人材育成や組織開発に関心を持つ人たちの会議や会話を聞いていますと、依然として横文字が多いのに閉口することがあります。米国流の考え方や方法を知るのは良いことですが、盲目的にそれを賛美し、我が国の企業や職場、組織の現状を嘆くような雰囲気の会話をしているのを見ると、「ちょっと待ちなはれ」と言いたくなるのですが、その熱心さに発言を躊躇してしまうこともしばしばです。
人材育成や組織開発に関する分野の研究者の数は、日本に比べて米国ははるかに多いので、その発信量も多く、表現が上手なせいか分かりやすくもあります。数だけでなく、先行している部分があるので、研究者自身が米国にかぶれてしまっているきらいもあります。ある著名な研究者と会話をした際もそう感じましたし、その研究者のカラオケは米国の歌ばかりでした。(歌は、かぶれと関係がないかもしれません・・・。)
当然のことですが、米国企業のマネジメントをそのまま日本でやってみても、うまくはいきません。労働法が異なるというだけでなく、仕事観、会社観、やる気や喜びの感じ方、会話の仕方、競争と協調、男女のありよう等々、挙げればキリがないほど違いがあるからです。例えば、仕事は辛いものだという前提があるので、早く終えて家族と一緒にいることを優先したり、区切りがつけば長いバカンスを楽しんだりするのが普通のことだと考えるのが欧米流。しかしながら、日本の伝統的な考え方は、会社の仲間は家族のようなものであり、仕事をするのは美徳、自分の仕事が終わっても周りを見渡して助け合ったり、気遣いをしたりするわけで、欧米的なドライな働き方ではありません。かなり変わってきていますし、悪弊と言うべき部分があるのも認めますが、このように染みついてしまったものが一時に、180度変わってしまうようなことは有りえません。
冒頭に書いたような人達も、もちろんこのことは分かっているのですが、「日本企業に合うようにするには、どうしたらいいのだろう・・。」「やはり日本では、なかなか難しいしいかなあ・・・」と言って思考が停止してしまうのが残念なところ。ここで必要なのは、日本や日本人をもっと知ろうという努力ではないかと思う訳です。人事部が、自社の人事制度や研修を考える際には、必ず自社の歴史や自社の人材の特徴や状況などを踏まえるはずです。他社がやっているからという理由だけで、制度を変えたり研修をやったりすることは、普通はありません。
米国の考え方や方法を学ぶと同時に、日本や日本人を学ぶことが重要です。日本の歴史、宗教、風俗などを学ぶことによって、米国流をどのようにカスタマイズすればよいのかが見えてくることもあるでしょう。米国流を導入しても、うまくいかないことが事前に明らかになってしまうかもしれません。米国流に比べてダメだと嘆くだけではなく、どうすべきかという建設的な議論に変わってくるはずです。そもそも、現状の働き方、職場・組織には合理性があったわけで、どのような合理性があったのかを考察しなければ始まりません。そのような考察を抜きにした、強引で当てずっぽうの改革がうまくいくはずはないのです。
川口雅裕かわぐちまさひろ
NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)
皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…
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