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2008年12月12日

環境特別対談 第4弾 「『食』から環境・健康を考える」

 食品の表示や産地偽装事件、食品への農薬の混入事件などを耳にすることが多かった2008年。食べ物は私達の健康へ直接影響を及ぼすものだからこそ、これらの問題に国民の関心が集まっています。 また、食品の収穫に影響する異常気象などの環境問題も、「食」とは切っても切り離せない問題です。環境と健康は、私達に身近な「食」に密接に関わっています。
 今回の村田佳壽子の対談相手は、様々なメディアで活躍中の食生活ジャーナリストの佐藤達夫さん。食に関わる事件への考察やジャーナリストとしての現在の報道に対する思いなど、 これからの食生活で私達は何に気をつけていけばいいのか、佐藤さんにお話を伺ってきました。

  ma42_9_01.jpg【対談のお相手】
佐藤 達夫/食生活ジャーナリスト

1947年、千葉県生まれ。1980年より、女子栄養大学出版部へ勤務し、月刊 「栄養と料理」の編集に携わり、95年より同誌の編集長を務める。99年に独立し、食生活ジャーナリストとして、 新聞・雑誌・テレビを通じて、 また、各地の講演で食生活と健康にまつわる最新情報を、医師の視線ではなく、 一般の人にわかりやすいことばで提供し、 好評を博している。

■日本の食事情の変化

村田: 最近、急に「食」に関する事件が取り上げられることが多くなりましたよね。例えば、中国製のギョーザ事件(※)などをきっかけに、いかに日本の食糧事情があやういのかを感じた人も多いんではないでしょうか? (※2007年末~2008年に起きた、中国製冷凍ギョーザに有機リン系の殺虫剤「メタミドホス」が混入されていた事件)

佐藤: 仰る通りです。今、多くの消費者は「日本人が食べているのは危険なモノばっかり」だと不安になっています。でも私は、日本人の食べているものは、世界で一番安全で安心できるものだと思っています。その理由の一つとして、私は日本人の平均寿命が世界一であることをあげています。そもそも平均寿命は何で決まるのか?というと、一番大きく影響するのが、乳児死亡率。二番目が、若者が死んでしまう戦争。日本のように戦争もないし、赤ちゃんも死なないとなると、あとの要素として医療と食をあげることができます。医療レベルの点でアメリカと日本を比べてみると、ほぼ同等かアメリカのほうが少し上なのではないでしょうか。でも、アメリカの平均寿命は日本よりもずっと低い。ということになると、残るは「食」ですね。つまり、私は、日本人の食事は世界で最も優れていると言っていいと思います。

村田: 日本の食習慣は、戦後大きく変わったといわれていますよね。お肉をよく食べるようになったりして、食の洋風化で、日本人の体格が良くなりましたし、一方で、大腸がんが増えてきたのも、食の影響と言われてますね。中国では医食同源と言いますが、食というのは本当に大事です。人間の命を直接に左右するものですから。

佐藤: 私は団塊の世代ですが、日本は第二次世界大戦で負けて、その時、全国民が思っていたことが「お腹いっぱい食べたい」ということ。私達、団塊世代は、「ひもじい」ということ、お腹が減って苦しい、悲しいということを知っています。その後、少し豊かになってくると、「美味しく食べたい」ということを考えるようになりました。そして今は、美味しいだけでは病気をよぶこともわかってきたので、栄養バランスとか適量とか、そういうところを考えて食べ物を食べないといけない時代になりました。

村田: ずいぶん食生活も時代とともに変わってきましたね。こんなに食べ物が豊かな時代であるにも関わらず、 日本の食糧自給率が39%ということが、由々しき事態であるということを捉えていかなければいけないと思います。外国の食糧に頼り切っているのですから。人間は、絶望的であると思うと逃げたいという心理になりますが、解決できる問題として対処していかなければいけません。最近、「食」に関する事件が多く、「食」の問題は、今、国民が自分のことだと思い始めてるから、問題解決のチャンスです。

佐藤: 食べ物に対する危機感をもっているということは、チャンスだと言えますね。実際に日本の食糧自給率が下がった理由は、食べ物が洋風化などして変わったこと。もう一つは、日本の農業自体が衰退してしまったこと。例えば、畑をつぶしたり、農業の構造が変わってきてるので、皆で同じものを食べようとしても日本には作るところがありません。日本の土地の広さと人口の多さを考えると食糧を作るのに効率がよくないので、外国に頼りきっている部分もありますが、きちんと交流関係をもって、お互いに利益を出し、共存しあうことが必要です。

■新しい農業スタイルの提案

ma42_9_03.jpg村田: ところで、私は、そんな日本でも農業を行う方法を考えているんです。これをやれば地球環境問題の解決にもなり、食糧自給率が上がり、さらに海外へ輸出もできます。

佐藤: 是非、教えてください!

