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2009年07月15日

「注意の喚起」には限界がある

 2009年6月23日横浜。夜遅くまでの仕事を終え、帰宅途中、交差点歩道で信号待ちをしていた看護師3名が同交差点の自動車同士の衝突事故に巻き込まれ死亡した。非常に痛ましい事故であったと共に、同じ病院に勤務する中堅看護師3名が突然いなくなったのだから、社会にとっても大きな損失だ。当該事故は、間に合おうとあわてて交差点に進入した直進車に右折車が衝突したというものだ。このようなニュースのたび、ドライバーの注意を喚起する呼びかけがなされるが、世を斜めに眺めることの多い失敗学の見地からは少し物足りない。

 ”周知徹底”、”管理の強化”、”教育の充実”というと、いかめしい漢字が並んでいかにも効果的な対策を打ったように錯覚してしまうが、いずれも人の良心、注意力に頼った問題の解決であることには変わりなく、一時的な効果は期待できても、長い目で見ると事故の発生確率はなんら低減されていない。もっと事故発生の確率を小さくするような根本的仕組みはないものかと考えたい。

 日本では、右折レーンから青の右矢印が点灯して右に曲がるのは、対向する直進車の進行が止まってからである。これは、右折用矢印表記のない小さな交差点で右折する場合に倣ったやり方だ。小さな交差点では、右折車は直進車が途切れるのを待って曲がる。自然、交通量が多ければ信号が黄色になってから、実際には赤になってから右折することが多い。

 一方、海を渡った自動車大国アメリカに眼をやると(自動車の通行側が日本と反対だが、本文では左右を入れ替え、日本と同じシステムとして書いている)、大きな交差点では、まず青の右折信号が出てひとしきり右折車が通行した後、直進の番になる。日本とは直進・右折の順番が逆のため、今回の横浜市事故に対応する場合を考えると、右折矢印が消えてしまったのに、間に合わんとあわてて右折しようとした車に発車直後の対向直進車が衝突したことになる。この場合、急いでいるのは右折車なので、スピードもそれほど出せず、ちょっとした接触事故で終わることが多い。

 ただし、この直進・右折が変わるタイミングを見るだけでなく、「縦」の交通が「横」に変わるタイミングも見なければならない。

 日本では、右折終了とともに横断方向の直進車が発車するが、これは急いでいるのが右折車のため大事故にはならず、一方のアメリカでは、間に合おうとスピードを出している直進車に対して横断方向からの右折車が発車する。アメリカではこちらの方が大事故につながりやすい。

 なんだ、どちらも変わらないじゃないかと思われるかも知れないが、右折発車のとき、日本では対向の直進車に注意しなければならないのに対し、アメリカでは横断の直進車に注意が必要だ。レーザーガンではない人間がスピードを見極めるのは、自分に向かってくる車より目前を横切ろうとする車の方が簡単であるのは自明だ。

注意の喚起は無駄とは言わない。それなりの効果はあるし、報道番組の締めくくりには真にきれいな終わり方といえよう。ただし、これでは根本解決にはなっていない。小さな信号では日本同様、直進車が途切れるのを待って右折するアメリカで、大きな交差点になると右折車を先に通すのはなぜか考えてみてはどうだろうか。仕組みを変えれば最初は混乱も起こるし、ちょっとした接触事故は増えるだろう。しかし、そのおかげで人命にかかわる大事故が減るならば良しとすべきではないだろうか。

 人の良心・注意力ほど当てにならないものはない。まずはそこから出発して知恵を絞る。絞っても湧かないときは隣の人の頭を絞る。絞ってもカスしか出ないと言われないよう、知識比べはそろそろやめて、創造力を鍛錬しよう。

飯野謙次

飯野謙次

飯野謙次いいのけんじ

NPO失敗学会副会長

1959年大阪生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、General Electric原子力発電部門へ入社。その後、スタンフォード大で機械工学・情報工学博士号取得し、Ricoh Corp.へ…

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