2017年03月10日

最近よく聞く言葉「IoT」ってなに?

前号でビッグデータについて取り上げ、事例をいくつか見て来ましたが、今号ではビッグデータのソリューションとして、いまホットになっている「IoT」について取り上げたいと思います。

「IoT」は、Internet of Thingsの略です。
今から4~5年前にこの言葉が出て来た時は、「これからセンサーが流行る。センサーを活用したIT事例が出て来る」と講演で話しても誰も見向きもしない時代がありました。名前も簡単な単語の組み合わせの割には、意味がわかりづらい言葉です。しかも略して「IoT」とはきっと日本では誰も口にしないのではないかとの不安もありました。ところが今は大流行です。新聞・雑誌・ニュース・イベントで目にしない日はありません。ここまで流行ったのには理由があります。今号ではその辺を掘り下げてみたいと思います。

Internet of Thingsは、直訳すれば「モノのインターネット」です。
今までインターネットのユーザーと言えば73億いる人間が対象候補でした。ところがこれにモノがインターネットのユーザーとして参加出来る時代が来たという意味が込められています。インターネットのユーザーが73億から一気に600億に爆発的に増えたぐらいのインパクトがあります。

ただモノは人間のように言葉を発しませんので、そこでモノに備わっているセンサーが情報を感知し、データをインターネットへ発信します。そしてインターネットから送られて来るデータによってモノを動かす、この流れが「IoT」になるわけです。

前号の最後に紹介したセンサー付きの自販機の例はIoTの最たる事例ですね。

図1 IoTを利用した自販機 (c)Dolphere Ltd.

IoTを利用した自販機


ジュースを買いに来た人の年齢や性別をセンサーで判別して、購入した商品(ジュース)とセットでセンターに送ります。これにより世代別性別の飲み物の好みがわかるようになり、自販機に買いに来た人へ「オススメ」を表示して購買率を上げるわけです。

人間と違って、怠けたりせずに忠実にデータを入力してくれるのがセンサーです。データ分析するにあたっての前提となるデータの精度を高めてくれる効果があります。また人手という手間やコストをかけずにデータを収集出来るのも魅力です。

最近ではコンビニエンスストアでも、購買に来た人の年代や性別は、商品と共にレジに打たれていると言われています。しかしアルバイトの店員は忠誠心が高いわけでもないですし、しかも忙しい業務です。
年齢判断や性別判断を正確にしたところで時給が上がるわけでもありません。
現実には何が起こっているかと言えば、レジでは指が届きやすいボタンを押してしまう誘惑にかられるわけです。もし近いボタンが40代男性であれば、40代男性がその店では沢山商品を買いに来ていることになってしまいます。つまりビッグデータが生かされる大前提は入力データが正しいことなのですが、その前提が崩れてしまう課題を抱えていたわけです。

忠実なセンサーはこの問題点を解決してくれます。人手では取れなかった細かいデータも取得してくれます。

いくつかの面白いIoTの事例を見てみましょう。
まだ目にしたことがある人は少ないと思いますが「Hapifork」というフォークをご存じでしょうか?

図2 IoTの事例(1) (c)Dolphere Ltd.

IoTの事例(1)

このフォークには加速度センサーが内蔵されていて、食べるスピードが計測されています。それがインターネットに繋がってデータを送り、センターで分析されているのです。不健康な食べ方をしていたりすると、バイブレーションして警告してくれるそうです。センサーとインターネットによって人間が健康管理される時代になってきたというわけです。

図3 IoTの事例(2) (c)Dolphere Ltd.

IoTの事例(2)

これは、スマートハンガーと呼ばれるものです。

普通のハンガーと用途は変わりませんが、デジタル表示されているのはSNSサイトで押された「いいね」の数だそうです。どの服が人気があるかが一目瞭然というわけです。リアルとバーチャルの見事な融合ですね。

図4 IoTの事例(3) (c)Dolphere Ltd.

