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コラム 人権・福祉

2010年09月03日

なぜ起きた 高齢者の所在不明問題

「100歳」で線引きせず、地域で実態の把握を

 連日報道されている高齢者の所在不明問題について、高齢者をとりまく現場の取材を続けている専門的な立場からすると、これまで表面化しなかっただけで、「なるべくして起きた問題」と捉えています。

 この背景にはいろいろな問題がありますが、大きな理由のひとつとして、地域における高齢者の実態把握があまりに手薄になっていたことです。

 現在、各地域には地域の高齢者の総合的な相談窓口となる「地域包括支援センター」がありますが、平成18年4月から始まったこの窓口の職員は、もっと積極的に地域に出て高齢者の実態把握、つまり地域のお年寄りの顔を見に訪問をするべきなのですが、これまで同センターの職員(社会福祉士やケアマネジャー、看護師らの専門職)は、少ない人数のなかで介護予防プラン(介護度が低い人のための介護サービスの計画を立てる)の作成などに追われ、実態把握まで手がまわらなかった現状があります。

 さらに、「地域包括支援センター」ができる前、各地域には「在宅介護支援センター」という相談窓口がありました(現在も残っている地域はあります)。

 在宅介護支援センターでは、高齢者の実態把握に力を入れていたところもありましたが、全国各地のセンターを取材を通して感じたのは、「地域によって実態把握が熱心なところもあれば、そうでないところもある」ということでした。

 こうした各地域の実態把握の不十分さに国としても対策をとってきませんでした。ストレートな言い方をすれば「これまで本腰を入れて実態把握をしてこなかった
ツケ」が、今こうして浮上しているともいえるわけです。

 今回の事件から派生して、「受給者が亡くなっているのに年金を受けとっていた」ケースや、反対に「亡くなったと思っていた60代の男性がじつは生きていた」事例も判明。生きていると思っていた人が亡くなっていたり、亡くなったと思っていた人が生きていたりといった事態が起きています。

 行方不明者には、いわゆるホ-ムレスになっている人がいる可能性もあり、貧困問題とも絡み合っています。

 国は100歳以上の高齢者の実態把握についてようやく策を講じるようですが、高齢者の孤独死(家族に囲まれていながらの「孤独」もあるのです)の問題もふまえ、
「100歳」という年齢で線引きをせず積極的に行ってほしいです。

人間関係の希薄さが招いた悲劇

 ちなみに、私の住む目黒区では、今回の事件で問題が発覚しませんでした。目黒区は独自のサービスで「ひとりぐらし等高齢者登録」や「電話訪問」を行っています。
 
 前者は親族が近くにいなかったりでひとり暮らしをしている人などに登録してもらい、安否確認や緊急時に対応するというもの。

 後者は「ひとり暮らし等高齢者登録」をしている人を対象に週1回もしくは2回自宅に電話をし、安否の確認などを行うものです。

 自治体にも地域の高齢者を守る独自のサービスについて創意工夫が求められているのではないでしょうか。

 地域といえば、身近な困りごとの相談役となる民生委員の担い手が減っていることも問題となっています。

 隣の住人の顔を知らない希薄な近隣関係、何年も親の所在が不明でも「分からないまま」にしておくあまりに希薄な家族関係。

 今回の事件は、人が人が想う、ほんの少しのゆとり、気遣いが薄れている現代社会が招いた悲劇のように感じています。

小山朝子

小山朝子

小山朝子こやまあさこ

介護ジャーナリスト/介護福祉士

9年8カ月にわたり洋画家の祖母を介護。その経験から全国各地で講演し、執筆活動や各メディアにコメントする。介護のノウハウや介護現場の「今」をわかりやすく伝えており、「当事者と専門家、ふたつの立場からの説…

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