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コラム 環境・科学

2013年05月10日

注目される天然ガス

原発事故の影響で、日本のエネルギーは大きな転換期を迎えています。その中で、様々な特長を持つ天然ガスが大変注目されています。今回は天然ガスについてふれてみます。

■天然ガスとは
天然ガスとは、一般に天然に産する化石燃料である炭化水素ガスのことを指します。天然ガスの主成分はメタンで、その他、エタンやプロパン、ブタンなどを含みます。天然ガスの組成は産出する場所によって異なります。メタンが99%以上含まれるガス田もあれば、メタンが82%程度のガス田もあります。主成分のメタンの分子構造は、炭素原子1個に水素原子が4個付いた構造をしています。図にメタン分子の立体構造を示します。

shindou_2013.5-1.jpg                  図 メタン分子の立体構造

輸送や貯蔵のために、天然ガスはマイナス162℃以下に冷却して液化されます。液化された天然ガスはLNGと呼ばれ、日本では普通LNGの形で輸入されます。ロシアなどの生産地と日本がパイプラインで結ばれれば、天然ガスを気体のままで輸入することができます。都市ガスの主成分は天然ガスです。

天然ガスと類似の資源として石油ガスがあります。石油ガスは油田やガス田等で産出され、プロパンやブタンを主成分とするガスです。石油ガスは常温で圧縮すれば液化することができ、LPガスまたはLPGと呼ばれます。LPガスは家庭ではプロパンガスとして使われます。

■天然ガスの輸入先
かつて日本では一次エネルギーの約75%を石油が占めていました。輸入先も中東に大きく依存していました。1970年代の2度にわたるオイルショックを経験した日本は、エネルギー源の多様化、輸入先の分散に努めてきました。その結果、2010年の日本の一次エネルギーの内訳は、石油が40%、石炭が25%、天然ガスが17%、原子力が13%と、石油への依存度が大きく低下しました。天然ガスが大きな役割を果たしています。また、天然ガスの輸入先は、マレーシアが19.1%、オーストラリアが17.8%、カタールが15.1%、インドネシアが11.9%、ロシアが9.1%と、多くの国に分散しています。

■クリーンな天然ガス
天然ガスは石油や石炭と比べて様々な特長を持っています。天然ガスの成分であるメタンやエタン、プロパン、ブタンは毒性や腐食性はありません。天然ガスは産地において、硫黄酸化物や硫化水素、水、二酸化炭素などの不純物が取り除かれます。石炭や石油の燃焼時には、有害な排ガスを排出しますが、天然ガスは燃焼しても有害な物質をほとんど排出しません。天然ガスは燃えると水と二酸化炭素を排出するだけです。
 
■二酸化炭素の排出の少ない天然ガス
燃料を石炭から天然ガスに転換しますと二酸化炭素の排出量が約45%減少します。また石油から天然ガスに転換しても二酸化炭素の排出量は約28%減少します。なぜ、天然ガスの利用で二酸化炭素の排出量が少なくなるかの理由は次の通りです。

わかりやすく、石炭が炭素からできていると考え、石油は簡単に炭素1個に水素1個の割合でできていると考えます。天然ガスの主成分のメタンは炭素1個と水素4個の割合でできています。

  石 炭:C
  石 油:CH
  天然ガス:CH4

天然ガスを燃やしますと、二酸化炭素と水ができます。石炭を燃やすと二酸化炭素のみ排出されます。石油を燃やすと水もできますが、天然ガスを燃やす場合に比べ二酸化炭素の排出が多くなります。厳密には発生する熱量も比較して考えなければなりませんが、それぞれの燃料の組成の比較から、相対的に天然ガスの燃焼が最も二酸化炭素の排出が少ないことの主たる理由を理解していただけるものと思います。

■天然ガスと京都議定書
1996年にスタートした京都議定書では、二酸化炭素などの温室効果ガスを1990年度比で、EUは8%、米国は7%、日本は6%の削減を、一方でロシア等の途上国は削減義務は無く、すなわちゼロ%の削減目標を提案されました。

EUはドイツや英国を中心に、1990年以降に石炭から天然ガスへのエネルギー転換が進みましたので、目標はクリアする状況です。ロシアも近年天然ガスへのエネルギー転換で、1990年比で大幅な二酸化炭素の排出削減が進み、京都議定書に参加しました。ロシアでは、30%を超える二酸化炭素の削減が実現しており、推定で約54兆円にもなる二酸化炭素排出権を持つに至りました。京都議定書に参加しなかった米国も、火力力電所で石炭から天然ガスへの転換が最近急激なスピードで進んでおり、二酸化炭素の排出もマイナスに転じています。なお、1990年までに省エネや天然ガスへのエネルギー転換が進んでいた日本では、1990年以降は逆に二酸化炭素の排出量が増えました。
 
■フル回転の火力発電所
2010年時点で日本の電力の約30%を原子力が、約64%を火力発電が担っていました。火力発電の64%の内訳は、天然ガスが28.3%、石炭が25.2%、石油が10.3%でした。2011年に原発事故が起きた影響で、今稼働している原発は大飯発電所の2基のみです。現在は、日本の電力会社全体では発電の90%以上を火力に頼っております。中でも天然ガス火力により、日本の電力の約半分を発電しています。

さて、火力発電を増強するための追加の燃料代は年間で約3兆5千億円になっております。原発事故により日本のエネルギー事情は大きく変わろうとしています。一人ひとりが、それぞれのエネルギーの特徴をしっかりと見極めて、どのように組み合わせて使っていくことがベストなのかをじっくりと考えていくことが望まれます。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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