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コラム 人権・福祉

2009年10月01日

忘れえぬ絆

 誰にでも忘れられない(大切に思う)友人が一人はいるのではないだろうか。ぼくには10年前に若くして不慮の事故で逝{ゆ}いた長井賢{さとし}クンという存在がいる。お互いの実家が近く、ひょんなことから車イスを押してもらうようになり、まるで弟のような存在だった。

 彼はミュージシャンを目指しバンド活動をしていた。ぼくは作家を目指していたから、安酒を買い込み朝までぼくの部屋で夢を語り合った。
 長井クンは、ふしぎな笑顔の持ち主だった。何をしてもその笑顔で許せてしまう。そんなヤツだった。
 いまだに、もう会えないことが信じられない。

 最近、彼のバンド仲間からご両親経由で、追悼ライブ開催のお知らせが届いた。当時、長井クンと関わったバンド仲間たちが集まるというものだった。
 当日のこと。会場がなかなか見つからず困っていると、ギターケースを抱えた家族とすれ違い、ぼくは直感で関係者だと分かった。着いて行くと案の定、会場に辿り着いた。会場の雑居ビルには狭い階段しかなく、電動車イスだったのでバンド仲間たちには苦労をかけてしまったが、彼らは大歓迎してくれた。

「かっちゃん。久しぶり。長井の葬式のとき以来か?」
「そうだね。車イス、重くて悪かったね」
「平気だよ。野郎どもは大勢いるんだから」
 この追悼イベントの中心者、山菅{仮名}クンは、相変わらず頼りがいのある男だった。

 ぼくが最前列にいると、なつかしい人びとから「かっちゃん。ご無沙汰、元気だった?」と声をかけられた。
 そして何組かのバンドが、長井クンの作った歌を披露して、彼との思い出話をした。挙句には、ぼくにまでマイクが回ってきた。
 出会って、ほんの5~6年の彼との日々が、きのうのことのように思い出された。思いがけない言葉が口から出た。

「みなさん。あいつは、まだ旅から帰って来てないんですか? どこまで行ったんですかね。いい加減、帰ってほしいものです」
 本当に、ぼくはそう思った。イベントの最後は、全員で長井クンの代表曲を大合唱した。歌いながら、長井クンがうらやましくなった。逝いて十年もの歳月が経っていながら、いまもなお多くの人びとの記憶に残り、作品は歌い継がれている。彼は永遠に、みんなとつながっている。

 二次会は想像どおり大宴会となった。ギターケースの家族とも初対面なのに、すぐ打ち解けて盛り上がり、再会することを約束した。こんなにも人との絆が難しい時代に、ぼくは自分の幸せを思い、そうしてくれた長井クンに感謝した。

中村勝雄

中村勝雄

中村勝雄なかむらかつお

小学館ノンフィクション大賞・優秀賞 作家

現在、作家として純文学やノンフィクション・異色のバリアフリー論を新聞・雑誌などに発表。重度の脳性マヒ、障害者手帳1級。 <小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞のことばより> 車イスのうえに食事…

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