2019年06月03日

谷田家の家訓「己因(おのれがもと)」

創業者である祖父、そして2代目の父も大切にしてきた言葉が、「己因(おのれがもと)」である。よい事も悪いことも、全ては自分が要因・原因となっているんだという強いメッセージと認識している。では、その要因・原因である「己(おのれ)」について、私達はどれだけ理解しているのだろうか。どんな時に喜び、感動し、笑い、心地よく、安心しているのか。どんな時に、怒り、悲しみ、無関心になったり、イライラするのだろうか。自分のよい部分(強み)と悪い部分(弱み)は理解できているのだろうか。いわゆる「自分の取扱説明書」を無視して、自分を動かそうとはしていないだろうか。

事業承継においては、沢山の書籍があったり、コンサルタントもいる。あるべき姿を描くのは大切だが、事前に念入りに準備した計画が、実際には実行できないことも多い。「本当はこうした方がいいのは分かっているんだけど・・・」と漏らす声も聞いてきた。私の実感として、事業承継は理論や理屈だけでは進まない。事業への思い入れや、一緒にやってきた人達との歴史、愛着、会社が自分の子供のように愛おしく、会社=自分という人も少なからず見てきた。頭で考えれば分かることが、分からなくなる。「あるべき姿」は分かっていても、実際にはできない。それは、卑近な例でいえば、分かっていてもできないダイエットと同じではないだろうか。適度な食事と運動。シンプルに言えば、難しい事なんて一つもない。ただ、それを実行するのが難しいというのは、ほとんどの方が理解できるだろう。大切なのは、「自分の取扱説明書」を熟知することである。

象と象使いの例えは、ご存知だろうか。私達の脳は、感情を司る辺縁系と、理性や思考を司る大脳皮質がある。例えるなら、「感情」が「象」で、「理性」が「象使い」である。「象(感情)」は、「あれをやりたい!(やりたくない!)」など「モチベーション」となる一方で、視点が短期的になりがちである。一方の「象使い(理性)」だけでは「モチベーション」になりづらいが、中長期的に計画を立てることが得意である。我々の中の「象(感情)」と「象使い(理性)」が適切なコミュニケーションをとっていると、成果が出やすい訳だ。多くの人は、「象使い(理性)」が「象(感情)」をコントロールできると信じたいのだが、実際には「象(感情)」の方が、大きく、強い。お腹の空いた象に、美味しい食べ物を見せれば、象使いが行きたい方向を指示しても、それはほぼ守られないのは想像に難くない。ダイエットの90%以上が失敗していると言われるように、象使いだけで動こうとしても失敗する訳である。なぜこの話をしているのかというと、事業承継において、「象使い(理性)」だけで計画を立てていても、実際には「象(感情)」が暴れてしまい、問題が出ることが多いからである。

では、どうすればいいのか? ここでも自分の「象(感情)」を理解する必要がある、つまり「自己理解」が重要になっている。ご自身が何に価値を置いて、何を大切にしているのか? 何を本当に欲しているのか? 何に恐れているのか?を知ることである。自分自身の本音の部分を探求すること。現在、組織開発や人材開発の分野で、リフレクションとフィードバックが土台というお話を聞くが、これも「自己理解」を深める一つの手法と考えている。講演会では、自分の価値観を探るための簡単なワーク等も行っている。タニタ社が何を大切にしていた、だけではなく、自分が何を大切にしているのか?を知ることがポイントではないだろうか。自分の価値観を知ることで、今まで言葉にもしていなかった、何を引き継いで欲しいのか? 何を変えたいと思っているのか?等を言語化できる機会にもなるし、引き継ぐ人達にとっての新たな指針になるうるものを持ち帰って頂けると思う。

事業承継をサポートすることで、経営者やリーダー、そこにつながる人達の幸せな生活に貢献できればこれ以上の幸せはない。今後もたくさんの人達の事業承継に、講演会・研修・トレーニングを通じて関わっていければありがたい。皆様の事業承継が豊かなものになることを心から願っている。