村田: 現在は、直接田んぼや畑で栽培して、食べ物を収穫しています。一方で、減反などで使わなくなり、荒れてしまった農地は再び耕しても、3年ぐらいたたないと元に戻りません。そうした土地に、建物を建てて、建物の中で、水耕栽培で野菜や稲を育てます。建物の中ですから、害虫もこないし、無菌状態に近い状態もつくれるから、農薬もいりません。雑草に栄養をとられず、直接栄養を根から吸い上げるので、生育も良いです。建物の中だと日が当たらないですが、太陽光や風力の自然派エネルギーをいくつも複合的に組み合わせて、これで電力をとります。この電力は、出力は小さいですが、地産地消で、送電ロスがゼロですので、効率的に使うことができます。例えば、一反の地面から収穫すると一反分ですが、3階建ての建物をつくれば3倍になります。実際に、この方法で栽培しているところもありますよ。

佐藤: 施設をつくろうという環境ジャーナリストにはじめて出会いました(笑)。自然に戻ろうという方はたくさん知ってますが(笑)。
しかし、私は、建物の中で栽培した食べ物を食べるのは、消費者心理として、抵抗があるのではないかと思います。やはり消費者は地面で作った食べ物に安心感をもつのではないでしょうか。

村田: もちろん従来通り、田んぼや畑で作るやり方も併用します。ただ、日本の食糧自給率を今後あげていくためには、是が非でも、何かをしないといけないことも事実です。確かにこれまでになかったやり方なので、違和感や戸惑いを持たれるかもしれません。しかし、これからは、地球環境の悪化に伴って、自然災害が多くなり、農産物が被害を受けることも多くなるでしょう。それも考慮すると、屋内での栽培は、有効な方法の一つではないかと私は思います。

■「食」に対する日本の報道と日本人の反応

佐藤: 最近、食べ物の安全性に関する事件が取り上げられていますよね。これが、ごちゃごちゃになってるところがありまして、「赤福」や「白い恋人」などの偽装表示事件ですが、社会的にも、経済的にもきちんと裁かれなければならないと思うのですが、これらは、食の安全性は損なわれていないという事実もあります。赤福は、その日のうちに作ったり、冷凍した時の日付の管理はしっかりしていました。冷凍しているものを冷凍していないと言って売ったことは絶対にいけないことですが、例えば、「先に作ったものから売る」という安全性の管理という意味ではしっかりしていたともいえるわけです。
一方で、今年のはじめの中国製のギョーザ事件は、食品を舞台にした犯罪だと思います。犯罪を起こそうという人がいて、どこかで何かを入れたんだと思います。そのことをきちんと捉えないといけません。あの事件をもって、「冷凍食品」は危ないから食べないほうがいい、中国の食品は危ないから食べないほうがいいというのは違います。
また、私は、テレビでしか見ていませんが、製造元の天洋食品の工場は、安全レベルが高い工場だと思います。もしあれ以上の安全性があり、犯罪が起こらないような監視システムをいれようとすると、非人間的なシステムになると思います。例えば、更衣室やトイレなどにも監視カメラをつけるような。 また、この事件では、被害者が出ましたから、次の被害者がでないことが第一なので、回収して廃棄するのは、企業の責任として必要なことだったかと思いますが、違う対応をすれば、廃棄しなくてもすんだ食べものもあったかもしれません。

ma42_9_04.jpg村田: 日本人の報道に対する極端な反応も感じましたよね。
根底にある事実を分かっていないから、 そういう行動が起こってしまうのかもしれません。

佐藤: 今は、「危険だ」という報道が圧倒的に多くて、さまざまな情報の中からわずかな危険をみつけて、報道する。大きな事件に発展する可能性を未然に防ぐために、芽のうちにつまないといけないということは理解していますが、そういう報道ばかりのようにも感じます。

村田: 以前は、調査報道ということをしていましたが、今は、調査報道というジャーナリスティックな活動があまりなされなくなってしまっているように思います。とにかく、早く、タイムリーでインパクトのあるものを視聴者が求めているからです。ダイオキシン問題の報道の時も、体にどのぐらいの量が入ると危険なのかは報道されませんでした。例えば、ダイオキシンは、ビールにも入っています。しかし、一度に5000本くらいのビールを飲まないとダイオキシンによる健康被害はでません。科学的に見て、どのレベルまで摂取すると危険なのかということを報道しないといけないと思います。

佐藤: 視聴者が少し込み入った内容になると、チャンネルを変えてしまう。そうすると、そういった内容は報道されなくなってきてしまいます。しかし、今は、あまりにも報道されなさすぎです。

村田: 私達ジャーナリストも、報道の仕方、アピールの仕方を消費者に分かるように変えていかなければいけませんね。消費者も、裏にあるものが何だろうということを考えることが大切なことです。インターネットがだいぶ普及してきまして、世界中、テレビや雑誌には出てこない情報を、早く、隅々までいきわたらせることができるようになりました。しかし、逆に悪用もできるようになっています。
健康も環境も「食」を通して考えると、自分の問題であり、生活に身近な問題だからこそ、消費者は、しっかりアンテナをはって、良い情報と悪い情報をしっかりと判断していくことが大切ですね。情報はとろうとしている人のところに集まりますから。本日は、お忙しい中、有り難うございました。(了)

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村田佳壽子

村田佳壽子

村田佳壽子むらたかずこ

環境ジャーナリスト

桜美林大学大学院修士課程修了。元文化放送専属アナウンサー。1989年環境ジャーナリストの活動開始。現在、明治大学環境法センター客員研究員、ISO14000認証登録判定委員、環境アセスメント学会評議員、…

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