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コラム 政治・経済

2012年08月10日

日本企業は、中国でどう儲けるか(その3:「技術の産業化」にチャンスを見出す)

第1回に書いたように、中国はこれから労働人口減少の時代に入り、急速な老齢化も進む。だからGDPをこれまで通り成長させていくためには、産業自体の付加価値を高めていく必要がある。つまり同じ労働量や生産活動でより多くの価値を創出していくようにしなければならない。例えばハイテク製品を取り上げると、製造プロセスにおいて最も付加価値が大きいのは製品の設計部分であることが多く、そこには知的財産が濃縮されている。今をときめくスマホのiPhone。いったい誰が儲けているのかをみればこのことは明らかだ。

要するに、人様の設計したものをただ製造したり販売するだけでは価値は低い。儲けの源泉は製品のコンセプト開発力なのだ。中国の製造業は総じて言えばこうした自主技術が少ない。だから中国の産業政策で最も重要でかつ喫緊なテーマは、中国オリジナルな技術を生み出していくことにある。これを中国では「自主創新」と呼び国家戦略にしている。

しかし現代中国は、農業を主体とする社会主義国家としてスタートしたこともあり、どの産業も歴史は浅く自主技術も少ない。そのような中で近年急速に経済発展を遂げているわけであるから、産業界も短期志向で研究開発に時間とお金をかけようとはしない。それはそれで大きな問題ではあるのだが、中国は自主創新戦略を進めるにあたり、これまでの先進国とは違った手法を考えついた。それは「再創新」と呼ぶ独特の研究開発手法だ。

中国のめざす「再創新」とはこうだ。まずは国内の巨大な市場を背景に海外からの技術導入を促進する。そしてこの導入した各技術を独自に改良することで、中国市場に適したものに再編成していく。これができる背景は、何といっても技術を適用するフィールド(市場)が大きいからだ。中国の「再創新」手法は大きく分けて3つある。「改変」、「組合せ」そして「リスクテイク」だ。

例えば海外から導入した電気自動車の技術を耕運機用に「改変」する。乗用車に適用する技術要件を緩めたり、グレードを落としてそこそこのスペックに「改変」することで技術の適用範囲を広げることができる。また中国は全国に経済技術開発区と銘打たれた地域が数多あるが、ここに先端環境技術を集積させて環境都市を創る。まだ世界のどこにもないような理想都市をいわば社会実験方式で実現を目指すのだ。このケースでは海外から導入した各種先進技術を「組合せ」ることで中国が主導権を握ることができる。さらに海外では倫理規定などがあって実行しにくい分野、例えば再生医療の実験・治癒などを思い切って行い、臨床例を集めて新たな知見を生み出す。これが「リスクテイク」手法だ。

中国は人口も多く、多くの海外留学組もいるので、技術人材はとても豊富だ。だから情報技術のようにひとりふたりの天才がいれば牽引できる産業分野では、すてに世界の先頭を走っている。しかし大型設備産業や工作機械、精密機器などの複雑なシステム技術分野は、過去の技術蓄積や材料や加工技術などの周辺産業のレベルアップも必要なので、中国がこれらの技術をオリジナルからすべて開発する人材や技術基盤はまだまだ乏しいと言える。

では中国におけるビジネスチャンスは何か?それは技術そのものよりも「技術の産業化」にある。日本企業は現在でも、中国への技術移転にはどちらかといえば慎重である。それは移転した技術がその価値に値する、つまり投資回収ができるまでの収益に至らないまま、相手方に渡ってしまうケースが多いからであろう。

しかし、上述のように中国の自主創新の目的は、技術を取り込んだ後、中国でその技術を産業化し自国の価値にしていくことにある。例えば昨年の中国温州での追突事故で話題になった高速鉄道も、日独仏などから基幹技術を導入した後、独自に改良を加えて高速化したものだ。そして中国で運用実績を積み上げて鉄道技術を産業化し、将来は中国の鉄道技術として世界に輸出しようとしている。

ここにビジネスのヒントがある。すなわち、日本はこれまでのように技術そのものの売買やライセンス供与をビジネスにするのではなく、技術を中国に持ち込んで「自ら産業化する」ことを目指せばよいのではないか。技術の産業化ノウハウは日本企業の大きな強みである。著名な経済学者で中国政府のご意見番でもある呉敬璉・国務院発展研究センター高級研究員は、中国の技術開発の課題として、技術の産業化率が低いこと、政府の関与が強すぎることをあげている。

日本企業にとって「技術を中国に持ち込んで自ら産業化する」ことが容易ではないことはわかる。このアプローチは技術ライセンスビジネスよりは大きな投資を必要とし、市場をつくっていくため多くの人材投入を必要とするだろう。しかし前回の「省エネ・環境都市実現の請負い」で指摘したことを思い出していただきたい。中国の現状をよくみれば、日本のビジネスチャンスが日本の人材活用にあり、ここで述べた「技術を産業化」するといういわば技術サービス分野にあることがわかる。

松野豊

松野豊

松野豊まつのひろし

日中産業研究院代表取締役

1955年大阪生まれ。京都大学大学院工学研究科衛生工学課程修了。株式会社野村総合研究所経営情報コンサルティング部長を経て、2002年に野村総研(上海)諮詢有限公司を設立(野村グループで中国現地法人第1…

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