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コラム 政治・経済

2012年02月05日

財政の長期展望を

前回のコラムで、今年は「先楽後憂」の年かもしれないと書いた。欧州発の金融恐慌になる可能性もまだ残っているが、日本には取りあえず「復興需要」と「復興予算」があるのでそれで一息つくだろうということだ(金融危機が拡大すれば、一息つけるかどうかすら危うくなる)。

しかしどう考えても、それで日本経済が立ち直るということにはなるまい。第一、いまだにデフレから脱却できないでいる。いまだにGDP(国内総生産)の3.5%前後に達する需給ギャップがあり、個別の品目で値上がりすることはあっても、全体としては価格下落圧力が残っているからだ。

それに加えて、政府の借金はかさむばかり。2012年度予算でも44兆円(実質は46兆円)の国債発行が見込まれている。GDP比で見れば、いま問題になっている欧州諸国(ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペイン、ギリシャなど)よりもはるかに高く、先進国中最悪である。

さらにこれまで貿易の黒字、そして海外で積み上げてきた投資が生む利益(所得黒字)で稼いできた構図が、変わってきた。2011年の貿易収支が赤字になって、今後はこの傾向が定着すると見られているからだ。ただ海外にこれまで投資してきた金額が膨大であるため(日本は世界最大の債権国でもある)、所得収支が大幅な黒字。年間で14兆円前後もあるため、多少の貿易赤字ならそれを補って余りある。

日本の国際収支がなぜ注目されているのか。国債や地方債の発行残高が巨額になっているものの、今のところまだ国内で消化されている。つまり日本の国民が政府や地方公共団体に貸しているという状況だ。欧州諸国の場合は、国内の貯蓄が十分でないために、海外の金融機関に国債を買ってもらっている。そうなると海外の投資家に国債が売られて、結果的に資金繰りがつかなくなる(国債暴落、長期金利の上昇)可能性が生まれてくる。だから日本の国際収支が赤字になると、国債の相場が暴落する懸念があるということだ。

国際収支全体が赤字になるのかならないのか、これはエコノミストの間でも意見が分かれている。2010年代半ばという見方もあれば、まだ10年は大丈夫という人もあり、まだまだ長期的に大丈夫という見方もある。どの見方を取るにせよ、重要なことは現在のような国の借金は持続可能ではないということだ。

野田総理が「増税一直線」と言われながらも、不退転の覚悟と決意を示すのはそのためである。問題なのは、現在の政府与党の消費税引き上げだけでは、財政を再建するにはまったく不十分なことだ。消費税5%分で税収は約10兆円(国税分)だが、いわゆる基礎的財政収支でいえば、現在でも23兆円前後の赤字。増税だけで賄おうと思えば、消費税をさらに5%以上上げなければならない。

民主党はようやく消費税をさらに引き上げる可能性について言及している。しかし、いま必要なことは、5年先、10年先を見据えた財政再建の道筋を明らかにし、財政再建目標を数値で設定することだ。もちろん増税だけでなく、歳出カットをどう進めるかを明確にすることも必要だろう。議員定数削減も公務員の給与引き下げもほんの入り口である。支出額の大きさから言っても、社会保障そのものにどう切り込めるのかが最大のテーマである。

ただ社会保障の給付引き下げは政党にとって極めてハードルの高い課題。民主党はもちろん自民党もそこはなかなか言い出せまい。実際、自民党は年金のマクロスライドを物価が下がっている時期に適用できないまま、7兆円というカネを使ってしまった。ようやく是正されることになったが、それでも民主党は老人医療費などについては及び腰だ。

増税の上に、社会保障給付の引き下げでは、国民は踏んだり蹴ったりだと思うかもしれないが、そこまで踏み込まなければ現在の精度を維持できない。そこまで見えている以上、やはりわれわれ国民も覚悟が必要だと思う。そこのロードマップが見えないと、老後が心配な世代は消費をせず、いつまでも需給ギャップが埋まらないままに、ずるずると日本経済の地盤が沈下していくように見える。

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」という。失われた20年に懲りて、ますます内向きになりつつあるように見える日本。過去の自分たちの経験よりも、もっと外を向いて新しいことを考えたほうがいいかもしれない。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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