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コラム 環境・科学

2010年12月24日

ポスト京都議定書のゆくえ

 京都議定書は2012年までの計画を定めたものでしたが、2013年以降、地球温暖化に対して国際社会がどう取り組むかはまだ決まっておりません。このような状況下で、国連の気候変動枠組み条約の第16回締約国会議(COP16)が、11月29日より12月10日までメキシコのカンクンで開催されました。しかし、昨年のコペンハーゲンでのCOP15に続き、今回のCOP16でも結論は先送りになりました。来年南アフリカで行われるCOP17でポスト京都議定書について協議されることになりました。今回は、温暖化対策が行き詰まっている原因、各国の主張や動向について考えてみます。

 【京都議定書、これまでの動向】
 1997年の京都議定書では、1990年を基準に各国の温室効果ガスの削減目標を定められました。日本は6%の削減を、ヨーロッパは8%の削減を約束しました。しかし現在、世界の二酸化炭素の総排出量は1990年に比べて40%も増えています。
 カナダは京都議定書で6%の削減を約束し、国会で批准しましたが、2007年の時点で逆に30%も排出量が増加しており、カナダ政府は目標達成の断念を表明しました。カナダは保守党の前政権時代に京都議定書に参加しましたが、その後政権が自由党に交代しました。自由党政権では、国内の雇用や経済に深刻な悪影響を及ぼすような事は実施しないという理由で、京都議定書から離脱しました。

 【日本】
 京都議定書では、日本は1990年レベルから6%の削減を約束しましたが、現在は逆に8%も排出量が増えております。2008年から2012年までが約束実行期間ですが、到底約束を果たせる状況ではありません。お金で解決を図るとした場合、外国から排出権枠を買って数値合わせをすることができますが、その場合は7000億円~2兆円の税金が使われることになるでしょう。

 【米国】
 当時米国が世界一の二酸化炭素排出国でしたが、最終的には京都議定書に米国は参加しませんでした。オバマ大統領はブッシュ前大統領に比べて地球温暖化問題の解決に熱心でしたが、提出した環境法案が議会で否決されました。さらに11月の中間選挙での民主党の敗北が大統領の環境政策に大きな影響を与えています。
 そもそも、米国は経済に影響を与えるような温暖化対策には反対であり、対策を実施する場合は中国などの他の二酸化炭素大量排出国が参加することを前提にしておりました。中国の参加が見込まれない現在では、今後も米国の参加はないでしょう。

 【中国】
 京都議定書では、途上国は温室効果ガスの削減義務無し、すなわち課せられた削減率はゼロ%ということでスタートしました。中国やロシアも途上国扱いで削減義務はありませんでしたが、中国は京都議定書には参加しておりません。現在中国は世界一の二酸化炭素排出国ですので、ポスト京都議定書における中国の動向は極めて重要です。
 昨年中国は将来の目標として国内総生産あたりの二酸化炭素排出量を2020年までに2005年比で40~45%削減すると発表しました。中国は2010年には2005年比で60%近くの経済成長を遂げています。2020年までに中国は現在の数倍規模に経済成長しているでしょう。中国の目標は削減ではなく、先進国がこれまで二酸化炭素の排出をドンドンと増やして経済成長を遂げたのと同じ事をこれから中国も行いますと言っていることに等しいのです。

 【ロシア】
 京都議定書においてロシアは削減義務がありませんでしたが、当初ロシアは京都議定に参加しませんでした。ソ連崩壊後のロシアでは石炭から石油へ、さらに天然ガスへのエネルギー転換が進んだことや、産業の近代化でエネルギー機器の高効率化が進んだことにより、1990年に比べて二酸化炭素排出量が20%から25%程度減少しました。この減った分を排出権として売却すると莫大な利益が得られます。そのためにロシアは一転して2004年に京都議定書を批准して参加しました。
 さて、光合成により植物が生長することは大気中の二酸化炭素を吸収し、植物の生体組織として固定することになります。京都議定書では森林による二酸化炭素の吸収効果については十分に評価されていませんでした。広大な森林地帯を有するロシアは、森林による二酸化炭素の吸収効果を多く認めるように主張しています。この主張が認められない場合は、ポスト京都議定書にロシアは参加しない可能性があります。

 【途上国】
 旧ソ連や東欧諸国も途上国として削減義務はありませんでしたが、エネルギー転換や市場経済の導入でエネルギー機器の効率化が進み、1990年レベルから大幅に二酸化炭素の排出が削減しております。京都議定書のお陰で、何百億円、何千億円という排出権が何もせずに丸儲けという状況になっております。ロシアを含めたこのような東欧諸国を専門家はホットスポットと呼びますが、京都議定書が抱える極めて不公平な問題の一つです。
 ポスト京都議定書の先行きが一向に見えない今、途上国は自分たちに極めて有利な京都議定書の延長を主張し、負担の大きい日本は延長に反対しております。世界から、日本が地球温暖化問題の解決に不熱心と捉えられる事もあります。

 【温暖化問題の展望】
 温暖化問題の解決に正面から取り組んだ場合、国民に大きな財政的負担をかけたり、生活や経済活動において犠牲を強いる事もあります。日本では高齢化が進んでおりますが、省エネによる冬季の暖房温度を下げ、夏季の冷房温度を上げることは、高齢者には身体への大きな負担になります。
 年々世界経済は成長しており、その恩恵を受け人類は豊かさを享受しています。エコという倫理観を持つことは人間として極めて大切なことでありますが、豊かさの享受の中にはエネルギーの消費も含まれているという現実も直視しなければなりません。
 来年の南アフリカでのCOP17でも、多分重要な事は何も決まらないでしょう。世界が何ら具体的な対策を取れぬまま、今後は時間のみが過ぎて行く可能性があります。科学、経済、政治、そして文明的および倫理的な観点から、地球温暖化問題を再検討するべき時が来たように私は感じております。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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