2019年06月21日

Vol.3

Society5.0 for SDGs(持続可能な社会)に必要なこと -室山哲也氏ー

最近、新聞やニュースで目にするSDGs(持続可能な開発目標)。しかし、自分達とどのように関係するのか、また、具体的にどのように取り組めばよいのか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか?

本コンテンツでは、「SDGsとは?」「SDGsにどのように取り組んでいけばよいのか?」といった多くの方が疑問に思っている事柄に関して有識者にインタビューした内容、また企業や各種団体の取り組み例等、SDGsに関連することをご紹介していきます。

今回は、日本科学技術ジャーナリスト会議副会長で元NHK解説主幹の室山哲也氏にSDGsとSociety5.0に関してお話しを伺いました。

「SDGs」とは地球規模の共通の課題

――最近SDGsという言葉を少しずつ耳にするようになってきました。しかし、まだまだ認知度は低く「SDGsって何?」という方が多いのが現状です。そもそも「SDGs」とはなんでしょうか?また、何故、「SDGs」を達成しなくてはならないのでしょうか?

国連加盟193か国が採択し、2016年~2030年の15年間で達成しようと掲げられた目標

SDGsは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で「エス・ディー・ジーズ」と読みます。「環境問題」「貧困」「紛争」「格差」「健康問題」など、複雑で入り組んだ世界の課題を、各国が参加して、個別の課題とともに、地球規模の共通の課題も、同時に解決していこうと、国連が提唱しているものです。

1972年、ローマクラブによって「成長の限界」という報告書が出されて以来、人類の課題に、世界的に向き合う必要性が叫ばれてきましたが、2015年の国連サミットで、国連加盟193か国が採択し、2016年~2030年の15年間で達成しようと掲げられた目標です。

人類の未来を左右する重要課題

SDGsには17の目標があります。「貧困をなくす」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育」「ジェンダー平等の実現」「安全な水とトイレを世界中に」「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「働き甲斐と経済成長」「産業と技術革新の基盤つくり」「人や国の不平等をなくす」「住み続けられるまちづくり」「つくる責任つかう責任」「気候変動対策」「海の豊かさを守る」「陸の豊かさを守る」「平和と公正」「パートナーシップで目標実現」の17です。どれも人類の未来を左右する重要課題ばかり。そしてこれを実現するために、さらに169のターゲットが掲げられています。

根底で密接に関連しあっている目標。そのおおもとにあるのは地球環境問題

実はこれらの課題は、井戸が地下水脈でつながるように、根底で、密接に関連しあっています。そして「地下水」に相当するおおもとに、気候変動や食糧問題などの地球環境問題が横たわっていると考えます。

人類の人口は、1万年前は500万人ほどでしたが、農耕や産業革命を経て、今や70億人を超え、今後もさらに増加する勢いです。この、急激に増加する人類が消費する地球の資源と、地球が持っている生産力のアンバランスが根底にあるのです。

エコロジーフットプリントという指標でみると、現在の人類はすでに地球1.7個分の生活をしています。0.7個分は、地球の持っている生産力を超えて、資源を深食いしている状況です。今後、もし人類全体が、日本人の水準の生活をすれば、地球が2.8個、アメリカ人の生活をすれば5個必要となるとされています。

この「アンバランス」の結果「環境破壊」「エネルギー不足」「食料不足」「生物多様性の危機」「公害」「地球温暖化」などが起きているわけで、一つ一つの問題は、いわゆる症状にすぎなせん。したがって、これらの課題を根本的に解決するには、地球の資源を収奪するという、現代文明の仕組みそのものを変え、地球一個分の持続可能な生活を設計する必要があるわけです。

地球規模の課題と日本の課題を同時解決しようという日本の戦略

――「SDGs」の内容をみると現状の日本には、当てはまらないような目標もあるように思えます。日本としては、どのような取り組みを行っているのですか?

日本の8つの優先課題

SDGsの目標は各国ごとに事情が違うので、どの目標から始めても、問題解決につながるように設計されています。

日本は現在、少子高齢化、災害、地域復興、経済成長などの課題に苦しんでおり、SDGsの優先目標を

・あらゆる人々の活躍の推進 (女性など参加の一億総活躍)
・健康長寿 (お年寄りが元気に活躍するための医療や社会システム)
・科学技術イノベーションでの成長市場創出と地域活性化
・持続可能で強靭な国土と質の高いインフラ整備
・省、再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会
・生物多様性、森林、潰瘍などの環境保全
・平和と安全安心社会
・SDGs実施推進の体制と手段

の8つにしています。これらの目標を達成することで、地球規模の課題と日本の課題を同時解決しようという戦略をとっているといえます。

科学技術立国の強みを生かした「課題解決」と「未来創造」のSociety5.0

――日本が8つの優先課題に取り組む中で、Society5.0の推進をうたっていますが、Society5.0とは何でしょうか?また、なぜ、Society5.0を推進するのでしょうか?

Society5.0とはサイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した社会の姿――IoTやAIで問題解決する社会

日本は科学技術で成り立つ国です。この強みを武器に、「課題解決」と「未来創造」を同時に行う発想で生まれたのがSociety5.0です。

日本政府は、「人類の歴史は、狩猟社会(Society1.0)農耕社会(Society2.0)工業社会(Society3.0)情報社会(Society4.0)に分けられ、Society5.0は、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が高度に融合した社会の姿です。具体的には、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)によって、様々な課題を解決しようとする社会」と説明しています。

Society5.0は日本の成長戦略としてもすぐれたものといえますが、SDGs目標達成の手段としても使えます。「飢餓をゼロに」はIoTやAI、ビッグデータを活用したスマート農業で実現したり、「すべての人に健康と福祉を」はモニタリングデータ活用の感染症予防システムで対応、「質の高い教育」をeラーニングシステムで拡大し、「安全な水とトイレを世界中に」は汚染水をきれいにする膜技術で解決、「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」はスマートグリッドシステムによる自然エネルギーの安定供給、「気候変動対策」は人工衛星とスパコンを組み合わせた気象観測データシステムで支援するなどなどです。

――Society5.0が実現すると日本、そして世界はどのように変わりどのような世界がまっているのでしょうか?

