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2012年11月30日

選手が諦めそうになった時、背中を押すのは指導者の言葉

 ”モチベーションを高く保ち継続的に物事に取り組める人”、”自らの課題に気づき克服し自ら成長を遂げられる人”このような人材は、おそらくどの分野においても求められると思います。その資質を持った人を選ぼうと企業は面接試験をしたりするのですが、短時間の接点でそこまで見抜くことはなかなかできません。

 そもそも、物事を長く継続することだけでも大変です。そこに高い質の集中力を維持した状態で長期間物事に取り組むとなれば、まさにそれは人生を懸ける覚悟で当たって初めて為せる業。強い意志とたゆまぬ努力が必要です。やはり人間ですから自分一人だけでそこまで追い込める程強くはなれないので、もう一つ欲しいのが、他者からの、(例えば上司からの、リーダーからの、指導者からの、親からの)ポイントを押さえた言葉掛けではないでしょうか。それがきっかけとなり頑張る理由やその動機づけが上手くいき始め、社会から求められる人材に少しずつ変化を遂げられるのだと私は思うわけです。

 冒頭にこのお話をしたのには理由があります。先日、講演先で私が質問として頂いた内容に(経営側の立場の方から)「求める人材に育てるために、武田さんの場合はどのような言葉掛けをしているのか?あるいは自身が言葉を掛けられたのか?」というものがあったのですが、その時、実は明確なお答えができなかったように感じたのです。自分自身の経験を思い出したり、現在指導に当たっているシンクロの子供達に普段何を心がけて言葉を掛けているのか、記憶を総動員してお話しさせては頂いたのですが…話しながら「うーん。考えがまとまっていないな」と気づきました。なので、今回、改めて冷静にこのテーマについて皆さんと考えてみたいと思ったのです。

 まず、前出の”継続”を切り口にすると、自分がなぜ一つのこと(シンクロ)を長くやり続けられたのか。理由の原点は”好きである”という単純な思いからということは、講演やコラム内でもしょっちゅうお話しているので、あえて長い説明は不要だと思いますが、「好きこそものの上手なれ」の原理でひたすら取り組んできました。

好きという想いが強ければ強い程、物事への執着心も同じように強くなり、あきらめるという選択肢を選びにくくなります。そして自然と向上したいという欲求が出てきます。すると向上するための戦略を立てるようになり、なりたい自分のイメージも明確に出てきます。さらには、大きな目標に繋がる小さな目標の一つ一つが達成される度、喜びが増えていきます。この喜びの味わいは格別です。

この繰り返しによって一歩ずつ成長できたのだと思うのですが、私はある頃から、シンクロを好きや嫌いの単純な分けることができなくなってきました。さらなる高みへステップアップを図ろうとすれば、好きなだけではやっていけない厳しい現実にもさらされることになり、様々な葛藤やひたすら耐えしのぐという時期も過ごさないといけなくなりました。やり始めた頃の”好き”という感情で3、4年は過ごせましたが、第二段階に来たということなのでしょう。多くの人において、ここが継続する、しないの分岐点になるのではないでしょうか。

 実は、中学1年生で所属クラブを移籍した頃から約10年間、私はシンクロに対してむしろネガティブな感情を持っていたように思います。上手くなりたいが為に移籍を決断したはずなのですが、人間関係の複雑さや練習内容のハードさ、追い込まれ方など、心身共に今までとまるで違ったレベルを突きつけられました。苦しいことの方が多かったと思います。

そんな私の原動力になったのは”悔しさ”の感情でした。私の性格を見抜いていたコーチと母が、共に絶妙のタイミングで言葉を掛けてくれました。やる気を失いそうになっていると、コーチがすかさず「できないままで悔しくないのか?」と問いかけ、さらに「あなたにできる能力があると私は知っているから要求しているんや」と少しだけ褒めるような言い回しで自尊心をくすぐり、気持ちの糸の最後の1本を切らせず繋ぎ止めるんです。そして家に帰ると母が「あなたはなりたいイメージの何%まで今日はできたのか?」と進捗状況を自分で把握できるように質問してくれました。把握ができていると、今日はたとえコーチに怒られようが、「自分の中では昨日より向上できていたから大丈夫!落ち込むことはない!」と自信を持つことができるのです。

なりたい自分になれていない、やりたい表現が表現できていない、悔しい、私はできる能力があるはず、できるようになる為の方法があるはず、というように、あえて達成できていない無念さを自分に落とし込み、その悔しさで気持ちを奮い立たせ、その衝動で行動するという順番でした。

 また別の話ですが、自分では全力を尽くしたつもりでも、コーチに認めてもらえていなければ、それは単なる自己満足であって、相手に伝わるまでの頑張りではなかったのだと理解しました。伝わる頑張りとはこれですか!?これですか!?と、何度もトライし、本当に相手に伝わる頑張りができるようになれば、また一つ私は強くなれたんだと喜びを噛みしめました。

 言っていることがスポ根の漫画かアニメそのもののようですが、実際にやってきたことは漫画にそのままなるぐらいわかりやすいパターンの繰り返しなのです。
インテル所属でサッカー日本代表の長友佑都選手も、明治大学の最初の頃はベンチにも入れていない選手だったと聞きます。それでも腐らず、いつかチャンスが来たときに自分の持ち味を最大限に発揮できるよう考え、準備をし、ひたすらトレーニングに明けくれたというのです。さらに大学の正メンバーの試合の時には、観客席から大太鼓を小さな体を使って全力で打ちならし、誰よりも大きな声で応援されていました。何に対しても手を抜かない姿勢が、いつか実を結ぶことになるという事実を長友選手も示してくれています。

結局、私の結論としては、モチベーションというものを意識的に維持しようとしておらず、”できていないことが悔しい””このまま終わりたくない”という想いを成就するまでやると、最終的に長期間になっていたというものでした。そしてその想いを、いかに思わせるかがコーチや指導側の手腕ということになると思います。今自分が見ている選手には、これまでお話してきた自分が響いた部分を色々ミックスさせて伝えています。選手達に掛けている言葉がフィットしているかどうかこれから答えが出てくる段階なので、これまた継続が必要ですがやってみようと思っています。

武田美保

武田美保

武田美保たけだみほ

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…

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