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コラム 政治・経済

2021年10月11日

21世紀、EUの大いなる戦略を読み取る

近年EU(欧州連合)は、世界に向かって様々な厳しい政策を主張しています。今回はこのEUの戦略について私の思うところを述べます。なお、文中で欧州を経済的な意味で捉える場合はEUと、文化的な意味で捉える場合はヨーロッパと表記します。

京都議定書に組み込まれていたカラクリ

私自身がEUのしたたかな戦略を始めて感じたのは、1997年に京都議定書が結ばれたときでした。京都議定書では、国ごとにも温室効果ガス排出量の削減目標を定めており、1990年を基準にEUは8%、米国は7%、日本は6%の削減を約束しました。1997年に締結した議定書で、基準年を1990年にしたことがEUの最大のカラクリでした。

この削減目標を聞いたとき、私は思わず心の中で「えっ」と叫んでしまいました。2度のオイルショックを経験した日本は1990年以前に、徹底的に省エネやエネルギー転換を行いました。エネルギー転換とは発電などにおいて、燃料を石炭などから天然ガスに替えることです。こうすれば二酸化炭素の排出を約45%削減できます。京都議定書が策定されたときには、日本が温室効果ガスを削減するのは、乾いたタオルを絞るようなことでした。

一方、EUにおいては良質の石炭が豊富に賦存していますので、石炭燃料が盛んに利用されていました。しかし、1990年頃には天然ガスの産地からEU域内にパイプラインが多数敷設され、石炭から天然ガスへのエネルギー転換が進みます。

京都議定書の約束の履行において、日本は6%削減を達成するために四苦八苦します。産業界に大きな負担をかけるとともに、莫大な資金で外国から排出権を購入し、数値合わせに努めました。その結果、日本は約束の守れない国、お金で帳尻を合わせる国というイメージを国際社会に与えることになりました。なお、米国は早々に京都議定書から離脱しました。このような状況の中、EUは左団扇で目標を達成しており、まさに京都議定書の優等生となりました。

なぜこのような結果に終わったかと振り返りますと、当時の日本の政治家と京都議定書を主導した環境省、外務省において、温暖化対策に関わる知識や情報、さらには分析力を十分に持ち合わせていなかったということが最大の原因だと思います。一方、当時の通産省(現経産省)は、京都議定書は日本経済に大きな負担をかけ、結果日本国民は苦しむことになると懸念を示したと言われています。

EUの厳しい環境規制は経済的・政治的優位を目指す

現在、世界経済はグローバル化しています。その中で、各国もしくは各経済圏で理想的な貿易体制は、自分たちの製品が外国に輸出することができ、逆に外国からの製品は締め出すことです。これは一種の保護貿易主義になり、自由貿易が推進されている現代では咎められることです。

しかし、各国や各経済圏では様々な手段を使って経済的に有利な立場を築こうとします。EUでは2000年代になり、次々と厳しい環境規制を実施してきました。化学物質規制のREACH法、電子・電気機器における特定有害物質の使用制限するRoHS指令、使用済み自動車やそのコンポーネントの再利用や再生利用を義務付けたELV指令などです。

米国などはEUの厳しい環境規制は世界経済の腰を折ることになるのではと、機会あるごとに指摘してきましたが、EUは全く意に介せず今日に至っています。

ISO規格とSDGs

品質管理規格のISO9001シリーズ、環境管理規格のISO14001シリーズなどを定めた国際標準化機構(ISO)は日本でも大変有名です。ISOの本部はスイスにあります。ISO9001シリーズ、ISO14001シリーズを取得した企業が一番多い国は日本です。米国の取得企業は日本の半分程度です。GDPで比較した米国の経済規模が日本の4倍程度であることを考えますと、単純な比較になりますが、米国企業のISO規格取得の熱心さは日本の8分の1程度と考えられます。

ISOの管理規格は企業の取り組む姿勢や手法を判断して認証されます。例えば、環境分野で排水中のある有害物質の濃度を一定の数値以下にしなさいということではありません。このようなISOの管理規格の考え方は、米国企業にとってはあまり意味のないものと考えられるのでしょう。

数値などで表される実質的な成果を求めず、取り組む姿勢や手法を評価する考え方は、極めてヨーロッパ的と言えます。これはヨーロッパの伝統文化の一端を担う王室、貴族文化の表れかもしれません。