IoTの事例(3)

見ただけでは一見わかりませんが、これはNEST社が開発した学習型サーモスタットと呼ばれるもので、IoTの事例としてはかなり秀逸なものとなります。

家庭の温度や電気の情報を収集してインターネットを介在してセンターに送り、その家庭の生活リズムを把握しています。何が秀逸かと申しますと、この家庭の生活リズムを把握することによって、全体の使用電力節減に大きく貢献させているところなのです。電力はご存知のとおり、スイッチを入れた時とスイッチをオフにした時に電力を一番使います。節電しようとこまめにオン/オフを繰り返すよりは、点けっぱなしの方が節電に繋がるともよく言われます。そして人間の生活は1分1秒を争うものではないので、この学習型サーモスタットが電気のオン/オフを多少ずらしたところで生活に不便はありません。

これらの特性を生かして、NEST社は各家庭の生活リズムを把握して、各家庭に迷惑をかけない範囲で電力を使うピーク時間をずらすコントロールをすることにしたのです。各家庭での電気の使用時間帯を微妙にずらしていくことで、全体としてのピークをならすことができ、電力会社としては大きな節電になります。NEST社は節電効果の一部の費用を電力会社からもらってビジネスを成り立たせています。そしてその一部を協力した各家庭にも還元しています。これにより、国や電力会社は電力節減に繋がり、各家庭は電気代が安くなり、NEST社も儲かるという理想的なビジネスモデルを構築したのです。さらに言えば、各家庭の生活パターンを把握したことにより、今後のマーケテイングに有効な情報武装もできたことになります。

このNEST社は、Google社に買収されました。情報を価値に変える会社Googleはさすが目の付け所が違うということですね。 さて、センサーを活用したIoTで現在最も有力なソリューションは何でしょう? それは、顔認識と動線管理と言われるものです。

図5 IoTの事例(4) (c)Dolphere Ltd.IoTの事例(4)

最後にこのソリューションについてお話ししたいと思います。

顔認識はカメラを通して画像認識を行い、人間の顔から年齢や性別をかなりの精度で推測するものです。
この精度がかなり上がって来て、人の判別も実用に耐えうるレベルまで来たと言われています。最近ではFacebookでも、人の写真を載せると自動判別してタグ付けをしようとしてくるので、この辺の感覚がわかる人も増えて来たのではないでしょうか。カメラで捉える顔の向きが多少斜めであっても認識出来る判別技術レベルまで来ました。髪型を変えたり、眼鏡をかけたり、化粧をしたぐらいでは問題なく個人を特定することが出来ます。

もう1つの動線管理とは、センサーで人の動きを把握するものです。
センサーとしては、同じくカメラを使うものと、赤外線センサーを使うものがありますが、現状では赤外線センサーが実用に耐えられるレベルに来ています。ただしセンサーが高額になるので、カメラによる動線管理の実用化に今後期待がかかっています。

顔認識によって人の判別が出来るようになり、動線管理によって人の動きがわかるようになると、何がよくなるのでしょうか?

まず、わかりやすい例がセキュリティー目的の使い方です。

図6 顔認証/動線管理で見えてくること (c)Dolphere Ltd.

図6

例えば万引き防止です。
限りなく黒に近い怪しい人がいたら、その人の顔写真を予め登録しておきます。そうすると次回その人が来店した時には、こっそりアラートで店員に知らせることが出来、注意して見張ることで現場を押さえることが出来ます。

動線管理でわかりやすいのは、陳列の最適化でしょうか。
人の動きを把握出来るので、人の流れの多いところに売りたい商品を並べてみたり、または売れ筋の商品の場所を変えることで店の中の流れを活性化させることも出来ます。

迷っている人の発見にも役立ちます。
お客様は、お店に入ってすぐに店員に来られるのは嫌がりますが、迷っていて来て欲しい時に限って店員が気づかなかったりするものです。動線管理で、同じ場所に何度か戻って滞留している動きを見せた時に店員にアラートを送れば、タイムリーな応対をすることが出来るようになります。

実は、IoTの事例はお客様の分析に活用するだけじゃなく、売る側、つまり店員側の接客向上にも有効な側面があります。例えば

図7 動線管理の説得力 (c)Dolphere Ltd.

