ビジネス社会のボーダレス化が加速している現代社会においては、取引する相手企業の国籍はまさに様々。そうした激変する時代の潮流において極めて重要な問題といえば、一にも二にも、「相手企業がどのような文化的背景を備えていようとも、その相手と、常に、妥当、且つ、柔軟なビジネス・コミュニケーションを図るための能力」と明言できるでしょう。
どのような業界においても、ビジネスパーソンが仕事をするとき、”ビジネスそのもの”についての多様な知識・経験は必要不可欠。そして今、ビジネスの根本の根本について考えるならば、「ビジネスを行うその本人が、一体どのようなビジネス・コミュニケーション力(人間力)を備えているか」ということが極めて重要な問題となります。
本稿において「ビジネス・コミュニケーション力」について述べる上で不可避的な問題として挙げられることは、以下の如き二つの能力の存否の問題です。その二つの能力の存否とは、A「様々なビジネス・シーンにおいて、常に、”場の空気を察する能力”の存否」、そして、B「目の前の相手の立場・心情を察する能力の存否」です。今回のコラムでは、この「察する」という概念について、主に、「外国企業を相手にビジネスを行う日本人ビジネスパーソンが注意すべき事項」について述べていきます。
さて、迎える一日一日において私たち日本人が使っているこの”日本語”は、「実に豊富で優雅な表現方法を誇る言語」として捉えることができます。しかし、その一方、私たちは、日々のビジネスライフにおいて、しばしば、「”繊細な言語”としての日本語を使う難しさ」に苦悩することもあります。
私自身、海外に在住中、現地在住の日本人から、「日本語の”察する”に該当する英語表現を教えてください!」という質問を良く受けました。日本語における「察する」に該当する英語と言えば、通常の場合、suppose, guess, imagine等を思い浮かべるでしょう。しかし、例えば、supposeにおける言葉の概念は、「想像する、推測する、推察する」等です。guessやimagineの場合も、同様に、ほぼ同じ意味合いで用いられます。ここで結論を急ぐならば、日本語における厳密な意味での「察する」という概念は、英語の「suppose, guess等における”曖昧な想像”や”明確でない推測”を意味しているわけではない」ということです。
では、この「察する」という動詞について、”比較文化的考察”を通してその概念を英語で表現するならば、一体どのような動詞を用いることが妥当なのでしょうか。私の考えでは、日本語の「察する」は、英語のconsiderに該当すると捉えます。
ご承知のように、英語のconsiderは、通常、日本語の「考える、熟慮する、考慮する」等として解釈されます。しかし、ここで一つ、留意するべき点があります。それは、英米社会において人々がこのconsiderという動詞を用いるとき、この言葉を、(1)「理性的に察する」、(2)「(理性を駆使して)慎重に察し、合理的に判断する」という意味合いで用いる場合があるということです。
日本語における「察し」の概念は、実際、日本の文化・習慣との関係において、歴史的に相当深い相関関係がそこに内在します。日本語における「察する」は、(1)「おしはかって考える」、(2)「思いやる」という意味を成します。「おしはかって考える」とは、「すでにある事実・状況をしっかりと把握・理解し、理性的に考え、判断する」という意味。つまり、この動詞・「察する」は、単に、「想像する、推察する」という意味ではないのです。
一般に使われている英和辞典でconsiderという動詞を調べると、通常、その和訳に「察する」とは書いてありません。また、逆に、「察する」という日本語の動詞を和英辞書で調べても、その英訳としてconsiderと書かれてあることもありません。しかし、実際の英米社会において英米人が日本語の「察する」という概念に相当する言葉を用いるとき、最も妥当な英語の動詞といえばconsiderであるのです。
実のところ、この問題は、私自身の研究課題の一つとして長年扱ってきた課題であり、国内外の著名な学者・作家等、この種の問題についての見識者と議論してきた問題でもあります。読者の皆さんにおいては、日本語の「察する」を英語で表現するとき、是非、以上の点を十分に認識・理解し、「日本語における”察し”に内在する深遠なる意味合い」を損ねないように注意を払っていただきたいと切望しています。
読者の皆さんが外国企業と交渉するとき、可能な限り、日本語を英語に直訳することは回避し、日本語と英語における文化的背景を比較しながら、「天賦的理性」(inherent reason)を介して日本語を英語に”意訳”することに主眼をおいていただききたいと願っています。文化的背景が異なる外国企業を相手に取引を行う上で必要不可欠なことは、「バランス感覚に優れた教養人」(well-balanced cultured person)としてデリケートに言葉を扱うことです。
言葉は、それが何語であっても、それを使う本人の「鏡」といえるもの。英語に関して述べるならば、”表面的に”英語を捉えるのではなく、”比較文化的に”英語を捉えることが重要です。「ボーダレス国際社会で行うビジネスにおいて、英語と日本語の狭間で『本質』を伝えるには一体どうしたらいいのか」、・・・・・そのためには、日本語から英語、そして、英語から日本語に意訳するとき、「文化比較」(cultural comparison)という”大きな俎板”(chopping board)の上で日本語・英語における一語一語を調理し、理性的思索を試みることが必要となります。
生井利幸なまいとしゆき
生井利幸事務所代表
「ビジネス力」は、決して仕事における業務処理能力のみを指すわけではありません。ビジネス力は、”自己表現力”であり、”人間関係力”そのものです。いい結果を出すビジネスパーソンになるためには、「自分自身を…
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