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2013年03月08日

中国人の行動原理を読め!それが日中ビジネス成功のカギだ。

この連載も最終回を迎えた。私は日本再生の「ヒントは北京にあり!」と言い、現地からこのコラムを通じて情報を発信してきた。この間、日本と中国との関係はかなり変化してしまった。日中関係は”悪化した”というより”複雑化した”と言った方が適切だと思う。何かの原因で悪化しただけなら、また関係が元に戻る可能性もあるが、昨今の日中関係の変化は、中国自身の振舞いの変化が微妙に関係している。もちろん日本側も良い意味で変わらなければならない。日中関係は、根本的に構築し直さなければならない時期に来た。

現在、世界経済における中国の影響力の大きさは言うまでもない。しかし私は単純に中国が大国だから、中国市場が巨大だから中国を重視すべきだと言っているわけではない。これまでのコラムにも書いてきたように、日本と中国は過去数十年、経済的・文化的な結びつきが強まり、今では普通の日本人が想像している以上の緊密さになっている。今や中国国内のどこに行っても日本人が関係している事業を見つけることができる。公的な活動以外の個人のボランティア活動なども驚くほど多いのだ。日中の経済的な結びつきは、好きとか嫌いとかの感情を超えており、中国は避けて通ることができない相手になっている。

実は中国政府はこのことにすでに気づいており、対日関係を今後どのような位置づけにしていくかを現在真剣に模索している。一方の日本はどうか?私は、日本側は両国関係の将来を考えることの真剣度が足りないと感じている。日本にいる中国専門家は、中国の政治や経済、社会の問題を指摘し解説することには長けている。現地にいる私でも日本にいる彼らの分析はそれなりに的を得ているとは思う。しかし少なくとも経済・社会的にこれだけ緊密な関係になった中国について、もっと深く理解しようと努力する人は多くない。

話は少しそれるが、私は「Billion Beats ~日本人が見つけた13億分の1の中国ストーリー~」という日中交流コラムで、「カイシャの中国人」というシリーズを執筆している。これは私が上海と北京での実際のビジネスの現場で遭遇した中国人の行動原理について、日本人の観点から分析したコラムである。ここでは、中国人社員の公私混同、報連相、コンプライアンス、顧客サービス、現地化などに対する考え方から、結果主義、罰金制度、トップダウン、アポイント、食事、不動産など中国特有の文化に基づく行動までを具体的に例示を上げて分析している。北京のある日系企業では、このコラムをコピーして社員に配布していただいたと聞いた。

ビジネスの世界では、事業戦略を練り上げるために取引相手を徹底的に理解しなければならない。ところが日本には中国の政府構造や社会ルールについてマクロに語った解説は山ほどあるが、”ビジネスマンとしての中国人”の行動原理をミクロに分析したものはあまりない。手前味噌になるが、私の上述のコラムでは、中国人がビジネスシーンにおいて「なぜそのように行動するのか」を日本人の物差し(例えば現地化、コンプライアンス、公私混同など)で分析してきており、これらは中国ビジネスを考える上で、我々がこれまで理解してこなかった視点ではないかと思う。

中国政府がこれだけ法律が整備され自身を「法治国家」と謳っていても、中国がいまだに「人治の国」であることは間違いない。例えば中国の個々のビジネスの現場においては、契約内容や世界の商慣習を持ち出しても相手は聞いたふりをするだけである。彼らは彼ら自身の考え方、発想に立脚して物事を進めていくのである。経済大国化した現在、この傾向はますます強まっていると感じる。

従って、日中ビジネスにおける中国政府や企業との交渉の場で、相手の中国人が「なぜそのように考えるのか」を理解することは極めて重要なことになる。実は、これが理解できるようになれば、中国とのビジネスは意外とやさしいということがわかる。中国人のビジネスに対する考え方や彼らの行動原理はとてもシンプルだからだ。

例えば中国人は、自分が必要であると思えば物の市場価値を超えてカネを出す。またトップがいったん決断すれば、部下たちはそこで思考を停止して商談を進めてくれる。中国においては宗教的な縛りは何もないし、また契約書にあるなしに関わらず約束したことは意外と守ってくれる。だから「相手がなぜそう考えるのか」を理解しさえすれば、こんなにビジネス環境が優れ仕事がやり易い国は、世界の他のどこにもないと思う。

私は中国で約9年、日中間のビジネスや交流に関わってきたが、何十年も経験している多くの諸先輩に比べればたった9年に過ぎない。しかし私は幸い、政府トップから庶民に至るまで多種多様な中国人に接する機会を得ることができた。だから私は、皆さんが中国ビジネスにおいて何か隘路に陥ったとき、「彼らがなぜそう考えるのか」とか、「誰に会ってどう言えば事態を打開できるか」などを適切にアドバイスすることができる。そしてこのことが「日中ビジネス」の成功の大きな鍵なのである。

「アベノミクス」は順調にスタートを切ったように見える。しかしこと対中戦略に関して言えば、まだまだ闇の中である。日本企業は、日本政府の煮え切らない行動を座視していては何も得られない。

「目覚めよ、日本!」。中国はまだまだ”儲けどころ満載”の市場だ。繰り返すが、中国市場におけるビジネスのロジックそのものはかなり単純なものだ。ビジネスの方向性は、政府の経済政策を見ればすぐわかる。だからあとは取引相手である中国人の発想や行動原理が理解できれば、中国ビジネスの勝者になることはそれほど難しくない。日本企業はもっとしたたかになろう。そして中国で大いに儲けさせてもらおうではないか。

松野豊

松野豊

松野豊まつのひろし

日中産業研究院代表取締役

1955年大阪生まれ。京都大学大学院工学研究科衛生工学課程修了。株式会社野村総合研究所経営情報コンサルティング部長を経て、2002年に野村総研(上海)諮詢有限公司を設立(野村グループで中国現地法人第1…

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