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コラム 政治・経済

2012年12月10日

日本経済を卑屈に語るのはやめよう

日本でも同じだが、中国でも日中関係の悪化に伴って日本との経済関係を再評価する動きが出てきている。前駐中国大使の丹羽氏が離任時の記者会見で「中国経済が日本企業なしでもやっていけると考えているとしたら、それは少し傲慢な考えだ」と述べたと報道されている。しかし逆に中国では、「丹羽氏が日本企業が中国市場なしでもやっていけると考えたら、それは日本の傲慢だと語った」とまったく別のニュアンスで報道されていた。

しかし実際、中国政府や中国人ビジネスマンがこのところ、ますます日本経済に対する関心が薄くなってきているのは事実で、日本経済を極めてネガティブに捉える人が多くなっている。筆者が思うに、日本のメディアはだいたい自国をネガティブに語り過ぎる。政府や社会を批判することがメディアの役割のひとつではあることはわかるが、普通の中国人にはそのことは当然、理解できない。

もうひとつ中国人に日本経済を誤解させている大きな原因がある。それは、中国にやってくる日本人専門家の発言である。例えば日中間のシンポジウムや会社同士の会合などにおいて、彼らは日本経済の現状を中国と比較して見せ、その差を滔々と語ることが多い。日本側の講演者が相手を気持ちよくさせ、ビジネスを成功させたい気持ちはよくわかる。しかしその結果、それを聞いたほとんどの中国の人は、改めて日本が「沈みゆく国家」だと再認識してしまっていることにみんな気がつかないのだろうか。

中国政府やビジネスマンは今、日本という国をこう認識している。「日本は不景気で、車や高級品などは全然売れない」、「日本は経済状態が悪いため、みんな暗い生活を送っている」。日本人には、物事を謙虚に語ることで相手の尊敬を得たいと思う習性がある。しかし国際社会、特に中国のように国際ビジネスの火花が散っている現場においては、こういう言動は相手を誤解させるだけで何のプラスにもならない。むしろ日本とビジネスをすれば、自分たちにメリットがないと確信されてしまうのだ。

GDPは一国が年間に生み出す富の総和だ。例えば日中比較をする場合には、伸び率ではなく過去40年ぐらいのGDPの絶対値を棒グラフで表してみればよい。そうすれば日本の過去の「富の蓄積量」が中国を圧倒していることがわかる。日本のGDPは、量こそ増えてはいないが、かといって激減しているわけでもなく、毎年なお500兆円近くの絶対量を生み出している。またこの低迷する経済下にあっても日本の経常収支は黒字、つまり日本の「国富」はまだ増加しているのである。敢えて日本を自慢する必要はないかもしれないが、外国にやってくる日本の専門家はもっとポジティブに自国経済を語って欲しいものだ。

ところで筆者は、中国人専門家も中国経済のことを意外に知らないなと感じる。それは中国では自国の経済や社会データの公開度が低く、分析に値するデータが入手しにくいことも原因だろう。中国経済の状況は、世界のデータと比較して分析できる日本人専門家の方がむしろよく把握できているとも言える。だから日本の専門家は、かつての世界経済における日本の経験も活かして現状を”正しく”伝えることもできるのだ。

中国のある政府研究機関で我々はバブル期の日本の銀行経営について語ったことがある。そこで「1989年、世界の銀行資産額ベスト10」の表を見せた。驚くなかれ、当時1位から6位までは全部日本の銀行だったのだ。講演会場はその時一瞬どよめいた。

もっとも最近は、中国人にも格差を助長する経済成長に疑問を呈する人が増えてきた。習近平政権には、経済成長でこれ以上富を増やすより公平な社会の実現を目指して欲しいという声も高まっている。中国は「富める者だけがますます富む」という社会になってしまった。中国もそろそろ”宴の終わり”への準備を始めなければならない時期に来たと思う。

筆者がよく冗談で「日本は世界で最も成功した社会主義国家だ」と言うと、中国人はみんな妙に納得する。日本の社会福祉制度ももちろん問題が多い。しかしこんなに政治が不安定でリーダーが不在でも、日本は世界の中では相対的に「安定した社会」を形成できているということに我々はもっと誇りを持ってよい。だから我々は日本経済を卑屈に語るのはもうほどほどにすべきだ。そして時々あのバブルの頃の”華やかさ”も思い出そう。若い人は定年間際の先輩にその頃の話を聞いてみるとよい。きっと彼らは喜々と語ってくれるはずだ。

松野豊

松野豊

松野豊まつのひろし

日中産業研究院代表取締役

1955年大阪生まれ。京都大学大学院工学研究科衛生工学課程修了。株式会社野村総合研究所経営情報コンサルティング部長を経て、2002年に野村総研(上海)諮詢有限公司を設立(野村グループで中国現地法人第1…

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