2015年11月10日

TPP交渉合意の概要と展望

注目されていたTPP交渉はこの度大筋合意に達しました。今回は合意の概要と日本政府の対策などを展望してみます。

重要農産物5品目の大筋合意の概要

 TPP大筋合意の結果、日本では農産物と工業品の全9018品目のうち関税がなくなるのは8575品目で、撤廃する割合は95%です。なお、農産物に関しては81%にあたる1885品目の関税が撤廃されることになりました。
 日本はあらかじめコメ、麦、牛・豚肉、牛乳・乳製品、甘味資源作物を重要農産物5品目と定めて、これらを守る方針でTPP交渉に臨みました。重要農産物5品目に関するTPP交渉の合意結果は次の通りです。
コメは米国とオーストラリア向けに関税341円/kgの非課税輸入枠(計7万8400トン)を設け、他国の関税は従来通りです。麦は現行の国家貿易制度を維持するも、マークアップ(売買差益)は9年目までに45%削減したり、特別輸入枠を新設します。牛肉は8.5%の関税を段階的に引き下げて、16年目以降は9%になります。豚肉は10年目以降に高価格帯の関税4.3%を撤廃し、低・中価格帯の大半の関税(最大482円/kg)は50円にします。乳製品はTPP参加国にバターなどの低関税輸入枠(計7万トン)を設けます。甘味資源作物は現行の糖価調整制度を維持するも、一部では関税を撤廃したり、低関税輸入枠を設けます。重要農産物5品目は、一部は譲歩しながらも他の品目に比べるとかなり守られた結果となっています。重要農産物5品目全体では約3割の174品目の関税がなくなります。

今後、関税が撤廃される農産物や食品

 これまで関税が撤廃されたことのない農産物834品目のうち395品目で徐々に関税が下げられ、今後十数年かけて撤廃されることになりました。その幾つかを紹介します。なお、かっこ中は現在の関税です。
 ブドウ(7.8~17%)は即時、お茶(17%)やソーセージとその原料(10~20%)、マーガリン(29.8%)等は6年目に、オレンジ(16~32%)は6~8年目に、天然はちみつ(25.5%)は8年目に、パイナップル(17%)や牛タン(12.8%)は11年目に関税が撤廃されます。
 そのほか、鶏肉・鶏卵は10年超かけて関税(骨なし肉11.9%、骨付き肉8.5%、鶏卵8~21.3%))の大半が撤廃されます。ワインは15%か125円/リットルの低い方の関税が撤廃されます。水産物については、マグロやサケ・マス類の関税3.5%が撤廃されます。
 食品の価格が安くなることは消費者にとっては大きな恩恵となります。そもそもTPPなどの自由貿易推進の目的は、貿易や経済活動に国境を無くして世界全体が共に豊かになることです。

TPPで日本の輸出の振興

 TPPでは日本からの輸出についても関税が撤廃もしくは軽減されます。たとえば、米国が日本の自動車部品にかけている関税(2.5%程度)は8割以上の品目で即時撤廃されます。また、日本の自動車にかけられているカナダの関税(6.1%)が5年目に撤廃されます。今後は、日本からの自動車や自動車部品の輸出が一層促進されることになるでしょう。
 TPPによって日本へ輸入される安価な農産物が日本の農業に大きな影響を与えるのではないかと心配されています。しかし、TPPによって関税が軽減されるとともに貿易の制度が整備されて、日本からの輸出が増えると期待されている農産物や食品が多数あります。たとえば、リンゴやイチゴ、ナガイモなどの青果物、有機栽培のコメや米菓、日本酒などのコメやコメ加工品、味噌や醤油などの加工食品、ブリ、サバ、ホタテなどの水産物、そして和牛肉などです。

TPPの農業への影響と対策

 TPPにより農業は大きな影響を受けますが、影響の度合いは品目ごとに異なります。たとえば、1~4等級の牛肉は影響を受けますが、最上の5等級の牛肉は逆に輸出が伸びると予測されます。同様に、こだわりのおコメである有機米も輸出が伸びることになるでしょう。
 大都市近郊の酪農家は主に生乳の生産を行いますのでTPPの影響は少なく、対して北海道の酪農家では牛乳は加工品用に回されますので、ニュージーランドなどからの安い乳製品の輸入により影響を受けやすくなります。
 TPPに参加する日本にとって一番大切な事は影響を受ける分野、特に農業に対してどのような救済策を採るかということです。日本政府が検討する対策例としまして、たとえばコメに関しては、現在のコメ備蓄制度を見直し、米国やオーストラリアからの輸入相当量も備蓄米として買い入れることでコメの流通増加を抑制してコメの価格を維持する方法です。また、牛・豚肉に関しては畜産農家向けの経営安定対策の拡充と法制化により、牛・豚肉の課税引き下げに伴う減収を補てんする方法です。

 さて、国や自治体が多額の税金を投入して、高速道路や新幹線の建設、港湾や空港の整備、工業団地の造成、大都市のインフラ整備などを行うと2次産業や3次産業にメリットは大きいですが、農業などにはあまり恩恵はありません。農業者の支援には別の形での施策が必要です。
農業者戸別所得補償制度などによる農業保護政策は、すでにEU諸国や米国で広く実施されています。フランスでは農家収入の8割、米国の穀物農家収入の5割前後が政府からの補助金です。日本においても小麦専業農家の収入の約8割は補助金です。
税金は社会の公平を維持したり、富の再配分を行う手段の一つです。TPP対策として国はこれからも様々な方法を用いて、影響を受ける農家の所得補償をしっかりと行わなければなりません。