメタンハイドレートや洋上風力も海洋に存在するエネルギーです。
 海洋エネルギーの利用には様々な課題があり、日本ではそれほど普及は進んでいません。日本ではエネルギーの見直しが行われていますが、海に囲まれた日本の地理的環境を考慮して海洋に賦存する様々なエネルギーを今一度見直すことを期待します。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。