目次
人生最大の危機を教えてください。
中東イラク取材のときに生と死の狭間に立たされたことがありました。
前線の取材中、移動のために使っていた取材車に、突然、武装組織の車が猛スピードで横付けをしかけてきました。張り付いてきた車の窓が開くと、自動小銃の銃口を向けた若者が鉄仮面の表情、血走った眼光でこちらを捕らえている。瞬時に撃たれるという感覚に捕らわれたその時、私と同乗していた戦場のガイドさんや通訳の方が宗派、言葉のアクセント、出身部族の血のつながりなど機転をきかせた言葉を口にしたことで武装した若者は銃口をおろし走り去っていきました。眼光の恐怖と研ぎすまされた瞬間的な駆け引きの緊張感が忘れられません。
その時の状況や危機が発生した原因を教えてください。
事件に巻き込まれそうになった取材を振り返ると、焦りすぎていたこと。
これに尽きます。短時間での取材を敢行しようとしていた記憶がよみがえります。現場の複数のルートの確保が足りなかったことや事件が多発していた地域であることがわかっていたのに、危機管理の認識が浅いものであったと感じます。中東独特の部族制度や宗教の規範、地域ごとの生活習慣の違い、イラクの抱える宗教・宗派へのリスペクトや礼節を身につけること、イラクという土地や血族のつながりの広さ、深さを感触として捉えることなど、情報と意識が自分自身の中でかみあっていなかったと反省しました。
危機とどのように向き合い、乗り越えたのですか?
戦場報道では共に現場で動いてくれるガイドさんの力量に頼ることがほとんどでありました。現場では外国人カメラマンである自分自身にとってその国々、地元の方々の助けをいかに確保できるのか、信頼できる取材チームをつねに保っておくことができるのかが、取材の成功の鍵をにぎる最重要項目であるといつも感じています。諸外国では取材を進めること以前にトラブルで足下をすくわれそうになることが多く、いかに信頼をおけるガイドさんや通訳の方に周辺を固めてもらえるか、その環境作りに意識を向けていました。
最大の危機に直面したご経験から、どのようなことが得られましたか?
いかなる国々であっても気持ちも体も土足でその現場に踏み込まないこと。
自分を律し、礼節を保ち、目上の方々に敬意をはらうこと。
日本で大切にされている考え方や振る舞いというものは、世界中の多くの国々でも、同じように大切に守られていることに気がつきました。慣習や文化、規律など理論だけでなく直接現場におもむき肌で感じ取ってみると、それぞれの国が持つ文化の違いよりも考え方の重なりのほうが多いことに気がつかされます。
最後に、人生の危機に直面している人へ向けてアドバイスをお願いします。
郷に従うこと。相手へのリスペクト。
日本人としての誇りと自信を保ちながらも、相手の国へお邪魔したときには、出来る限りその国の守るルールに柔らかく乗っていくことが、取材をスムーズに正確に進める入り口であると感じます。そしていかなる国であってもそこで出会った方々、言葉や物証などを紙にペンで記録として残すことも、取材だけでなくトラブルの回避や情報をつなげておく力になってくれると感じています。
メリハリ、連続性、現場主義、記録…という言葉に表すことができます。
渡部陽一わたなべよういち
戦場カメラマン
1972年9月1日、静岡県富士市生まれ。静岡県立富士高等学校 明治学院大学法学部卒業。戦争の悲劇とそこで生活する民の生きた声を体験し、世界の人々に伝えるジャーナリスト。 世界情勢の流れのその瞬間に現場…
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