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コラム 政治・経済

2014年03月07日

ウクライナ情勢、急変

ウクライナ情勢が急変している。ロシア寄りのヤヌコビッチ大統領が政権の座を追われ、ロシアのプーチン大統領がウクライナに軍事介入する構えを見せている。もちろんEUやアメリカはロシアを強く非難し、制裁も辞さずとしているが、今のところプーチン大統領が引く気配はない。

ロシアにとってウクライナは安全保障上、いわば重要すぎる位置にある。旧ソ連時代、ソ連はいわゆる東欧諸国をワルシャワ条約機構という軍事同盟に組織していた。西側のNATO(北大西洋条約機構)に対抗するためである。西側とソ連とのの間にあった国は、東ドイツ、ポーランド、ハンガリー、チェコスロバキア、ルーマニアなどだ。これら諸国はいわばソ連と西側の緩衝材だった。だからこそハンガリーやチェコで反ソ・民主化の動きが出たときは、軍事介入してでもそうした動きを鎮圧した。ハンガリー動乱、プラハの春である。

それがソ連の崩壊で、いわゆる東欧諸国は雪崩をうって西側陣営に加わる。EUやNATOに加盟したのである。ロシアにとっては屈辱的な話だが、イデオロギーという絆がなくなれば、西側についたほうが経済としては有利になると東欧諸国の指導者は考えたからだ(もっとも急激な「市場経済化」がうまくいったかどうかは別の話である)。しかしウクライナやベラルーシといった国は、もとはソ連邦の一員であり、ロシアにとっては西側との間に残された最後の「砦」のようなものだ。このウクライナが西側陣営に入ってしまえば、安全保障上、ロシアは「丸裸」同然である。

だからこそ親西欧の風が吹いた2004年の選挙でも、ロシアは徹底的に親西欧派の候補を邪魔した。選挙期間中に大統領候補の「毒殺未遂事件」が発生したが、これはロシアの仕業だったとされている。この時は親西欧派が勝ったが、やがて選挙でヤヌコビッチ氏が勝ち、ロシアは一息ついた。しかしEUとの協定をめぐってウクライナ国内の親西欧派と親ロシア派が対立し、とうとう親西欧派がヤヌコビッチ大統領を放逐してしまった。この事態にロシアが反発したのは理解できる。とりわけクリミア半島を確保しようとしたのは、安全保障の観点から言えば、当然すぎる決断だった。

クリミア自治共和国はウクライナの一部となっているが、ロシア系住民が過半を占める。そしてソ連が崩壊した後も、ロシア黒海艦隊はウクライナから租借したセバストポリを基地としている。ロシア海軍にとって、この基地は地中海をにらむ重要な基地だ。ウクライナに西側寄りの政権ができて、さらにEUに加盟するようなことになれば、やがてNATOに加盟し、ロシアは重要な海軍基地を失うかもしれない。それはプーチン大統領にとっては悪夢である。

そのロシアに対してEUやアメリカは強く反発している。G7各国はロシアを非難する声明を発表した。ただ制裁をちらつかせたりしているものの、具体的な行動を取るところまで行くかどうかは微妙だ。もしロシアに体して経済制裁を発動したりすれば、世界的にリスクマネーが一斉にドル資産に移動する可能性がある。そうなれば新興国だけでなく、日本や欧州も大きな打撃を受けるだろう。

さらに産油・産ガス国であるロシアから原油やガスを買えないということになったら、EUへの影響は小さくない。EUが消費する天然ガスに占めるロシアのシェアはほぼ4分の1だ。もちろんエネルギー源の多様化を図っている日本も、新しいプロジェクトは進まなくなるし、工場などへの投資も止まる。それはロシア経済に大きな打撃を与えるにしても、ロシアに進出している日本などの外国系企業にも大きな影響を与える。

もちろん日本がロシアと進めたいと考えている平和条約、北方領土問題も止まってしまうだろう。安倍首相は就任以来、すでに5回もプーチン大統領と会談している。ようやく解決機運が盛り上がって来つつあったところでの中断は、双方にとって損失が大きい。安倍首相がオバマ米大統領とプーチン・ロ大統領の間を取り持つというようなことができるかどうか。それができれば日本の存在感がグッとあがるが、どうだろうか。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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