動線管理の説得力

デパートでの売れる店員の動き(左)と売れない店員の動き(右)を図示したものです。

売れない店員は店の隅にいる度合いが多く、かつ動く距離も短いのがわかります。一方売れる店員は店の真ん中にいる度合いが多く、かつ動く距離も多いのがわかります。売れない店員に根性論を説いてもなかなか改善されるものではないですが、こうやって具体的に図示してアドバイスすれば効果はてきめんです。ゴルフのレッスンで、スイングを言葉で注意されるのと動画を見させられて注意されるのとの違いと言えばわかりやすいでしょうか。

ビッグデータ全般に言えることなのですが、実は顧客分析よりも、身内分析の方が特徴や傾向を出しやすく、かつ改善効果も高いと言われています。

さて、最後にビッグデータにおけるIoTの意義について話したいと思います。
こちらをご覧ください。

図8 IoTで本当に欲しかったデータが取れる (c)Dolphere Ltd.

IoTで本当に欲しかったデータが取れる

いま話題のビッグデータは、売り上げ効果を上げる重要な情報戦略と認識されていますが、大きな課題が2つ潜在しています。1つは、ビッグデータが効果を発揮するのは入力データが正しく入力されてこその前提に立っていますが、意外とこの入力データが足りていなかったり、精度が高くなかったりしていることです。このためビッグデータを導入し始めてから、初めて取れていないデータに気づき、あたふたする企業も多いのです。
営業が記録してるはずのデータがいい加減だったというのも、ビッグデータを導入し始めて気づくことが多いです。それはそれで、足りないものに気づき、改善のいいきっかけになるので意味はあるのですが、戦略実行で後手に回ることになります。

2つ目は、情報分析に本当に必要なデータの多くが現状では取れていないということです。
図8を見るとわかりますが、いくらビッグデータと言っても、現状社内で取得しているデータはごく一部なのです。
「既存顧客が」「何を買ったか」のデータしか取れていないということです。まだ顧客になっていない見込み客のデータは取れていないので、その観点で分析することは出来ません。また買わなかったデータも取れていないので「なぜ買わなかったのか」を分析することも出来ないのです。

図9のパチンコの例 (c)Dolphere Ltd. で考えるとわかりやすいと思います。

真のニーズ(嗜好)は、購買データにあらずの可能性


この例で言うと、来店したお客様は本当はAの機械で遊びたかったのですが、15分待っても空かなかったので諦めてBの機械で1時間遊びました。そろそろ空いたかな?と思ってまたAの機械に戻るのですが依然空いていないので再度諦めてCの機械で30分遊んで帰りました。

これが既存のビッグデータでの分析だとどうなるか・・・。
データベース上は、このお客様はBの機械で1時間、Cの機械で30分遊んだ記録が残ります。このことから、このお客様はBの機械が好きだという嗜好分析が行われて、今後Bの機械の台数を増やすとか、このお客様にBの機械をお勧めしてしまいます。ところがもうおわかりの通り、このお客様が本当に好きなのはAの機械なのです。
これを顔認識で個人を認識し、どう動いたかをデータでも取得して初めてデータとして認識出来るようになるわけです。

IoTの導入によって、今まで見えていなかった真実のデータを取得出来るようになり、正しい分析を行うことが出来るようになります。つまりビッグデータの鬼門は入力データにあり、ここが大きな課題になっていたのですが、IoTがここを大きく改善してくれます。

IoTが実用的なソリューションに大きく近づけてくれるのです。しかも近年センサーの価格も安くなり拍車をかけています。今後IoTを導入するかどうかで、差別化への大きな岐路になっていくことでしょう。


IoTを活用することで、ホスピタリティを上げて、売り上げ向上に直結させることが出来るようになります。
まさに「人を輝かす」ITへの貢献です。

例えばホテルの事例になりますが、もし顔認識を導入すれば「お得意客」が来た時に、ホテルに入ってフロントに登場するまでに認知し対応することが出来るようになります。顔パスで受付業務を簡略化することも出来ます。ホテルマンも、全てのお客様を覚えていられなくても、このお客様が前回いつ来てどう過ごしたかを最初の会話の前に知ることが出来ます。お客様は覚えられていたという満足感を得ることが出来て、ボトルネックとなっているフロント業務も簡略化されます。

ビッグデータで言われているニッパチの法則。つまり8割の売り上げに貢献している2割のお客様のホスピタリティの向上と売り上げへの直結にIoTは貢献出来るのです。