民主化運動アラブの春から10年・中東シリア情勢

2011年3月に始まったシリア内戦。あれから約10年の歳月が過ぎ去りました。内戦のきっかけとなった中東民主化運動アラブの春の入り口は2010年12月、北アフリカ・チュニジアの青年が警察による締め付けに抗議したことを発端に自ら命を絶ったことで国民の怒りが爆発。大規模抗議デモに発展し強権ベン・アリ政権を崩壊させ民主化のうねりは中東全域に拡大しました。エジプトのムバラク大統領やリビアのカダフィー大佐など数十年に及んだ独裁体制を瓦解させる民主化の波がここから一気に広がります。

シリアではイスラム教シーア派の流れを組む少数派アラウィー派のアサド大統領による不公正な政治体制に国民が反発。シリア各地で反アサドを掲げた抗議デモ、武装蜂起が発生。混乱の中で過激派組織イスラム国が台頭することでアサド政権、反政府組織、過激派イスラム国が絡み合う内戦に突入しました。アサド大統領との軍事連帯を組んでいたロシアのプーチン大統領は即時シリアへの軍事支援を発表。アサド政権はさらにイスラム教シーア派の軍事連帯を掲げるイラン、レバノンのシーア派武装組織ヒズボラの後ろ盾を確保。さらに内戦の絡み合いから当時過激派掃討作戦のためにシリアに展開していたアメリカ軍がトランプ大統領の選挙公約により撤退を余儀なくされ、一時的に力の空白が発生。シリア隣国のトルコが自国内の反発分子と名指しするクルド武装組織壊滅を掲げシリア領内への越境攻撃に踏み切り、トルコ軍がシリア北西部に展開する事態に陥りました。

各国の代理戦争の様相が強まったシリア内戦は約10年に及び、未だ北西部地域でのアサド政権軍と反政府組織、越境トルコ軍の局地的な衝突が続いています。内戦の犠牲者は少なくとも現時点で約38万人、国内外への避難民の数は1300万人以上。人口の半分以上の市民が内戦により生活基盤を失う事態となっています。

中東を覆い尽くした民主化運動アラブの春の結果は、各国の動向を見る限り決して国民主権の政治体制を引き寄せたとは言えません。発端となったチュニジアでは一部政権の安定構造の兆しが見えるも、他国では混乱状態が深まり、エジプトのように軍政色の強い指導者が再浮上してきています。中東一帯の地政学で見ると、地中海への軍港を要するシリアは大国にとって外交戦略上、唯一無二の存在であり、軍事支援という大義を掲げアサド政権の再興を支えることで自国の国益を保つことができると認識しています。この10年でシリアに関わる諸外国がイスラム教徒でありアラブ人の強権者を神輿にあげて利権を確保するシナリオを組み立ててきたと言えるでしょう。現在もシリア内戦は続いています。