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持続可能性の判断基準となりえる新たな指標「新国富指標」

最近、新聞やニュースで目にするSDGs(持続可能な開発目標)。しかし、自分達とどのように関係するのか、また、具体的にどのように取り組めばよいのか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか?

本コンテンツでは、「SDGsとは?」「SDGsにどのように取り組んでいけばよいのか?」といった多くの方が疑問に思っている事柄に関して有識者にインタビューした内容、また企業や各種団体の取り組み例等、SDGsに関連することをご紹介していきます。

今回は、SDGsを評価するための指標として注目を浴びている「新国富指標」に関して馬奈木俊介氏他 『新国富論 新たな経済指標で地方創生』(岩波書店) を通じご紹介させていただきます。

『新国富論 新たな経済指標で地方創生』(岩波書店)

GDPで豊かさは測れるのか?

現代社会において、国同士や地域同士の豊かさの比較の指標として、また、各国の経済政策上の目標としてなど、経済的な豊かさを表す指標としてGDPが広く利用され、GDPが伸びることと豊かさが続くことは同一視されてきました。

しかし、「物的な豊かさ」のみに焦点を当ててきたGDPには、森林減少による自然環境の消耗や癒しの損失、健康状態の悪化など、「環境」「社会」「教育」など多様な側面が直接的に評価されておらず、私たちが望んでいる「持続可能な豊かな社会」を表す指標として十分であるか疑問視されています。そのため、持続可能な社会を実現するための目標として多様な豊かさを内包した指標の必要性が議論されるようになりました。

新国富指標とは

そして、2012年6月「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」にて持続可能性の判断基準となり得る単一の経済指標「新国富指標」が世界に提案されました。

新国富指標は、現代経済の持続可能性を評価するために作られた指標です。そして、新国富指標とは「現在を生きる我々、そして将来の世代が得るであろう福祉を生み出す、社会が保有する富の金銭的価値」を指します。この指標が増加しているかで持続可能性が改善されたかどうかを判断でき、各国のSDGsの成果指標として期待できるものです。

新国富指標は3つの資本群(教育や健康などの人的資本、経済的な豊かさを捉える人工資本、自然環境資源などをとらえる自然資本)により構成され、3つの合計が地域における多面的な豊かさ(well-being)を表しています。したがって新国富指標が大きいことは他国・地域との比較において、相対的に豊かであるということが言えます。

持続可能性の経済指標「新国富指標」

新国富指標は従来の指標とは何が違うのでしょうか。

本著ではGDPを取り上げ、世界における1人あたりの新国富指標およびGDPが増加した国の割合で比較しています。 「新国富報告書 2014」によれば、1人あたりGDPは90%の国で増加しているにもかかわらず、1人あたりの新国富は60%の国でしか増加していません。GDPだけをみれば世界の90%の国が持続可能であるのでしょうか。実感としてそうではないと考えると筆者は言います。ではこの差は何でしょうか。

経済活動における所得の流れといったフローを計測するGDPでは経済の持続可能性を損なう自然資源や人的資本といったストックの減耗を把握できないところにあります。GDPでは持続可能性を失っている国であっても持続可能なように見えてしまう、すなわち持続可能性を過大評価してしまうということです。

新国富論は持続可能性のシンプルな指標である新国富指標を提示することで国内の自治体レベルでの指標の活用を可能とし、地域経済の持続可能性の向上を目的としたものです。

この指標はGDPの代わりになる指標ではなく、あくまでGDPとともに利用する指標であり、補完的な役割を果たす指標であるということと筆者は述べています。

日本が持続可能であるためには?

では少子高齢化が進む日本において日本が持続可能となるためにはどうしたらよいのでしょうか。
著者は日本の強みであった人的資本、中でも健康資本への投資が最も重要であろうと述べています。

まず、新国富において健康資本とは何を指すのでしょうか。
健康資本には3つの価値が含まれています。

1.生産性の上昇に伴う価値
Ex)超過労働に伴う睡眠不足が解消されることで労働生産性が向上し、その結果得られる所得の増加が消費に回される点での価値
2.直接的福利と呼ばれる、経済の生産過程を通さず、直接的に健康になることによる価値
Ex)手術によるひざの痛みがなくなることは労働生産性に直結しないが、痛みがなくなることで人は即座に幸せを感じる。
3.長寿の価値と呼ばれる、死亡確率が低下することにより追加された生活から得られるすべての福利
寿命が延びることによる価値であり、それにより、長期的な視野に立って生産的に仕事ができるかもしれないし、余暇を楽しむこともできる。

そして、日本が持続可能となるためには3の「長寿の価値」への投資が必要であると述べています。

具体的に健康資本ストックを増加させるためには

・余命延長のための医療技術への研究開発投資
・出生率上昇のための保育施設の建設や育児制度の充実
・高齢者が定年退職後も働き続けられるような制度形成

が必要となります。また、ドローンなどの人工知能分野への投資と活用により、労働者不足や自然資本を管理する担い手不足を緩和していくことも同時に必要です。

地方創生の持続可能性条件

今後、高齢者の地方移住が地方創生に利するとする見方があります。
地方の地代の安さにより、高齢者医療や介護サービスに関連するヘルスケア産業は地方が優位を持つ産業であるといわれているからです。

ヘルスケア産業には介護・医療施設が必要であり、また、高齢者の移住には当然住居の取得が必要であり、土地が安いことがヘルスケア産業の生産性の高さに繋がります。

さらに高齢者の地方への移住が進めば、ヘルスケア産業の需要者が増えるために、その需要を補うように働き手である若者の雇用が増加します。また、賃金が増加する効果もあり、このような地方への高齢者移住はヘルスケア産業の活性化を通じて若者の移住誘致ともなりえることから、地方の人口を増加させる点、経済発展の観点からも地方創成の有効な手立てとして考えられています。

まとめ

今回は既存の経済指標GDPを補完する指標「新国富指標」と指標の実際の応用について紹介してきました。

本書では上記以外にも日本の人工資本における社会資本を限りある財源の中でどう整備していくか、マネジメントのあり方のお話や日本の豊かさの数字上の根拠等、国レベル、自治体レベルにおいてどう持続可能な地域をつくっていくのか政策レベルでの提言があり、非常に参考になる書籍でした。

新国富指標に含まれている指標項目のほかにも拡張することが必要な項目はありますが、まずは豊かさの新しい指標である新国富指標を浸透させ、街づくりへの導入(実践への導入)へ進めていければより、新国富指標が有益なものとなっていくとなっていくのではないでしょうか。

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