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2008年09月01日

北京オリンピックを振り返って

 日本中が、人間の限界に挑み続ける人類最高のパフォーマンスに感動し、沸いた、北京オリンピックの夏が終わりました。終わってみれば祭りのあとの寂しさというのでしょうか。あんなに熱狂していた日々がまるで全て夢の中で行われていたかのようで、その記憶はふわふわと取り留めなく、心にすっかり秋風が吹いています。ハイライトシーンを見逃すまいとテレビチャンネルは常にハシゴしていたものが、今はテレビをつけたらそのまま。手にリモコンを握り締めて番組を観る必要がなくなりました。そんな日常に戻り、改めて今大会のオリンピックについて考えてみると、そこには実に様々なドラマがあり、このドラマから学ぶことが多いことに気が付きます。今回のコラムは独自の見解から観た「オリンピックの明と暗」というテーマで進めていきたいと思います。

 前段として、私自身の経験から、オリンピックイヤーは報道での取り上げられ方が例年と比べ物にならないほど激増します。特に予選や選考会などの結果が良かったり、前回のオリンピックでメダル獲得などの成果を挙げた競技と競技選手に取材は集中するという特徴があります。最近では美女アスリート特集なども頻繁に組まれるようになりました。この辺りは新しい傾向でしょうか。オリンピック本番のメダル獲得予想をされ、見る側にとってはその情報をふまえて観戦すると、より応援する楽しみが増えて面白いのですが、一方でそれによって選手はプレッシャーを感じたり、調子が悪いことを隠したりということも出てきます。選手は性格や調子の良し悪しによってその状況に対する受け止め方が違いますが、私の持論としては期待を受けるのは名誉なこと。人間生きていて、こんなに大きな期待がかかる場面は経験できるものではないし、期待を背負える位置に自分が在れることは選手として幸せだと、個人的にはそう思っています。そのためには健康であることと、「あのときこうしていれば・・・」という後悔をしないように徹底的な準備をすることが必要になってくると思います。多くの方々からの支えに対して選手が唯一その恩に報える方法は、試合での全力のパフォーマンスだと思うので。

 そんな中、国民の期待を一心に背負って結果を出したのが、アテネ以降の不振から苦悩の時期を過ごして再び王者の座をもぎ取った競泳の北島康介選手、今大会で正式種目から外れることが決まり因縁のアメリカとの決勝を制した女子ソフトボール、119試合という連勝記録が直前に途絶え、精神的にどん底の状態から這い上がった女子レスリングの吉田沙保里選手など挙げ出せば切りがないのですが、彼らの活躍は日本を明るくし、日本の自信と誇りを観る人に感じさせました。明の部分だと言えます。そして、野球、マラソン、柔道など、下馬評では金メダル必至と言われながら、残念ながら結果が振るわなかった競技が暗の部分とします。私が各競技について批評できるような立場でも、専門知識もありませんが、ただ競技者だった観点から、この明と暗の差はどこで生まれるのかを見たときに言えるのが、『綿密な試合までの精神的・肉体的シュミレーションがコーチ・監督と選手の間で一致した見解を持って進められたかどうか』ではないでしょうか?

 どの競技でも同じことが言えますが、メダルを獲得するためには世界のトップの基準をしっかりと念頭に置き、現段階の自分達のレベルを客観的に分析し、自分達の持ち味をどのように生かすとそのトップレベルに達するかなどの計画を立て、そしてそのハードな取り組みに耐えられるように地道に長い時間をかけて基礎体力や技術の強化を図っていく必要があります。そしてその次に、世界トップレベルのパフォーマンスが狙えるような準備が整えば、そこから備わった力がコンスタントに出せるよう、練習ではいつも試合の緊張と疲労とかかるストレスをイメージトレーニングで疑似体験しつつ、体力と技術が能力の限界を超える苦しい練習を自らの意志で積むという経過を経ます。それで初めて、本当にメダルが手中にできると思います。

 ここで必要なのが、客観的に選手を見つめる目。つまりはコーチや監督がその役割を果たす訳ですが、限界を超える練習と怪我は紙一重のところにあり、自分を追い込むことができる一流の選手であればあるほど、練習の強度の調整が怪我の回避に直結します。コーチは医者よりも選手の変化に敏感でなければならないことと、追い込みをかけたい時期であっても、休みを取ることが必要だと本能的に感じるところがあれば、練習内容を変える決断をしなければならない、非常に難しい役割です。進むとき、退くとき、まさにコーチと選手がその見解を一致させるべくよくコミュニケーションを取り、それは絶対的な信頼関係の上に成り立つものであると思います。私も応援していましたが、怪我に泣いた女子マラソンなどがこれに該当するのではないでしょうか。監督者の責任は、ビジネスの場でも学校教育の場でも、色々なところで共通する問題です。

 暗の部分をまた例に挙げますが、全員が素晴らしい一流のプロの選手で臨みましたがメダルの獲得ならずに終わった野球に関しては、このシュミレーションの部分で少し足りない点があったと感じました。「アマチュアのストライクゾーンに悩まされた」と報道でも取り沙汰されていましたが、ルールが違うのは想定済みのことで、プロ野球のペナントレース中に急に抜けて、一瞬集まって練習して、現地に行って・・・となると、いくらプロの選手であっても徹底したシュミレーションは立てられないと思います。頭に情報が入っていようが、実際は動けません。オートマティックな動きができるぐらい反復練習をしなければ、やはり本来の能力は出にくいと思います。今回の場合は監督の采配や能力云々問題に挙げられたりしますが、というより、大前提として、監督・選手の意思の疎通と先ほどにも述べたシュミレーションには時間がかかるもの。北京の大会日程とプロのペナントレース日程の絡みによる調整の少なさの問題も挙げられるのではないでしょうか。

 さらに個人的な想いを述べさせて頂くとすれば、野球と、私の後輩にあたるシンクロで、これから先も記憶から離れないような苦い経験、痛恨のエラーやミスをおかしてしまった選手がいます。これに対して周りは責めるのではなく、私の願いとしては、その選手自身がこんりんざいエラーをしないと決め、後にも先にも出てこないぐらい素晴らしい守備の要として球界から評されるところまで登りつめるような、また日本の顔としてチームを引っ張るぐらいの実力と技術を身につけた素敵な選手になるような、そんな気概を持ってこれからの人生を再スタートして頂きたい、そんな風に思います。一番心にしこりが残っているのは本人のはずなので、やはり同じ野球とシンクロを続けて自分自身で名誉を挽回しなければ、心に傷を負ったままになると思います。

 オリンピックは素晴らしいものでした。心が熱くなることを再発見しました。
選手の皆さんに心からの拍手をお送りしたいです。感動を有難うございました。

武田美保

武田美保

武田美保たけだみほ

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…

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