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コラム 環境・科学

2007年01月15日

エコ贔屓

■現代版「LOHAS」の正体

最近、巷に流行るもの「LOHAS」。”Lifestyle of Health and Sustainability”(健康的で持続可能な生活様式)の頭文字をとった略語で、人間の健康と地球環境の両方に配慮しようというこの概念は環境保護を訴える人々の間では80年代からずっと言われてきたことです。

それが昨年あたりから急に、特に20~30代の女性の間でブームになっています。88年から地球環境問題に取り組み、日本環境ジャーナリストの会設立の2年前から、ジャーナリスト仲間にさえ奇異なものを見る目で見られつつ、環境ジャーナリストとして活動してきた私は「やっとそういう時代がきたか」と最初は大変喜んでいました。

ところがどうも様子が違う。その内容が本来の意味とかけ離れているのです。

地球環境に多大な負荷をかける従来型の生活様式は持続可能でないから、できるだけその負荷を低減した暮らしをしようというのがLOHASの根本考え方ですから、まず第一はRefuse(拒否)。すなわち、要らないものは要らないと決めて、不要なものは買わない。第二に必要なものを選別して何を買うのか決める。お金を使うより知恵を使うのがLOHASな人です。それなのに、今ブームのLOHASは、「健康と環境に配慮した生活のためにお金をかけることができる人」的なニュアンスがあるのです。それは数年前からブームの”セレブ(celebrity=選ばれた人)”という概念とよく似ています。

■環境問題はステイタス?

80年代のバブルが崩壊後、10年余りの長きに渡り景気が低迷、社会は閉塞感に覆われました。やがてその息苦しさから逃れようとするかの如く、叶姉妹に象徴されるようなごく一部の人たちが、超贅沢で豪華な暮らしをする様子がテレビや週刊誌で紹介され、人々の羨望の的となりました。そのキーワードは「美容と健康」。「そのためにはいくらでもお金をかけることができる、特別に選ばれた人間なのよ。」つまり、「その他大勢の庶民とは違うのよ」というのがセレブであり、「セレブ=お金持ち」。これにあこがれる女性たちがその一部を真似たり取り入れたりすることでセレブ気分に浸る”プチセレブ”として振舞うようになったのです。

今流行のLOHASは、これに「地球環境問題に関心のある知的な人」という部分が加わったものでしょう。それはそれで、何と思おうが個人の自由ですから、何も言うことはありません。気分良く、楽しく思える考え方に浸るのは悪いことではありません。困るのはそれが「限られた一部の人間のもの」として価値を置かれ、なおかつ「お金をかけられる」と定義し、「LOHASな人」と讃えることによって、かえって余計な消費を煽っている点です。それは新手のマーケティング戦略に過ぎません。

そこで教えられる生活様式、言い換えれば「買い物や消費の仕方」をせっせと実行することで「知的セレブ気分」を味わうことに乗せられてしまうと、本来の意味や精神が置き去りにされ、本来の意味におけるLOHASとは真逆の人になってしまいます。 「何を買うか?」の前に、「買わなくてもよいものは何か?」を真っ先に考える。それはすなわち、「自分に一番必要なものは何か?」「無くてはならないものは何か?」を見直し、本当に大切なものを見つけ直すことなのです。

■ブームを「乗りこなす」

地球環境に配慮する生活は、けして選ばれたごく一部のお金持ちだけのものではありません。しかし、「フカヒレの姿煮は食べられないけれど、普通より100円高い無農薬小麦パンなら買えるし、そのことで環境問題を理解している知的なプチセレブと見られるから」的な感覚でLOHASを捉える人にとっては、誰もが真の「LOHASな人」になることは受け入れがたいことになるでしょう。自分がセレブでなくなるからです。こういう人たちはもしLOHASブームが広まってしまったら、また何か次のセレブ感を味わえるものを求めてLOHASは放り出すかもしれません。「何はともあれ、環境問題に世間の関心が向くことは良いことだ」という意見もありますが、私が最も心配なのは、「一部のお金持ちだけ」という誤解が広まることで環境問題を遠く感じる人が増えてしまうことなのです。

私はよく「環境を贔屓しよう=優先しよう」という意味で「エコ贔屓しよう」と言ってきました。贔屓は亀に似た想像上の生物で、大変力が強いので、その背に乗れば大きな安定を得て前進できるといいます。でも引っ張られると、その怪力に引き摺られ、倒れてしまう。これを「贔屓の引き倒し」というのです。ブームをうまく乗りこなせれば良いのですが、エコ贔屓の引き倒しになっては困るとLOHASにハラハラの私です。

村田佳壽子

村田佳壽子

村田佳壽子むらたかずこ

環境ジャーナリスト

桜美林大学大学院修士課程修了。元文化放送専属アナウンサー。1989年環境ジャーナリストの活動開始。現在、明治大学環境法センター客員研究員、ISO14000認証登録判定委員、環境アセスメント学会評議員、…

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