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コラム 政治・経済

2012年08月03日

目指せ、イノベーション

家電量販店の再編が急ピッチで進んでいる。彼らの背中を押しているのはアマゾンなのだそうだ。価格、品揃え、そして品切れがないこと。そして注文すれば早ければ明日届くというシステムは、量販店に行って買うのと比べても遜色がない(ちなみにある家電量販店のウェブショップを使ってみて、これではとてもアマゾンに太刀打ちできないと感じたことは以前にこのコラムで書いた)。

すっかり賞味期限切れになりつつあるかに見える家電量販店だが、もともとは立派なビジネスモデルだったのである。東京の秋葉原や大阪の日本橋といった「地域限定」の家電安売りを全国規模に広げたのは大ヒットだった。ただ追随する者がたくさん現れて、激戦となりそして今では規模を拡大するためには再編しかないというところに追い込まれたということだ。ただこれで家電量販店がだめになるわけではない。体力勝負になってきたから、誰が勝ち残るのかというゲームになったということである。

回転寿司も今や激戦区だ。最近、業績を拡大しているのは一皿105円均一のお店だけなのだそうだ。これも果てしない安売り競争に入っていく可能性があり、牛丼戦争と同じように体力勝負ということになるのだろうか。しかし、回転寿司も寿司屋という職人的な産業に一大革命を起こしたのである。その結果、ファミリーで寿司を食べに行くという昔だったら「ぜいたく」な外食が、多くの人にとって手の届くものになった。

ファミレスも同様だ。団塊の世代が子供を持つ世代になったとき、やはり小さい子供を連れて家族で外食ができるようになったのは、ファミレスができたからだ。これも外食ビジネスに一大革命をもたらした。

ただ「安売り」というビジネスモデルは、参入障壁が低い。だから最初は急拡大できてもすぐに新規参入が相次ぎ、やがて他店よりも1円でも安く、となって果てしない安売り競争になる。これは消費者にとって一見いいようだが、結局は長続きしないモデルだということが問題だ。お店が再編統合されれば、結局不便になるのは消費者だからだ。しかも再編統合の過程では、どこよりも安いというキャッチフレーズは身を潜めてしまう。

宅配の代名詞になっている宅急便も、革新的なビジネスモデルだった。ヤマト運輸がこの事業に手を染めたとき、多くの運輸会社(いわゆる東京〜大阪というような路線を中心とする大手)は、そんな手間ばかりかかる運送など成り立つはずがないとタカをくくっていたものである。宅配という分野には、超大手の国営郵便局があったからだ。しかしどうだろう。ヤマト運輸は宅配というビジネスモデルを事業に仕立て、一方の郵便事業は赤字だ。

「大手が支配しているような産業には、参入するチャンスがある」と語ったのは、バージングループの創業者リチャード・ブランソンだった。そう考える彼は、航空業界にも進出した。日本でも航空業界は長く運輸省(現在の国土交通省)の規制下にあったが、最近では新しい航空会社がどんどんできている。

ただLCC(格安航空会社)のように価格で勝負するビジネスモデルはしょせん限界があるだろう。どれほど最初は革新的であっても、他社が真似をするのは時間の問題だ。その意味では、革新=イノベーションは価格だけでなく、できるだけ他社が真似しにくいシステム全体で起こすのが望ましい。宅急便がいい例である。

そして「システム」といったときに、重要なのはそれぞれのパートをつなぐ情報だ。情報がいかに早く伝達されて共有され、そこに個々人の判断が加わって付加価値のついた情報になっていくか。そしてそれが共有され、さらに付加価値がつけられるか。その情報のいい循環を生み出せるかどうかがキーになると思う。

情報を共有する道具はそろっている。スマホやタブレット、それに通信環境、ネット、クラウド・・・。問題は、そういった構図を理解し、新たな発想を後押しできる経営者や幹部だ。「土地鑑」だけで判断したら間違うことも多く、現場を混乱させるだけだというのは、どこかの総理大臣が見事なまでの「反面教師」になっている。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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