ご相談

講演依頼.com 新聞

コラム 環境・科学

2014年10月10日

デング熱と地球温暖化

 この夏、デング熱の国内発症があり、マスコミで大きく報道されました。今回は地球温暖化の観点からデング熱問題について考えてみます。

■特効薬やワクチンのないデング熱
 本年8月、海外渡航歴が無く国内で感染したデング熱患者が69年ぶりに日本で発見されました。初期の患者のほとんどは東京の代々木公園とその周辺でデング熱ウイルスを持つ蚊に刺されて感染したことがわかっています。
 デング熱は急性の熱性感染症で、発熱や頭痛、筋肉痛、皮膚の発疹などが主な症状です。蚊が媒介する感染症で、ウイルスに感染した患者を蚊が吸血すると、蚊の体内でウイルスが増殖し、その蚊が他の人を吸血することでウイルスが感染します。蚊媒介性のデング熱はヒトからヒトに直接感染することはありません。潜伏期間は2~15日で、多くは3~7日です。
 デング熱はまれに患者の一部に出血症状を発症することがあり、その場合は適切な治療がなされないと、致死性の病気になります。デング熱ウイルスに対する特効薬はありませんので、対症療法となります。また、現在のところデング熱に有効なワクチンも開発されていません。

■ヒトスジシマカによるデング熱の感染
 デング熱は熱帯や亜熱帯の地域で流行しており、東南アジア、南アジア、中南米の他、アフリカ、オーストラリア、南太平洋の島でも発生があります。最も日本に近いデング熱の流行地は台湾です。
 デング熱の主たる媒介蚊はネッタイシマカですが、気温の低い日本には生息していません。しかし、秋田県および岩手県以南の地域に生息するヒトスジシマカは、ネッタイシマカほど感染力は強くありませんが、デング熱を媒介します。もし流行地でデング熱ウイルスに感染した発症期の人が日本に帰国、もしくは外国人旅行者で日本に立ち寄り日本で蚊にさされた場合、その蚊が他の人を吸血したときに感染する可能性があります。
 ヒトスジシマカは、日中に屋外での活動性が高く、活動範囲は50~100メートル程度です。ヒトスジシマカは成虫のまま越冬できませんが、産み残された卵が越冬します。ヒトスジシマカの卵はデング熱ウイルスを伝えないと考えられていますので、成虫の活動が止まる秋には感染が収束することになります。熱帯で生息するネッタイシマカが一年中成虫で活動するのと大きな違いがあります。

■デング熱流行の原因
 デング熱が流行する最大の原因は、地球温暖化です。日本では温暖化によりヒトスジシマカの数が増加するとともに春から秋の活動時期も長くなっています。また生存域が拡大しており、以前はヒトスジシマカの北限が関東地方南部でしたが、現在は青森県付近まで生存域を広げています。
 日本などでデング熱が流行するもう一つの大きな要因は人の移動です。熱帯や亜熱帯地域でデング熱に感染し、日本国内で発症する例があります。2000年にはこのような国内発症が16件報告されていますが、近年は毎年200人程度報告されています。
 実は、太平洋戦争中に日本でデング熱が大流行して20万人が発病しました。これは、東南アジアや南太平洋などの地域から持ち帰られたウイルスによるもので、人の移動が原因でした。

■蚊の繁殖や虫刺されを防ぐ工夫
 デング熱の予防は、媒介する蚊に刺されないことで、次のような防止策が有効です。
・蚊の繁殖を防ぐため、雨水タンク等に蓋をする
・タイヤに溜まった水やペット用の水、鉢植えの皿の水を放置しない
・室内の花瓶の水などは、よく交換する
・外出するときはズボンや長袖の衣類を着用し、肌の露出をできるだけ避ける
・除虫剤や除虫器具を使用したり、虫刺され防止薬を適切に使用する
・網戸や蚊帳、エアコンを使用する
・渡航の際は、網戸の設置や必要な清掃が行われ設備の整った宿泊施設を利用する

 蚊が媒介するマラリヤやデング熱は世界的に増加の傾向にあります。海外旅行するときは、屋外およびホテル内において防虫に注意されることが望まれます。

■世界のデング熱の拡散
 世界のデング熱感染地域は拡大しています。たとえば、2007年に台湾でデング熱が大流行しました。以前はデング熱の感染地域は台湾南部のみでしたが、現在では台湾全域が感染域となり、近年はしばしば大流行しています。長年発症例のなかったハワイでも2001年から2002年にデング熱が流行しました。
現在メキシコはデング熱の感染地域ですが、アメリカ合衆国南部にもネッタイシマカが生息しており、デング熱が将来流行する可能性があります。さらにヨーロッパでも流行する可能性があるといわれています。

 地球温暖化は年々進行しています。デング熱を一つとっても状況が改善される見込みは少ないと考えられます。日本において今年よりも来年、来年よりも再来年と、より大きく流行するかもしれません。
 また、今年も広島の豪雨土砂災害はじめ日本各地で洪水や水害が頻発しました。進行する地球温暖化にどう対処するべきかを今一度真剣に考えるべきと思います。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

  • facebook

講演・セミナーの
ご相談は無料です。

業界21年、実績3万件の中で蓄積してきた
講演会のノウハウを丁寧にご案内いたします。
趣旨・目的、聴講対象者、希望講師や
講師のイメージなど、
お決まりの範囲で構いませんので、
お気軽にご連絡ください。