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2012年11月22日

ビジネススクールでは学べないこと

私は、年間で100~110回ほど公開講座の講師をやります。様々な業種・規模の企業から派遣されてきたビジネスパーソンの方に、10~20名の少人数で、組織運営・リーダーシップ・人材育成・コミュニケーション・マーケティング・顧客対応など約30種類の講座を受けていただいています。何度も受けている受講者の方々とは顔見知りになるので、講座が終わってから色々な話をしますし、その後の状況について人事の方から情報をいただいたりするのですが、それらを総合して、研修効果が大きい人とあまり効果がない人との違いは、次の2つの差にあるのではないかと思っています。

一つ目は、一般論を咀嚼する力の差。研修では多くの場合、提示された具体的な事例やケースについて検討した後で、セオリー・原理原則を習得するという流れになります。その意図は、受講者それぞれの状況に応じて実践で使ってもらえるよう、個別で具体的なケースを、最終的には抽象化して伝えようということです。極端に言うと、研修のお土産は「一般論」なのです。ここで問われるのは、そのような抽象的に表現された一般論を、咀嚼して理解・蓄積する力。これが、その研修における収穫の大小や、その後それを仕事で実践できるかどうかに関係します。

例えば、ある失敗事例と成功事例から、『営業においては、”商品”を間において顧客と対峙するのではなく、顧客と同じ立場から”問題”に向き合うのがよい。』という一般論を導き、学んだとします。それを、「私の扱っている商品は、・・という点が違うから。」「私の顧客は、そんなに簡単にはいかないから。」と考えてしまうか、「この前、うまくいった商談は、これがポイントだったのかも。」「言われてみれば、顧客の”問題”に焦点を当てた質問をしていないな。」「顧客との信頼関係が大切なのは、同じ立場に立つ、真の問題を教えてもらえるようにするためなんだ。」と考えるか。ここで、決定的な違いが生まれます。抽象的な内容を、一般論として片付けてしまうか、咀嚼して理解・蓄積できるか、が分かれ目になるのです。

もう一つは、教養というか、仕事に直接関係のない分野の知識の幅や深さの差です。私の講座の受講者の中には、歴史的な事件の背景や詳細がたくさん頭に入っている人、軍隊・軍事に精通している人、宗教や民族について詳しい人、信じられないほどのスポーツ通、など色々な人がいます。ビジネスには全く関係のないことに興味を持ち、非常によく勉強しています。彼らを見ていますと、モノを考えたり判断したりする際の軸が明確にあることが分ります。自分なりの立場や視点を持っていて、ブレないので、素早く、分りやすい意見を述べることができます。何が正解かを探るように思考したり、周囲を気にしながら恥ずかしそうに発言したりしませんし、質問や異論に対してしどろもどろになることもありません。そして、研修での学びを、もともと持っている他分野の知識と関連付けたり、対比したりして身につけていきます。

彼らには、直感が働いています。研修の場でも、現実の仕事においても、何かに遭遇すると直感的に、何となく”こうすればよいのではないか”と思ったり、何か変な感じや違和感を覚えたりし、そこから思考がスタートします。直感を仮説とし、それを検証するように思考することができるとも言えますし、なぜそのような直感が生まれたのかを掘り下げるように思考しているとも言えるでしょう。

大ヒットとなった商品開発のきっかけや、後で考えれば非常に危険だった商談など、ドラマチックなエピソードには、理屈ではなく、動物的としか言いようがない勘や、ラッキーとしか言いようがない偶然が多く含まれています。これに、後で理由をつけて教えているのがビジネススクールの類で、それはそれで無意味ではありませんが、私は、それらの勘や偶然は、その人たちが持っている教養やそこから出てくる直感に大いに関係していると思っています。そしてそれは、決してビジネススクールで学ぶことはできません。

一般論を自分に置き換えて考える力、仕事には関係のない分野に関する知識の量。これは日ごろ、書籍や雑誌、ニュースなどの情報に接する際の態度や、関心事への取組み姿勢といった習慣にかなり依存するもので、一朝一夕に身につくものではありません。ビジネススクールでの学びを効果的なものにするためには、ビジネススクールでは学べないことを習慣化する必要があるということです。

川口雅裕

川口雅裕

川口雅裕かわぐちまさひろ

NPO法人「老いの工学研究所」理事長(高齢期の暮らしの研究者)

皆様が貴重な時間を使って来られたことに感謝し、関西人らしい“芸人魂”を持ってお話しをしています。その結果、少しでも「楽しさ」や「気づき」をお持ち帰りいただけていることは、講師冥利につきると思います。ま…

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