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コラム 政治・経済

2012年05月10日

中国は、日本の経験を必要としている

現在の日本社会にも多くの問題があることは、筆者ももちろん理解している。過去の日本の経済発展が全部成功だったというつもりもない。かつての他国侵略の歴史だって忘れてはいけないのは当然だ。しかしここ北京で暮らしていると、あるいは中国にいる日本人と話していると、みんな異口同音にしみじみと言う、「日本は本当にいい国だ」と。だから日本にいる皆さんには、もっと自信を持ってもらいたい。我々は幾多の苦難と試行錯誤によって、隣国中国がいまだなし得ない「和階社会」を築き上げたのだ。

中国は昔も今も大国だ。有史以来の世界のGDPに占めるシェアを調べると、中国はアヘン戦争時代に列強に侵略されて以降の約150年間を除けば、ほとんどの時代は世界のGDPの20%以上を占めてきた。その後1970年代の改革開放政策が成功し、急速な経済発展を遂げた中国は今や世界第2の経済大国だ。有能な人材も豊富な資源もそして強力そうな軍隊もある。しかし今日の経済大国はかつての昔とは決定的に違う。今日の世界はグローバル経済と言う名の大きなシステムで相互に連動しており、自国だけの政策で経済システムを維持することができなくなってしまっている。

前稿では、中国が現在直面している5つの構造変化について述べた。そしてどれも外部要因が絡んでいて中国が自分だけでは対処できないものだ。うまく解決できなければ中国の国家の存続そのものに関わってくるといっても大げさではない。そして中国のこの構造転換を促進できるパワーのひとつが、隣国の経済大国日本なのである。言い換えれば我々日本は現在の中国に真に必要とされる国家体なのである。

中国はいったい日本の何を必要としているのだろうか?読者の中には、中国と日本は経済大国同士で今やライバル関係になってしまっているので、日本が中国を支援するなんてお人よしなことを考える必要はないと思われる人もいるだろう。また隣国であるが故の領土問題や資源争奪問題もある。現在の中国は自国で生産できないものもまだ多く、経済発展のために日本のハイテク部品などを大量に輸入しているから、特に中国の転換を支援せずにこのまま日本から長い間モノを買い続けてもらえればいいではないかと思うだろう。

短期的にはそれでよいかもしれないが、中長期的に見れば決してそうではない。世界は今、大きなパワーシフトが起こっている。つまり成長センターとしてのアジアには日本以外に中国も加わったことで、経済的にもそして文化的にも世界で大きなパワーを持つ地域になりつつあるということである。中国は最近まで、単独でアジアをそして世界に君臨しようと考えていた。しかし中国は特に政治体制的に特異な国だ。西欧の「自由、人権、民主」といった価値観とは相いれないし、そのような価値観に与するつもりもないが、しかし大国として現在は世界で孤立している。中国は西欧世界に受け入れられている隣国の日本と戦略的に組めば、アジアの文化で世界をリードできるのではないかと感じ始めている。

何度も言うが中国は特異な国家であり、被害者意識が強く自己中心的な国家だ。何も日本が中国に同化する必要はまったくない。しかし相手が必要としているのなら、それを活かして日本という国家に経済的な利益をもたらすように考えればよいのではないだろうか。

では具体的に我々日本は、中国に何を支援しその結果どんな果実を得ればいいのだろうか? 中国が日本に求めるもの、それは「日本が欧米の技術・文化を導入してこれを消化し、独自の安定的な社会構造を築き上げた経験」である。筆者は北京の政策頭脳の人々と普段会話していて驚くことがある。著名で地位の高い中国の経済学者ですら、日本の経済発展がアメリカの支援のおかげであり、日本の経営や金融システムはアメリカと同じものだと思っている人が多い。また日本のバブル崩壊は、1985年のプラザ合意でアメリカの圧力に屈して円高を容認してしまったことが原因だ、と真顔で語る中国の経済学者もいる。

つまり中国からみれば、日本はアメリカの属国でみんなアメリカの真似をして発展してきたのだということになる。この隣国の小国(日本は世界的に見れば人口の多い大国に属するが、中国からみれば東に位置する小さな島国)が第2次大戦後20年余りで奇跡的な復興を果たし、しかもその後40年に渡り、世界第2位の経済大国の位置にあったことを理解するには、こう考えるほかないのだろう。

しかし筆者が北京の政策頭脳の人々に、日本は1970年から80年代の高度経済成長の過程でアメリカと数多くの貿易戦争や文化的衝突を繰り返し、それをバネに産業構造を重工業からハイテクへ、そして省エネ産業へと鮮やかに転換を果してきたのだ、と説明すると中国の学者は一様に驚く。「あなた方は今、欧米先進国と数多くの貿易問題、資源問題や文化の衝突問題に直面しているが、日本は1970~80年代にそれと同じことを数多く経験して克服してきたから、アメリカという国家の”手口”はよくわかっています。日本は経済問題に関しては、アメリカにやっつけられない方法を貴国にアドバイスしてあげられますよ!」

最近は中国も日本を抜いて世界第2位の経済大国になったことで、余裕というか上から目線というか、隣国の日本を違った目で見ることができるようになってきたと思う。2000年以前に日本を訪れた中国人は、留学生も含めて政府高官などのエリートが多かったから、日本で何とか技術導入の商談をまとめたいというような実益本位の訪日が多かった。しかし今日本に来る人々は、富裕層に加えて生活にゆとりが生まれたいわゆる中産階級の普通の庶民も多くなってきている。

彼らはかつてのように国家の使命を背負って来日するのではないから、日本の社会と日本人の挙動を自分の眼で見ようとする。そして日本を訪れた普通の中国人はほとんど例外なく、日本の社会秩序、安全、清潔な街そしてきれいな空気などに驚く。「日本には街に乞食のような人が全然いませんね。それに日本の農村にいくと車を2台持っていたりしますね。どうして日本の農民はあんなに豊かなのでしょうか?日本では忘れ物をしても必ず戻ってきますね、どうして泥棒がいないのでしょうか?」

歴史や体制の違い、嫉妬心や優越感などいろんな要因を差し引いても、日本と中国には多くの文化的な共通性があるため、現代日本を垣間見た中国人は、中国が目指す未来の社会がここ日本に存在することにみんな気がつくのだ。次回は、こうした現状を踏まえて、日本企業の中国における中期的なビジネスチャンスについてお話ししたい。

松野豊

松野豊

松野豊まつのひろし

日中産業研究院代表取締役

1955年大阪生まれ。京都大学大学院工学研究科衛生工学課程修了。株式会社野村総合研究所経営情報コンサルティング部長を経て、2002年に野村総研(上海)諮詢有限公司を設立(野村グループで中国現地法人第1…

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