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コラム 環境・科学

2012年04月25日

原子炉別にみる日本の原子力発電所

日本には原子力発電所が54基ありますが、現在稼働しているのは北海道電力の泊3号の1基のみです。原子力発電所には様々なタイプがあります。日本で使われているのは沸騰水型軽水炉、加圧水型軽水炉のいずれかです。外国では旧ソ連で盛んに使われた黒鉛炉や、カナダで開発された重水炉などもあります。今回は原子炉別にみる原子力発電所について述べてみます。

■原子炉の基本構造について<冷却材と減速材>
原子力発電所では核燃料を燃焼させて熱を発生し、その熱で水を沸騰させて蒸気を得ます。その蒸気を用いてタービンを回して発電を行います。

反応容器で発生した熱を受け取る物質が冷却材です。熱を受け取る事により反応容器の温度上昇を抑えるとともに、得られた熱を発電に使います。

反応容器内の核分裂反応で発生する中性子は大きい速度を持っています。あまり早い速度ですと燃料のウラン原子にうまくぶつからず反応が進みません。連続的に反応を進行させるためには中性子を小さい速度に落とさなければなりません。その働きをするのが減速材です。

■沸騰水型軽水炉
福島第一原発の原子炉は沸騰水型軽水炉です。軽水というのは、わかりやすく申しますと普通の水のことです。軽水炉の特徴は、軽水を減速材および冷却材として使う事です。

沸騰水型原子炉では、核燃料が燃焼する反応器内に水が供給され、反応器の中で沸騰します。水及び水蒸気は放射性物質で汚染されます。発生した蒸気を直接タービン発電に利用します。このためタービンも放射性物質で汚染されることになり、これが沸騰水型軽水炉の短所の一つです。

沸騰水型軽水炉は、日本では東京電力、東北電力、中部電力、北陸電力、中国電力、日本原子力発電の各社で使われており、製造会社は東芝と日立の関連会社です。沸騰水型軽水炉の先駆的なメーカーは米国のゼネラルエレクトリック社でした。

■加圧水型軽水炉
加圧水型軽水炉では、反応炉の中の核分裂反応によって生じた熱エネルギーで、一次冷却材である加圧水、すなわち圧力の高い軽水を300℃以上に熱します。その一次冷却材を蒸気発生器に通し、そこにおいて発生した二次冷却材の軽水の高温高圧蒸気によりタービン発電機を回す方式の原子発電です。

加圧水型の特徴は、一次冷却材の熱のみを二次冷却材に伝えて使う事で、放射性物質は伝わりません。従って発電用のタービンが放射性物質で汚染されることはありません。保守・安全面に優れており、将来に解体する場合にも大変有利になります。加圧水型原子炉は原子力空母や原子力潜水艦でも使われています。

加圧水型軽水炉は、日本では関西電力、九州電力、四国電力、北海道電力、日本原子力発電の各社で使われており、製造会社は三菱重工です。加圧水型軽水炉の先駆的なメーカーは米国のウェスティングハウス社でした。

■黒鉛炉
減速材として黒鉛を用いる原子炉が黒鉛炉です。黒鉛炉では濃縮していないウランを燃料として使えることや、ウランの燃焼で原爆の原料となるプルトニウムが効率よく製造できることが特長です。しかし、減速材に使う黒鉛の厚い壁が反応容器を大きくしている点が短所の一つで、軽水炉でみられるようなコンパクトな反応容器が格納容器に包まれることによる高い安全性を持っていません。

事故を起こした旧ソ連のチェルノブイリ発電所は黒鉛減速沸騰軽水冷却炉で黒鉛炉の一種でした。旧ソ連の黒鉛炉型の原子炉はプルトニウム製造用原子炉の転用といってもよいでしょう。あまり安全面は考慮されていなかったようで、結果として大事故を起こしました。

現在、日本では黒鉛炉は使われていませんが、半官半民の日本原子力発電が日本で最初に導入した商業用原子炉はイギリスの黒鉛炉でした。

■福島第一原子力発電所の事故について
日本の民間電力会社が最初に建設した原子力発電所が福島第一発電所です。言い換えれば稼働していた中で一番古い原発でした。事故を起こした1号炉は100%を米国のゼネラルエレクトリック社が製造し納入しました。日本の設置場所の状況を考慮して設計変更した場合は、安全が保障されないということで基本設計は米国本土の原発のままでした。

今回の原発事故の最大の原因は津波により非常用発電装置が水を浴び作動しなかったことです。非常用発電装置は海側にあるタービン建屋の地下に設置されていました。海岸部に原発を建設しない米国では津波の危険性を考慮して設計されていません。むしろトルネード被害の対策が重要で、非常用発電装置は地下に設置されるように設計されていました。

福島第二原子力発電所や女川原子力発電所など、最近の原発では非常用発電装置は原子炉建屋よりもさらに陸側に設置するか、もしくは原子炉建屋内のより安全な高い場所に設置されており、大きな津波を受けながら大事故に至りませんでした。
 

原子炉を理解する事は事故が起きた原因を知る第一歩です。今回のコラムはやや専門的な記述がありましたが、皆さまが今後日本の原子力発電がいかにあるべきかを考える一助になれば幸いです。

進藤勇治

進藤勇治

進藤勇治しんどうゆうじ

産業評論家

経済・産業問題、エネルギー・環境問題、SDGs、コロナ問題をテーマとした講演実績多数! 経済・産業問題やエネルギー・環境・災害問題、SDGs、コロナ問題などについて最新の情報を提供しつつ、社会…

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