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2018年10月25日

SNSを使った「いじめ相談」

SNSを使った「いじめ相談」が始まる

最近、多くの自治体でSNSを使った「いじめ相談」が始まっています。全国に先駆けて導入した千葉県柏市では、市内の中学1年生を対象に、匿名報告・相談アプリ「STOPit」(ストップイット)の利用を可能にしました。

すると、電話やメールで対応していたときと比べ、9倍もの相談が寄せられたそうです。柏市のホームページでは、「STOPit」アプリについて、次のように説明されています。

自分がいじめを受けている、もしくは友達がいじめられているのを目撃した場合、匿名で柏市教育委員会にスマートフォンやパソコン等で報告、相談できます。

【教育委員会にいじめ等を報告】
・文章だけでなく写真や動画も送信できます
【教育委員会にメッセンジャーで相談】
・チャット機能で相談できます
【いじめ相談専門ダイヤルへ相談】
・電話で相談できます
【お知らせを受信】
・教育委員会からのお知らせを受信することがあります
(柏市ホームページより抜粋)

説明にあるように、文章だけでなく「写真や動画も送信できる」ことは非常に効果的でしょう。なぜなら、スマホを使ったいじめでは、写真や動画を用いて相手を傷つけることがあるからです。

私が取材した女子中学生は、同級生から何枚もの「合成画像」を送りつけられていました。たとえば、彼女の顔写真とブタの写真を合成させ、「ブス」、「デブ」などの暴言とともに送信されてくる。制服姿の写真と性的な画像を合成され、「淫行JC(JCとは女子中学生の意)」と中傷されることもありました。

こうしたいじめを受ける子どもが、自分の被害状況を言葉や文章で説明するのは大変です。被害が深刻であればあるほど、簡単に言葉にすることはできません。

けれども、被害画像をスクリーンショット(スマホの画面をそのまま写真として保存できる機能)で保存し、それを相談窓口に送信できれば、どんな被害を受けているのか一目瞭然です。電話や対面では言えないこと、説明がむずかしい被害が、こうしたアプリの活用で伝えやすくなるわけですから、どんどん活用してほしいと思います。

「相談を受ける側」のスキルについて

一方で、「相談を受ける側」のスキルについて、少し心配しています。というのも、取材する子どもたちから「相談はしてみたけど、あんまり役に立たなかった」などの声が上がるからです。

なぜ「役に立たない」と感じたのか聞いてみると、「とりあえずのごまかしみたいな返事しかこない」などと言います。実際にSNSのいじめ相談を利用したという男子中学生は、相談員の人とのやりとりのあとで、最終的に「担任の先生に相談してみたら?」と言われたとのこと。 彼は私に、「担任に相談しろって、それができれば最初からこんな方法使わないですよ」、「コイツわかってねぇーな、とガックリした」、そう苦笑していました。

いじめや友達関係に悩む子どもたちから話を聞くと、実はほとんどの子が「誰かに相談した」経験があるのです。一番多いのは仲のいい友達ですが、クラス中から仲間外れにされていたり、仲良しと思っていた友達からいじめをうけていたりすると、ほかの人に相談するしかありません。

そこで、先生やスクールカウンセラー、いじめ相談ダイヤルなどに相談するのですが、「言わなきゃよかった」、「無駄だった」、「もっと落ち込んだ」などと、「逆効果」の体験を語る子どもが少なくありません。

相談したけれど無駄だった、と落胆する子どもに共通しているのは、「相手の無理解」や「上から目線」を訴える声。自分のつらい気持ちを真に理解してもらえず、たいした解決にもならないようなことを言われる、と嘆くのです。

たとえば「最近、死にたくなってます」と言ったとき、相手から「えっ? 死にたい? それはダメだよ。死ぬなんて考えないで。生きてればいいことがあるよ」などと言われる。

確かにそうでしょうが、こうした場面で子どもが欲しているのは、まず「死にたい」という気持ちを受け止めてもらうことです。

「そうか、死にたいんだね」、「それって、死にたいほどつらいことがあるからなのかな?」と聞いてほしい。そんな受け止めがあってはじめて、「死にたいほどつらいこと」は何なのか、相手に打ち明けられるのです。

けれども、「相談を受ける側」に子どもの気持ちに寄り添えるスキルがないと、正論や抽象論、その場しのぎのアドバイスを返してしまいます。

前述した「担任の先生に相談してみたら?」などはありがちですが、苦しい立場にいる子どもにしたら、まさに「わかってねぇーな」という心境になるでしょう。

SNSでのやりとりは、相手の表情や仕草、声のトーンなどの情報交換ができません。そのため、より慎重に、より細心の注意を払ってコミュニケーションをする必要があります。自治体によっては、臨床心理士などの専門家が対応に当たるところもあるようですが、「心理」に詳しいだけでなく、今の子どもが置かれた状況、友達関係のむずかしさやスマホ時代ならではの問題点などにも留意してほしいです。

「つらい気持ち」が解消したとしても、肝心の「いじめ被害」がなくならなければ意味がありません。

SNSでどんどん誹謗中傷が広がる、ネット上で自分の写真を勝手に晒されている、誰かにアカウントを乗っ取られてなりすまし被害を受けている、こうした実被害を止めるための方法を提示されなければ、子どもは本当の意味では救われません。 「気持ちが救われること」と「被害回復のための行動」、この二つをセットにした相談体制が不可欠です。

つらい状況にある子どもたちに、「具体的に何をすればあなたの被害が止まるのか」を提示できるかどうか、こうした視点も忘れずにいてほしいものです。

石川結貴

石川結貴

石川結貴いしかわゆうき

ジャーナリスト

家族・教育問題、青少年のインターネット利用、児童虐待などをテーマに取材。豊富な取材実績と現場感覚をもとに、多数の話題作を発表している。 出版のみならず、専門家コメンテーターとしてのテレビ出演、全国各…

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