2011年08月01日

世界5位の日本シンクロが今すべきこと

 なでしこジャパンが歴史的快挙を達成した裏で、水の中でも女の戦いが繰り広げられていたのを皆さんご存知でしたでしょうか?

 

世界水泳上海大会シンクロナイズドスイミング競技。なでしこジャパン優勝前日にスタートし、そこから7日間の日程で開催されました。テレビ朝日で大会の模様を放送して下さっていましたが、時間帯がなでしこジャパンの試合と同じく朝方(4時台)からで、しかも今大会マーメイドジャパンにはメダルが無かったとなれば、影が薄くなってしまうのも当然のことかもしれません。

 

それにしても『あきらめない不屈の精神』を身をもって示してくれたなでしこジャパンの戦いぶりは、今、まさに目の前にある困難に立ち向かっている日本の、日本中の人々の心にリンクして、本当に勇気になりましたね。胸を熱くするシーンはやはり何度でも観たくなるもの。テレビも新聞も連日その喜びを報道していました。さらにその後は、今度は自然災害。超大型で移動速度が遅く、なかなか列島を通り抜けてくれない台風6号が、各地に暴風と波浪とそれによる土砂崩れや床下浸水などの被害をもたらしました。大きなニュースが重なり、ますますシンクロの影が薄くなってしまった感じです。

 

ただ、私。実のところなでしこも台風もネットとちらっと映るモニターでしかそれを観ておりませんでした。何を隠そう、現地・上海にいたからです。久しぶりにシンクロ競技の最前線を会場で観ておりました。せっかくなので今回は、皆さんにあまり知られていないシンクロの今をレポート風にお伝えしたいと思います。

 

現在のシンクロ界の勢力図と、日本シンクロ再建のためには?

 

今回の世界水泳でその成長めざましく、最も印象に残ったのは開催国中国の演技でした。言わずと知れた話ですが、現在、中国代表監督を務めていらっしゃるのが井村雅代先生。名伯楽と謳われて久しい、世界の中でもトップ中のトップのコーチです。私の恩師でもあります。井村監督はテーマ選びや振り付けのアイデアが豊富であることはもちろんですが、なんと言っても技術を教えるのが上手い方。人を納得させる独特の技術の見せ方を熟知されており、元々、素質がある中国の精鋭の選手達(脚が長く、真っ直ぐで、つま先はまるで白鳥の首の様に伸びていて、柔軟性がある上にバネまで備わっている筋肉の持ち主)にそのノウハウを持って徹底的に鍛え上げているとなると、これまで絶対王者だったロシアも、その存在は脅威になったはずです。

 

特に井村監督が目をかけているソロテクニカルとデュエットテクニカルに出場した2人の選手が、驚くべき水面からの高さを誇り、角度がクリアで、筋肉のストレッチがよく効いていて、緩急自在にしなやかな動きと、素早い動きが切り替わり、動きのシャープさは本当に素晴らしいです。なんだか、褒めちぎっておりますが、あとは多少演技のつなぎと言いましょうか、表現などの部分が荒削りなので、今後大会の経験を積んで熟成させていけば、世界一もいよいよ現実味を帯びてくると思います。

 

印象に残ったのは中国でしたが、しかし王者ロシアは強かったです。今のシンクロ界で想定する「完璧」があるとするならば、限りなく完璧に近いのがロシアだと思います。技術面、芸術面のトータルで他を圧倒しています。構成の多様性、音の取り方も非の打ちどころがなく、推進スピードがあり、技術が正確。万華鏡のようにめくるめく世界観で演技が展開していきます。


余談になりますが、このような演技ができる背景に、ロシアならではの緻密に組まれたトレーニング方法があると聞きます。合宿中のトレーニングをメディアに公開せず、ベールに包まれている部分が大半ですが、おそらく新体操やクラシックバレエに通じるメソッドがあるようです。ヘッドコーチが新体操の選手出身で、トレーニングメソッドも、振り付けのセンスもここが起点になっていると思われます。

 

またシンクロでは水のキャッチ力を高めるために競泳の速さも重要視しますが、ロシアでトップのイシェンコという選手は、競泳の女子ロシア代表にもなれるぐらいのスピードがあり、100mの自由形を58秒で泳げるとのこと。ロシアの練習量の多さは業界内でも舌を巻くほど。普通、強くなれば量より質を問うトレーニングになってもおかしくないはずですが、シンクロ業界に関してはなぜか強豪国であればあるほど、プールに浸かっている時間が長いのは不思議です。

 

前回の世界水泳で2位だったスペイン。今回は中国の躍進に苦杯を舐めました。しかし、スペインも「よくぞここまで仕上げてきたな」という堂々たる演技だったと思います。選手の半分が若手に入れ替わり、その内部の調整が大変だったという情報がありましたが、以前の実力と技術面でも遜色なく、持ち味のダイナミックさと芸術性の高い演技で、競技というカテゴリーを超えて目を楽しませてくれたと思います。倒立姿勢やブーストアップ(水面に素早く飛び上がる技)、立ち泳ぎの高さ、そしてチーム競技ではリフトの技術の高さが際立っていました。

 

さて、日本です。前回ローマ大会と同様、オール5位でした。関係者筋の中では「元々5位狙い。留まれただけでも御の字。よく頑張った。」という声がありますが、やはり私は狙ってほしい。「メダル争いに加われる競技レベルとは?」を常にイメージして、それに到達していなければさらなる一手を考え出さなければならない、そう思います。だから、今日本がゴールに定めているものが根本的に違うのではないか?と感じてしまう訳です。

 

どうしてもOGとしては厳しい目線で見てしまうのかもしれませんが、日本の演技に、日本ならではの持ち味である『どの国よりもシャープでクリアな動きができ、同調性抜群』の部分があまり見られませんでした。小柄だからこそ、身体の細部に至るまで神経を行き届かせた動きができるはずなんです。どの国よりも素早い動きができるはずなんです。今回はロシア人の振り付け師を招いて、流れるように動きを途切れさせない演技に新しく取り組み、その斬新さと新鮮さで観客を惹きつけていたと思います。そこに本来の持ち味のキレを、クリアな動きを、自信を持ってドンと打ち出せるようになればまた勢力図も描き替えられると思います。

 

最後にもう一つ。日本シンクロは過渡期を迎えています。メダル圏から遠く離されてしまっている事態に陥っていて、その打開策として強化部は強化体制をどう引こうとしているのか?こんなことを日本シンクロの中枢から離れたところにいる私が言うべきではないかもしれませんが、距離があるから、純粋に疑問に思うことを言えるのではないかと。

 

だからその通り、純粋に疑問をぶつけさせて頂きます。今大会で井村先生の指導力の高さを世界中が改めて認めることになったと思います。なのになぜ、井村シンクロクラブの教え子が日本代表のトップ選手として入っていて、しかもその指導の実力もわかっているのに井村先生は日本代表監督ではないのでしょうか?連盟と井村先生の見解の相違があると聞きますが、今すべきことは、旧体制を排除することに躍起になるのか、選手をよりよく強化することなのか、量りにかけなくとも明白ではないでしょうか?

 

なんだかこの現状、今の東日本大震災復興に向けて何を優先にすべきかが政治にも問われていますが、重なる部分があるように感じています。もうしばらく時間がかかりそうですね・・・。