今、日本でもSDGsが官民をあげて推進されています。このSDGsの目標は数値で表せるような具体的基準をクリアしなさいというものではありません。SDGsはISOと同様に、ややもすれば漠然としたものでありますが、定められた方向に行動することが評価されます

SDGsに関しても、ヨーロッパは大変熱心に取り組んでいます。しかし、ヨーロッパ以外の多くの国は、ヨーロッパ程に熱心ではありません。毎年国連は各国のSDGsの取り組みに対して、その達成度を評価して発表しています。最新の2021年の評価を見ますと、1位から20位までは18位の日本を除いて総てヨーロッパの国々です。米国は32位、ロシアは46位、中国は57位です。SDGsもやはり、ヨーロッパ的な発想の活動と言えましょう。

過激思想が現実の政策に、カーボンニュートラル

カーボンニュートラルは日本でも強力に取り組まれています。カーボンニュートラルは2050年までに二酸化炭素の排出をプラスマイナスでゼロにすることです。温暖化対策としては極めて過激な手段と言えますが、カーボンニュートラルもヨーロッパ発の考え方です。

省エネだけでは二酸化炭素の排出をゼロにすることはできません。航空機や船舶、大型自動車は石油系の燃料を使うしかありません。二酸化炭素の排出をプラスマイナスでゼロを実現させるには容易ではありません。

カーボンニュートラルの発想はノルウェーから出されました。ノルウェーは人口約5百万人の国で、経済・産業はドイツ、イギリス、フランス等の大国に依存しているのが実態です。自然豊かなノルウェーだけならカーボンニュートラルは実現可能かもしれません。しかし、今やカーボンニュートラルは世界の重大な政策となっています。

最近、温暖化対策として二酸化炭素の排出の多い石炭火力の規制が世界の趨勢となっています。日本もその対応に一部で混乱もありましたが、政治的にはヨーロッパに足並みを揃えようと努めています。なお、途上国がこれから発展するためには電力が必要で、現実的には当面は少量発電も可能な石炭火力を使わざるを得ないことと思われますが、カーボンニュートラルにからめて、ヨーロッパから世界に対して圧力が続くことでしょう。

ヨーロッパの戦略と日本

EUには27ヶ国が加盟し、総人口は約4億5千万人です。中国に比べて人口は約3分の1ですが、国内総生産GDPは中国よりやや少ない程度です。EUが発足して、特に経済統合が進んだ結果、EUは国際社会の中で大きな力を持つに至っています。

そもそも、ヨーロッパは20世紀の初頭までは世界の中心でした。今、EUによる経済統合が実現したヨーロッパはかつての栄光を取り戻そうとしているようでうす。ヨーロッパの戦略の背景と深層を知るためには、ヨーロッパの歴史や文化について十分な知識を持たなければなりません。

さて、ドイツを中心としたEUは、高い品質の製品を生産し、また設定した厳しい環境基準をしっかりと守ることができます。このようにEUは吐出した生産能力を持っていますので、国際社会の様々な場でEUに有利な主張を行っています。他国にとってはEUからの圧力でありますが、EUにとっては優位性の確立に結びつきます。

米国や中国も含めてほとんどの国は、EUの環境規制に付いていけるほどの技術力も国民文化も持ち合わせていません。ただ、日本はドイツ並みの高い産業技術力や環境対策能力を持っています。さらに日本はSDGsやISO規格など、取り組む姿勢などが問われる活動も官民をあげて熱心に取り組む文化を持ち合わせております。

カーボンニュートラルもいずれは、「実現は不可能であるが、それに向かって努力することに意味がある」とか、「貯蔵や輸送にも優れているガソリンなどの化石燃料はやはり当面使って行こう」という風になるのではないかと予測する人もいます。一方日本では、カーボンニュートラルと言いながら、温室効果ガス全体のプラスマイナス・ゼロを目指そうと、EU以上にかなりのめり込んだ政策を打ち出しています。メタンや亜酸化窒素の排出の削減を行う事は容易ではありません。

日本の今後の戦略としては、EUに歩調を合わせて進んでいくのか、ときに非現実的と思えるEUの主張に一線を画して、米国や中国などと地に足の付いた現実的な道を歩むのか、今冷静かつ的確に判断することを期待いたします。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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