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コラム 政治・経済

2011年08月05日

世界の金融混乱をどう考える?

2008年のリーマンショックから立ち直りつつあるかに見える世界経済。しかし先進国では後遺症がひどい。ヨーロッパではギリシャ、アイルランド、ポルトガルと次々に財政危機が表面化し、そしてギリシャは第二次支援まで仰ぐ形になった。

 

1999年1月に発足した統一通貨ユーロ。今では加盟国17カ国を数えているが、もともと国力の違う国が統一通貨を使うことに無理があることが如実に表れているのが加盟国の財政危機だ。もちろん統一通貨は一朝一夕でできたわけではない。第二次大戦が終わった直後から、欧州での経済連携による平和の維持をめざしてきたひとつの結節点が通貨統合である。それでも変動相場による為替の調整を通じての国力の調整という機能を失った統一通貨には無理がある。

 

変動相場の下では、もしある国が競争力を失ったときにはやがてその国の通貨は下がり、それによって輸出製品などの競争力が回復する。1998年に外貨が不足して危機に陥った韓国がまさにそうだ。通貨ウォンが安くなって競争力を回復した韓国は、たちまち世界の先進産業で存在感を増すようになった。

 

こうなってくると問題は、円がどうなるのかということだ。日本の景気がいいわけではないし、日本企業が世界の大企業の中で存在感が大きいわけではない。売り上げでも利益でも世界の大企業に引けを取らない企業は、トヨタぐらいだろうか。それなのに、ユーロが揺らぎ、ドルは連邦政府の債務問題で揺らぎ、円が高くなった。消去法による円高は、日本の輸出企業の採算を悪化させ、ますます日本経済は出口が見えなくなる。

 

どう見ても納得のいかない円高に加えて、われわれが抱えているのは巨額の公的債務だ。今年3月末現在で920兆円あまり。来年3月末には1000兆円を超えると予想されている。これはGDP(国内総生産)の2倍を超える金額だ。ギリシャや政府債務の上限引き上げでもめたアメリカなどは、この比率でみると日本よりもはるかに低い。それなのに日本の国債をなぜ金融機関や個人投資家が買うのかがどうもあまり論理的ではない。

 

とはいえ、どこまでも国が借金を続けられるわけではない。肝心の個人金融資産は1500兆円弱、ローンなどを差し引いたネットの金額では約1000兆円と言われている。国の借金が1000兆円ということになると、もう国にカネを貸す余裕はないということだ。もし国が国債の入札を行い、そこで予定していた金額が売れなかったら、国債はたちまち暴落する可能性がある。国債が暴落したらどうなるか。資金の80%を国債で運用しているゆうちょ銀行などでは、たちまち取り付け騒ぎが起きるかもしれない。

 

債券相場の暴落によって、トリプル安(債券安、株安、円安)の引き金が引かれるということである。そうなると日本経済はしばらく「暗黒時代」をすごすことになるだろう。数年ですむのか、それとも10年かかるのか。その後は、円安に伴う競争力の回復で輸出が伸び、日本経済は復活の道を歩むことになるかもしれない。

 

そういったシナリオで考えると、企業にとって重要なことは、この「大不況」あるいは「IMF不況」の間、いかに生き残るかということである。あるいは日本経済といっしょに沈没しないように海外の市場を確保しておくということが非常に重要な経営の選択肢になると思われる(生産拠点という意味では、日本にも足場を残しておいたほうが、円安になったときには有利かもしれない)。

 

日本でトリプル安が起きる確率は、さまざまな人がさまざまなことを言うのでわかりにくいが、僕自身が取材などで得た感触によれば80%ぐらいだろうか。もちろんその時には為替も一挙に円安に振れるだろう。そうすると、企業や個人が資産を防衛するには、外貨建て資産を増やしたほうがいいという論理が成り立つだろうと思う。

 

日本は、この時期に大震災という戦後最悪の自然災害を経験した。そして政治の停滞という意味でも、戦後最悪の状況にある。政治に多くを期待できない以上、国民は自分で自分の身を守らなければならないのだと思う。皆さんにその覚悟あるいは態勢はできているだろうか。

藤田正美

藤田正美

藤田正美ふじたまさよし

元ニューズウィーク日本版 編集長

東京大学経済学部卒業後、東洋経済新報社にて14年間、記者・編集者として自動車、金融、不動産、製薬産業などを取材。1985年、ニューズウィーク日本版創刊事業に参加。1995年、同誌編集長。2004年から…

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