ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム ビジネス

2015年05月25日

正社員とは?

今国会では、安全保障だけでなく、「労働」も大きなテーマになりそうです。議論になるのは、改正労働者派遣法ではありますが、これ単体の話で終わらせるのではなく、働き方や処遇など広く労働について議論をかわしていただきたいと思います。労働は全国民に関わる話であり、景気にも大いに影響を与え、成長戦略ともなりえるテーマでありますから、すぐに結論を出す必要はなく、国民的議論を巻き起こすようなきっかけになればと期待します。

この議論について、私は、「正社員とは何か?」を問うことが、重要だろうと考えます。

派遣社員を含む非正規雇用の人たちの割合が高まり続けており、生活不安、将来不安を抱く人が増えて、少子化、社会保障、ひいては治安などにも悪影響を及ぼしかねないと考えられ、希望する人について、正社員化(安定雇用)を進めるべきというのは、各政党おおむね一致するところです。

しかしながら非正規雇用の人を正社員にすると、企業の費用負担は、給与、社会保険、福利厚生、研修、その他の管理費など、ざっくり言えば倍になってしまいます。さらに、正社員にするということは、原則として無期限の雇用を約束するようなものなので、将来を含めた会社負担は非常に重いものになります。従って、「正社員化」は容易に進みません。人手不足感から、飲食や介護などの業種ではパートやアルバイトを正社員化するような動きがありますが、このような業種で正社員化ができるのは、そもそも正社員の給与が最低賃金に近い水準で設定されており、かつ、仕事がハードで退職率も高いため、上に書いたような大きな負担増にはならないからです。

「ではなぜ、正社員が非正規の人たちの倍ほどの処遇を受けているのか」、という疑問が沸いてくるのは自然なことです。倍の成果を出せる、倍の能力がある・・・・、はずはないでしょう。いくら考えても、納得できる理由は見つかりません。それは、正社員=身分であるからです。仕事の出来や能力などではなく、どのように入社したかという採用時に決まった「身分」で、その後の処遇・キャリアが決まってしまう仕組みだからです。氏素性で人生が決まるのは「不公平だ」「差別だ」と皆が考えますが、この正社員制度も、それに近いものがあると言えるでしょう。

原則を言えば、処遇は、仕事の能力や仕事の出来のみで評価されるべきです。「同一労働・同一賃金」は、このような考え方に基づきます。実際にはどこの職場にも、正社員よりデキるパートやアルバイトの人はいて、「同一労働・同一賃金」の考え方に従えば、給与は逆転してしかるべきです。でも、そうはならない。安倍総理は国会答弁で、「同一労働に対し同一賃金が支払われるという仕組みは1つの重要な考え方だが、さまざまな仕事を経験し、責任ある労働者と、経験が浅い労働者との間で賃金を同一にすることについて、直ちに広い理解を得ることは難しい。」と述べましたが、このような『正社員=さまざまな仕事を経験し、責任ある労働者』『非正規社員=経験が浅い労働者』という現実とは異なる建前、または無理解(無関心?)がなくならない限り、正社員という既得権益は守られ続けていくでしょう。

では、正社員という身分をいますぐ廃し、同一労働・同一賃金を法制化すべきかというと、そう簡単な話ではありません。正社員が非正規に比べて、守られた厚遇である身分であるのは間違いありませんが、一方で、担当する業務・人事異動・転勤などは会社の指示に従わなければならないし、職務と報酬について契約をしているわけではないので、周囲の状況に合わせて何でも手伝うのも役割となっていて、結果として長時間労働になってしまうという面もあります。身分を保証されるかわりに、仕事内容や働き方についていかにも不自由な状況を強いられているわけです。こういった点を無視して、身分だけ剥奪することは出来ません。

別の観点では、今のような正社員制度が、人の成長につながるのかどうか、イノベーションを生みやすいのかどうかという問題もあります。何もしなくてもクビになることがないのだから、勉強もしないし、仕事上の挑戦もするはずがない。従って、正社員制度は人や企業の成長を阻害するという考え方もあるでしょう。逆に、クビになることがない安心感によって、じっくりと腰を落ち着けて学ぶことができるし、企業側も長期的な人材育成が可能になる。また、それが求心力となって、会社のために頑張る人が増え、企業の成長にもつながっていくという考え方もありえます。この点も、議論が必要でしょう。

また、上で触れたように、あいまいな労働契約が原因で、周囲の状況に合わせて何でも手伝うのも役割となり、結果として長時間労働になってしまうのなら、現行の正社員制度はワークライフバランスの観点から問題があることになります。そもそも、日本の伝統的な年功序列型の処遇システムは、社歴や年齢とともに地位や給与が上がっていくので、仕事の価値を基準とした評価とは相容れないものであり、相当な発想の切り替えが求められることにもなります。

処遇は、正社員・非正規という区別ではなく、それぞれの仕事の価値とを合わせるようにする、という原則を共有する。その上で、現在の正社員制度について、職務(労働契約)のあいまいさ、会社の権限と社員の権利、成長やイノベーション、ワークライフバランス、日本の労働慣習といった視点から見直しを行う。問題そのものの複雑さに加え、全員に関係することなので容易ではありませんが、皆で大いに議論すべき非常に重要なテーマです。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。