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コラム 環境・科学

2011年07月25日

シーベルトを理解する

 原発事故が起こり、放射能汚染が心配されるようになってから、テレビや新聞でシーベルトという単位が盛んに使われています。シーベルという単位をよく理解することは、放射線被曝や放射能汚染を正確に理解することにつながります。今回はシーベルについて述べてみます。

【シーベルトとは放射線の影響の大きさ】
 シーベルトは、放射線の生体への被曝の大きさを表す単位です。生体が受けた放射線の影響は、受けた放射線の種類によって異なるため、グレイという単位で表される吸収線量値に放射線の種類ごとに定められた放射線荷重係数を乗じて線量当量を算出します。異なる種類の放射線を同時に受ける場合は、総ての放射線の線量当量の和がシーベルト値となります。
 放射線荷重係数は、放射線種によって値が異なり、X線、ガンマ線、ベータ線では1、陽子線では5、アルファ線では20、中性子線ではエネルギーにより5~20の値をとります。シーベルトは国際単位ですが、その定義が大変複雑な単位の一つです。

【シーベルトの理解は時間が大切】
 ある場所もしくはある環境下でどれだけの放射線が存在し、生体にどのような影響を与えるかという数値は、通常は1時間あたりのマイクロシーベルト値として測定されます。シーベルトが被曝した生体のへの放射線の影響の評価として数値が使われる場合は、1年間あたりの積算のミリシーベル値が用いられます。
 「測定はマイクロシーベルト/時」、「評価はミリシーベルト/年」と覚えておくと分かり易いでしょう。なお、ミリは千分の1、マイクロは百万分の1を表します。

【被曝線量の暫定基準値】
 人間は常に自然界から放射線を受けています。日本人1人が平均的に受ける自然放射線は約1.5ミリシーベルト/年です。その量は大体、空気中のラドン等からは0.4ミリシーベルト/年、大地からは0.4ミリシーベルト/年、宇宙からは0.3ミリシーベルト/年、食物からは0.4ミリシーベルト/年です。
 また、日本人1人は自然からの放射線以外に、X線を使った医療検査を受けたり航空機で旅行するなどで、平均的に約2ミリシーベルト/年の放射線を被曝しています。例えば、胸部X線CT検査では約6.9ミリシーベルト/回、胸のX線検診では約0.05ミリシーベルト/回、また東京とニューヨーク間の航空機による往復で約0.2ミリシーベルト/回を被曝しています。
 さて、一般公衆が1年間にさらされてよい人工放射線の限度は、国際放射線防護委員会の勧告によると、通常時は1ミリシーベルト/年、緊急事故後の復旧時は1~20ミリシーベルト/年と定められています。原発事故後の日本では、被曝の限度値として、1~20ミリシーベルト/年が適用されています。
 このような一時的に高い数値が適用されている理由は、事故直後には原子炉の冷却や放射性物質の放出を止めることに全力であたり、一日も早い収束を優先に事故の処理にあたりましょう、そして、原子力事故が収束した場合は、速やかに元の基準値である1ミリシーベルト/年に戻しましょう、という考え方で設定されたものです。
 通常時の被曝限度である年間1ミリシーベルトはもちろんのこと、年間20ミリシーベルトの被曝限度も安全に十分に余裕を持った数値であると言われております。すなわち、一部に議論はあるものの、一般的に放射線の被曝量が年間100ミリシーベルト以下なら、健康への影響は心配ないとされています。
 
【シーベルト測定値から年間の蓄積量を計算してみる】 
 観測されたシーベル値等から、1年間に人間が被曝する線量のトータル量を計算することは、放射線の影響を考えたり、放射能汚染を正しく理解するために重要な事です。いくつかの計算例を述べます。

<試算1>
現在東京都が公表している環境放射線量の測定値は約0.05マイクロシーベルト/時です。この条件下で1年中被曝を受けたとすると、その蓄積放射線量は、0.05マイクロシーベルト×24時間/日×365日/年=0.438ミリシーベルト/年となり、1ミリシーベルト/年以下の数値です。
 さて、人間が毎日24時間も屋外にはいません。寝る時はもちろんの事、仕事中も屋内にいることが多いです。また通勤や仕事で移動するときも電車や車の中にいることが多いです。一般にコンクリートの建物の中では約9割の放射線が遮蔽され、木造の建物の中では約6割の放射線が遮蔽されます。環境放射線量を単純に24時間・365日をかけ合わせて1年間の蓄積量を計算すると、一般に過大な数値になります。試算においては、実際のケースを想定し、また実際に近い数値を用いて計算することとより、実態に合ったより正確な試算値になります。
 また、試算した結果を比較する場合、年間の被曝限度の1ミリシーベルト/年に日本人が平均的に受ける年間の自然放射線量1.5ミリシーベルト/年を足し合わせた2.5ミリシーベルト/年と比較することが適切と考えられます。

<試算2>
文部科学省では、被曝限度量を年間20マイクロシーベルトとした場合に、1日に児童が8時間の屋外活動、16時間の屋内(木造建物)活動を仮定して、3.8マイクロシーベルト/時の値を、安全を判断する基準として提示しています。実際に計算してみて、年間20ミリシーベルト以下になるか確認してみましょう。
 木造の建物の中では放射線が6割遮蔽されるとします。3.8マイクロシーベルト/時×(8時間/日+0.4×16時間/日)×365日/年=20ミリシーベルト/年となります。確かに年間20ミリシーベルト以下の被曝になります。

 原発事故に対しては、私たちは放射線にたいする正しい知識と理解をもって対処しなければなりません。できれば、本コラムで示したような簡単な計算を自ら行って、何が安全で何が危険かを、自分自身で確かめて頂きたく思います。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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