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2012年07月25日

ルールが多すぎる職場で、若手は成長するのか

あるベテラン新聞記者が、「最近の新聞が面白くなくなったのは、記者がサラリーマン化してしまったことが大きい。」と言っていました。普通の会社員のように、若手記者は朝出勤してきて、締め切りまでに原稿を出し終えたら帰って行く。「私は、酒が飲めないんです」という若手も増えたらしく、先輩との付き合いはもちろん、取材対象となる人達との関係も希薄になっている。だから、情報の質・量が物足りず、視点に面白みが感じられない記事になってしまうと嘆いています。

私も以前、2年間ほど、リクルートコスモスという会社で広報をしていましたが、確かに当時の記者との付き合いは非常に濃いものでした。一緒に酒を飲むと、夜中の2時、3時になるのは普通のこと。その中で、様々な表裏の情報の交換、業界の諸問題に関する議論などを行い、そのうち、互いに敬語は使わない関係になりました。(問題点といえば、彼らの出退社時間は適当でよかったのですが、こちらは朝9時に出社しないといけないこと。飲んだ日の翌朝は大変でした…)

もちろん、朝定刻までに出社して夕方に帰ることも、酒を飲まないことも、責められるような話ではありません。今の若手記者に対して、「昔のように、毎日二日酔いになって、昼ごろに出社して来なさい」と言うことは出来ないでしょう。書くべき記事をちゃんと書いている人に、「もっと遊ばないと面白い記事が書けないぞ。もっと羽目を外さないと、成長できないぞ」と言ったって、彼らは恐らく意味が分からない。

「昔はいい時代だった。今とは違う」と言ってしまえば、その通りでしょう。また、出退社をいい加減なものにするだけで、あるいは酒を飲んで酔っ払うだけで記事が面白くなるはずはないので、遊びと仕事に因果関係があるとも言い切れません。しかしそれでも、この記者の嘆きには、私自身どこか共感を覚えるところがありますし、どの会社、どの上司も抱いている、若手に対するジレンマはこれに似ています。仕事の出来や能力と、遊びの効用との関係が上手に説明できない。ルール、決まりを守っている人に対して、なぜそれだけでは駄目なのかを理解させられずもどかしい、という状態です。

私は、職場の今昔を俯瞰することによって、この回答らしきものが見えてくるように思います。今や、ほとんどの仕事にマニュアルやそれらしきものがあります。失敗しようにも出来ませんし、出来て当たり前。工夫や挑戦をしようにも、その余地がとても小さい。職場もルールだらけになりました。「セクハラに当たるかもしれないから、ヌードカレンダーみたいなものは貼るな」、「情報モレの危険があるから、パソコンは持ち歩いてはいけない、個人情報がある資料は家に持って帰ってはいけない」「ISOを取得したから、それに則って毎日、手続き書類を記入・提出すること」「監査機能充実のためにと、あれを出せ、これを出せ、書類を揃えろ(その時期になると社内は大変です)」、「送信ミスをしてはいけないから、ファックスは2人で送る」といった、唖然としてしまう決まりがある会社もあるようです。もちろん職場だけではなく、学校だって、社会一般だって似たような状況です。

こんな中で働いて、”マジメ”にならない方がオカシイのではないかとさえ思います。遊ばないと面白い仕事もできないし、成長にも限界があるという主張は分りますが、羽目を外せない、遊べないのは、実は、制約を作りすぎた私達にその原因があるのではないか。20年、30年とかけて作り続けてきたマニュアルやルールは、確かに業務を安定的に回すこととリスクヘッジには役に立ったけれども、若手の成長にはかなり大きなマイナスになってしまっているのではないか、と考えられるわけです。

若手に活き活きと働いてもらい、面白い仕事や成長を望むのであれば、自分達が作ってきたルールとマニュアルの存在や運用を根本的に見直し、がんじがらめになった職場と仕事を解放するのも、一つの方法かもしれません。当然、それによって業務が不安定になり、リスクが高まるでしょう。その時には、本当に大切なことは何か、を改めて考えなければなりません。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

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