ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム スポーツ

2017年02月20日

真のチームワーク・組織力とは

我々神戸製鋼の時代、今ではあり得ない法則で、チーム力や組織力が年々向上されていった。偶然なのか意図的であるかは別にして、その方法は普通のやり方でないことだけは確かだった。

就業時間を終え三々五々集まる選手たちは、それぞれのやり方でウォーミングアップを始めグランドに出る。激しいぶつかり合いをする人もいれば、体にサロメチールをただ塗りたくるだけの人もいた。現代を思うとコンディショニングなんて言葉のかけらもない時代であった。

いずれ練習時間に近づくと各々がグランドに出て、タッチフットと呼ばれるタックルのないゲームを始める。このゲームは名の通りタッチがタックルやコンタクトプレーの代わりになり、パスやスペース認知を高めるために行うものであるが、ほぼ全員の選手たちが集まり体がほぐれるころには、ほんの些細なことにも一歩も引かない負けず嫌いの選手たちは小競り合いを始めだすのである。

当時監督制を廃止した我々のチームはキャプテンを中心に全体がオーガナイズされるが、いざプレーが始まるとキャプテンはリーダーである前に選手に戻り、その秩序をコントロールするものはもう誰もいない形となる。それぞれにたまるフラストレーションはじきにピークに達し、子供女性が行うのには適切なゲームは公式戦をはるかにしのぐ緊張が走るものとなる。

プレーやルールの解釈に小競り合いが始まり、自分の腹いせを周りにあてつけたり、プレーの度合いにいちゃもんをつけたりと、特に百戦錬磨の上級者が大人気もなくその意地の張り合いに必死になる。新人たちも最初は驚いているが、徐々にこの戦いに選ばれし自分の血に目覚め、時間を追うごとにグランドの空気感は異様なものとなる。

結局大半のトレーニングはこの意地の張り合いで、最終的には口論から殴り合いが始まり、「やってられるかこんな練習!」とそれぞれの派閥に別れ帰りだす始末である。それぞれの軍団はお決まりの店で他の派閥をネタに酒を飲み、次の練習の時には必ずあいつをやっつける的な話で盛り上がるのである。

ラグビーのチーム力は試合が5分も進行すると、おおよその相手との実力の差を肌で感じ取ってしまえる。ただ、楽に勝てると思うゲームには自分たちとは違うジャッジメントなどで、点数差が開かず苦戦を強いられたように映るゲームも案外多いが、100回やって100回負けることはないといっても過言では無いほど実力の差は明白にわかるものである。

全盛時代の神戸製鋼は2チームほどの相手を除き、まず負けることを感じて試合をすることがなかった。実力に差があると感じると練習同様それぞれの選手は派閥で主張を繰り返し、殴り合いこそ迄は始まらないが、敵と戦うというよりは味方と争い後味の悪い試合がほとんどであった。

しかし、そんなメンバー達も、一つ間違うと負けるかもしれないという試合になると、それぞれがまるでそれまでの関係がなかったかのように、その日の朝からは空気感をまるで変えるのである。最初はその変貌に驚いたが、地球上で国々が戦争を繰り返していたところへ宇宙からの侵略者が来て地球対宇宙となったようなもの、とでも例えるのが一番ふさわしいかもしれないその力の矛先を全員が一点に向けた時は、そのエネルギーの強さが重なり入り混じり大きなうねりとなる。もう誰にも止められない調和とバランスをぎりぎりで保ち、すべての動きが止まって見えるほどの感覚に包まれるのであった。

ゾーンという言葉があるが、そのイメージがこの状態を示すのであれば、それは偶然ではなく意図的に作ることができる、そんな経験を私は7年間もの間体験することができた。

チーム論や組織論とは成功者達が事例として語るものであって、個別の人々が集まる集団にとっては一つの事例にしかすぎない。チームや組織力を向上させるには、勝負の先にある敗北の恐怖にかられ、個々がチームの目的に向かって考え行動し、お互いが主張を繰り返し、これでもかこれでもかというほどに勝負にこだわり取り組むことであって、チーム論や組織論は最初に掲げるものではないように私は思う。

大西一平

大西一平

大西一平おおにしかずひら

プロラグビーコーチ

1964年生まれ。 大阪工大高で花園優勝。高校卒業後1年間ニュージーランドへラグビー留学。明治大学時代には3年時全国大学選手権ベスト4、4年時にはキャプテンを務め全国大学選手権ベスト8に導く。その後…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。