Society5.0で変わる社会

AIやIoTなどのテクノロジーは、これからの社会を革命的に変えるポテンシャルを持っています。現在日本のAI研究開発は欧米などに大きく後れを取っていますが、今後はAIとIoTが融合するため、日本のものつくり技術が再び注目されるかもしれないという意見もあります。Society5.0で変わる社会のイメージをいくつか挙げてみます。

家にいながら診察を受けられる

5Gネットワークに支えられたAIによる画像認識を使い、遠隔画像診断や遠隔手術も可能となる。医療チップで血液データを常時分析すれば、疾病の予知や健康管理など高齢化の問題解決につながります。材料科学は、日本の得意な分野でもあり、このシステムを成長させれば、我が国の成長戦略にもつながります。

自動運転で地域を支える

現在自動運転の5つのレベルのうち、1.2が実現。2020年から2025年には、一部の地域でレベル4(条件着無人運転)が実現します。すでに輪島市など全国各地で実証実験が始まっています。自動運転は過疎地の高齢者問題や、観光などによる地域振興、物流支援など幅広い地域経済への貢献が可能で、SDGsにも大きく貢献すると思われます。

スマート農業で人手不足と食糧問題解消

高齢化や後継者不測の中、長崎県壱岐市などでは、GPSや淳店長衛星による無人トラクターやドローン活用の実証実験が進み、土おこしや種まき、収穫といったスマート農業への道を探っています。

スマートグリッドで再生可能エネルギー育成

これからのエネルギーは再生可能エネルギーなしには成り立ちません。しかし再エネは「風任せ」「お天気任せ」の不安定な特徴があり、いくつかの地域をつないで需要と供給を調整していく必要が出てきます。AIとインターネットを使い、自動的にエネルギーの需給を計算し、安定したエネルギーシステムを実現する必要があります。スマートグリッドは、災害にも強い、強靭な地域つくりにもつながっていきます。

Society5.0では、市民の心理的成熟が必要となる

Society5.0が進むと、情報の敷居が低くなり、平準化することで、様々な果実が生まれます。人間にない気付きをAIがしてくれることで、医療界、教育界、交通、エネルギー、環境など大きく課題が改善されると思います。しかしその反面、テロや個人情報の漏洩などの安全管理の問題も出てきます。技術開発を、規制しすぎると成長が止まり、放置すると生活者の権利や利益が侵害されるむつかしいバランスをとっていく必要があります。

問題はそのような新しい社会に対応した、我々市民の心理的成熟が必要となる点です。また、法律などの社会ルールも早急に整備する必要があります。例えば自動運転に伴う責任の所在など、法律的な対応は大きく遅れており、科学技術の進歩と社会制度のずれが問題となっています。さらに、加えて、IoT、AI時代に適応した人材を育てるためのリテラシー教育も必要となってきます。Society5.0を実現するためには、やるべきことが数多くあります。

テクノロジーの進化は「人間とは何か」「人間の幸福とは?」といった問題意識を持ちながら進めていくべき

――最後に、室山さんは、持続可能な社会を目指すためには、どんなことが必要だと思いますか?

今日の科学文明の姿は、人間の進化の必然です。私たちホモサピエンスは、直立二足歩行で立ち上がり、脳を巨大化させたのち、ものを認識し、脳でイメージし、手を使って道具や機械を作り、それを武器に生き延びてきました。そのつど、肉体の能力を拡大してきたわけです。移動能力は自動車やロケットで、見る能力は望遠鏡や顕微鏡で、伝える能力は放送、通信やインターネットで、考える能力はコンピュータを使って、いわゆる身体能力の拡大をしてきたのです。その視点で見ると、AIの出現は必然の結果だったといえます。

しかし私は、その技術発展に甘えすぎると、大きな落とし穴があると思います。人間を中心に据えない科学技術文明は、人類の幸福につながらない思います。たとえAIやロボットが素晴らしい性能を示し、人間の代わりに、あらゆる仕事をこなしても、そこに人間の関与がなければ何にもならない。いくら豊かで合理的な社会ができても、人間が幸福だと感じなければ意味がないからです。

私たち、ホモサピエンスの出現から20万年。最後の1万年に農耕が始まり、200年前の産業革命で、人類は豊かさを手に入れました。しかし一方で、富の偏在と格差社会が始まりました。人間の幸福とは何でしょうか?

最近の研究で、最初の19万年間は、人間関係が平等な、格差のない社会だったことがわかってきました。また、社会脳研究によれば、そのころの「平等」の神経ネットワークが、いまも私たちの脳内にあり、私たち人類の幸福感につながっているともいいます。

AIやIoTなどのテクノロジーが、今後の人類の生活をより便利に、豊かにするのは間違いありません。しかしその時、私たちの脳内にある19万年間の神経ネットワークが、果たして「幸福」を感じているかが問題です。

今後のテクノロジーの進化は、「人間とは何か」「人間の幸福とは?」といった問題意識を持ちながら進めていくべきだと、強く思っています。