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コラム 政治・経済

2013年02月05日

経営を革新するということ

最近、あのアップルが変調を来している。iPhoneが思ったほど売れずに、部品の発注を半分に減らしたという報道が流れ、株価は急落した。アメリカで開かれたコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)でも、アップルは出展こそしないものの、「影の主役」と言われていた。iTVをいつ発表するのか、それはどのようなものか、関係者が気にしていたのはまさにそこだったからだ。

アップルは世界で最もイノベーティブな会社と言われている。1995年には潰れそうだった会社である。その年に発売されたWindows 95は、パソコンの世界を変えるとされ、世界はWindows一色になっていた(アップルのパソコンは一部で支持されていたに過ぎない)。

そのアップルに故スティーブ・ジョブズが戻り、iMac、iPod、iPhone、iPadと立て続けに発表して消費者の目を奪ってきた。そして株式時価総額で世界一の会社になったのである。

パソコンの世界からスタートしたアップルだが、今はより多くの人々にデジタルの新しいライフスタイルを提供してきたということだ。新しい製品を出すたびに、新しい喜びを消費者に与えてきたからこそ、アップルという会社がそこまで成長してきた。

振り返って日本のメーカーを見てみる。今年のCESで日本メーカーは4K(画面の細かさが4倍になる)に集中していた。現在のハイビジョンを超える高精細テレビである。たしかにテレビが美しいに越したことはないかもしれない。4Kの次には早くも8Kというのがあるのだそうだ。

しかしそれが本当にあるべき姿か、というとちょっと首をひねってしまう。従来のアナログテレビからデジタルテレビに変わったとき、画面の美しさは目を見張るものがあった。ビデオテープからDVDに変わったときも同様である。しかしDVDとBDの差はどうだろう。たしかに見比べればはるかにBDが美しい。しかしそれではBDのコンテンツがどんどん出てくるかというと、DVDが登場してきたときのような勢いは感じられない。

つまりは経済学で言う「収穫逓減の法則」が働いている。そうすると、画面の精細度を突き詰めていくよりも、他のことを考えるほうがはるかにコストパフォーマンスがいいのかもしれない。ソニー出身の技術者が考えたのが、画像処理を行うことで、本来ピントが合っていないところでもくっきりと画像を見せる技術だった。それは見事なものに見えたが、商業的に成功するかどうかはわからない。ただ従来の延長線上ではないイノベーションこそ、今後の日本を救うかもしれないということだ。

しかし問題が一つある。従来の経営組織で考える限り、まったく目先の違うイノベーションは生まれにくい。経営トップは、従来の経験で判断をしがちだからである。新しい発想に対して、とりあえずやってみなさい、というほど寛容な経営者は少ない。とりわけサラリーマン経営者ではそうだ。自分の時代に失敗したくないというのは共通している。だから創業者が経営する会社が伸びる。かつてのホンダやソニー、そして今の楽天やユニクロがその例だ。そして大企業になればなるほどサラリーマン経営の落とし穴が口を開けて待っている。

これを変革するのは大変だ。何とか自分たちの縄張り(社外的にも社内的にも)を守ろうとするメンタリティそのものを変えなければならないからである。失敗したくないというメンタリティは、横並びなら失敗しても言い訳ができるというメンタリティにつながる。だから競合他社の動向に目を配るが、新しいことは始められない。そして従業員の自己判断を奨励しない組織になる。こうなると官僚組織の論理と同じだ。それがいかにイノベーションに向かないか、日本の政府を見れば分かるだろう。

その意味では、イノベーションがいちばん必要なのは、経営トップのメンタリティだと思う。トップがそこに気づけば、潔く身を引くこともできるだろうし、イノベーティブな社員を抜擢することもできるだろう。もし経営トップがそこに気づかなければ、その会社は「経営者リスク」を抱えた会社であると言われても仕方があるまい。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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