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コラム 人権・福祉

2011年09月22日

たゆまぬ努力と苦難を乗り越える/壁の向こうに見えるもの…

「自分にできること?」
 9月に入り、台風12号が甚大な被害を日本列島にもたらしました。3月11日の東日本大震災も含め、自然の恐ろしさを痛感する出来事が続いています。
 ぼくはこのような中、自分にできることはないかと考えていました。目がみえないぼくが、スコップをもち、瓦礫処理をする手伝いは向いていませんし、瓦礫の中から写真など大切なものを探し出すのも得意ではありません。しかし、何かできることはないか…考えていた時、テレビをつけると多くのアスリートが子どもたちにスポーツを教えている様子が目に留まりました。こういった活動であれば、自分の経験を生かせると直感的に感じました。
 実は10年ほど前からぼくは毎年視覚障害者向けの水泳教室を盲学校時代の恩師と水泳部時代の仲間と一緒に行っていたのです。そして、中学校での教員時代には水泳部の生徒たちにも水泳を教えていました。自分が30年続けてきた水泳を通じて、被災された子どもたちの力になれるのかもしれないと信じて行動を起こしました。
 7月下旬には盛岡市の視覚支援学校(盲学校)で水泳教室を開催することができました。そして、9月には全国障害者スポーツ大会(本年は10月に山口県で開催)に参加される福島県の代表選手たちと一緒に練習をする機会を得ました。とても喜んでいただき、よかったです。

「ぼくにとっての壁」
 この水泳教室以外にも、岩手県の大船渡市、釜石市、大槌町の4つの小中学校にて子どもたちに話をする機会をいただきました。そこでのテーマは「壁の向こうに見えた夢」というものでした。
 ぼくは15歳の時、それまで見えていた視力を失いました。予想していなかった出来事でした。正に想定外でした。そんな人生においての大きなピンチであった失明、障害というものに対し、ぼくは真正面から受け止めました。だからこそ、その後の自分がいると考えています。大きな壁に直面した瞬間や直後にはなかなか前向きにはなれないものです。しかし、この状況が変わらない以上、変わらなければならないのは自分自身なのです。
 見えていたものが見えなくなり、できていたことがこれまでどおりの方法ではできなくなった時、ただ失望するのではなく、どうすることでこれまでのようにできるのかと考えることが大切です。ぼくは、こうやって原稿を書いていますが、皆さんのようにパソコンの画面は見えていません。しかし、パソコンの画面を読み上げてくれるソフトを活用することにより、耳で聞きながら、キーボードはまさしく「ブラインドタッチ」で打ちながら原稿を書いているのです。

「壁を違う角度から見直す」
 いま、社会人として働いている皆さんは何を目指して働いていますか。何のために生きているのでしょうか…
このような漠然とした問いに困惑する方が多いのではないでしょうか。
 それに加えて長引く不況、世界の株安、円高傾向、就職困難など様々な社会不安に飲み込まれつつあるのかもしれません。
 これらは別に皆さん個人の責任ではありません。しかし、大きな壁として皆さんの前に立ちはだかっているのではないでしょうか。それでは、どうすればよいのでしょうか。
 そのヒントは前述したように社会を変えるという発送の前に自分自身を変えていくことにあると思います。この不況下であっても、長引く円高傾向の中でも業績を挙げている企業もあるのですから。

「壁を超えるために必要なこと」
 目の前にある壁というものはとてつもなく大きく高く見えるものです。しかし、意外に薄いかもしれませんし、もろいかもしれません。それは叩いてみたものだけが、知ることになります。誰もが挑戦しなければ、その壁の正体など知る由もないのです。
 壁を越える、打ち壊すという目標は立てがちですが、これほど意味のない目標はありません。目の前にあるものにとらわれるばかり、本質を見逃してしまっているといえます。
 ぼくにとっての壁である「障害を克服する」ということなど、いつまでたっても解決できない課題です。なぜなら未だにぼくの目は見えないままだからです。
 そのように考えたとき、ぼくが前進してこれたのは「パラリンピックで金メダルを取りたい」「教師になりたい」という夢をもち、それに向けて努力したことに他なりません。
  みなさんにとって、現状の壁は不況や社会不安などたくさんあることと思いますが、そのような中でも実現したいと思う夢を見つけなければならないと思うのです。「これをやってみたい!」というものなくして、努力する気にはならないのではないのでしょうか。
 つまり、壁の向こう側に見えるものをイメージするということです。
  壁というものは自分と関係のないところにあると思っているのかもしれませんが、実は自分自身の中に作り出されてしまっているものがほとんどなのです。壁を越えるためには、その壁の正体を知ること、その壁を越える自分に体力、実力が備わっているかを知ることです。この2つ以上に大切なことは壁の向こう側の光景が描けるかだと思っています。
 東日本大震災の復興を考えたとき、真の復興とはこれまでの状況を復元することではなく、これまで以上のものを作り出していくことが大切だと言われています。その通りだと思います。
 そこから導き出される答えは1つです。皆さんが壁だと思うものを的確にとらえ、今は見えていない壁の向こう側を信じて、努力や工夫を繰り返すしかないのです。
 何も自分一人で取り組む必要はありません。仲間と共に壁の向こう側の光景が共有できるのであれば、協力を得られることでしょう。前回に書いたようにチームワークが大切になるのです。
 皆さんのやる気が周囲を変え、壁を越える原動力となるのです。皆さん1人1人がそのチャンスを持っています。目の前の壁は皆さんに乗り越えられないものではないはずですから。
「ピンチは絶好のチャンス!」ぼくの好きな言葉の1つです。人生の壁をピンチとしてとらえて大きく飛躍されることを願っています。

河合純一

河合純一

河合純一かわいじゅんいち

パラリンピック競泳 金メダリスト

生まれつき左目の視力が無く、少しだけ見えていた右目も15歳で完全に光を失いました。それまで見えていたものが全く見えなくなることは中学生の私には大きな衝撃でした。しかし、私には幼い頃からの二つの夢があり…

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