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『若者はなぜ3年で辞めるのか』の著者・城繁幸氏に聞く ―企業の人事制度の問題点と若者のキャリア観―

城繁幸

城繁幸

人事コンサルタント

新卒社員のおよそ3割が3年以内の離職するという現状、
さらに第2新卒市場、転職市場の活況など、
若年層のキャリア形成に及ぼす環境が、ここ数年で変わってきています。

現代日本企業の人事制度が抱える問題点・矛盾点を突き、
各方面話題の『若者はなぜ3年で辞めるのか』の著者・城繁幸氏に、
現代の若者のキャリア観と、労使双方の課題をおうかがいしました。

“根性論”で片付けてはいけない

<聞き手: 鈴木勝彦(株式会社ペルソン 専務取締役)>

―城さんの著書、『若者はなぜ3年で辞めるのか』のタイトルにある通り、現在、入社2~3年、特に新卒者の離職率は3割以上とまでいわれています。このように、若者たちが短期間で会社を辞めていく原因は何なのでしょう?

この話題に関して、よく「今の若者は根性がない」とか、「自分たちが耐えられてきたことをなぜ耐えられないのか」といったお叱りの声を聞きますが(笑)、若者を取り巻く環境はここ十年ほどで、まったくと言っていいほど変わってきています。

 短期間で辞める若者の多くは、「割に合わない」と感じています。そもそも、戦後日本の人事制度の根幹を為してきた年功序列は、「若い頃に稼ぎ貯めた報酬を、将来、出世して受け取ること」を定義しています。しかしバブルがはじけて、このシステムは崩壊しました。年功序列制度の中では、報酬の受け取り側に回る、つまりポストに就くのは入社20年ほど経った45歳あたりが一般的でした。大手の製造業を例にとると、部長以上のポストに就いている割合は団塊世代で約9割。ほとんどの人は報酬を”回収済み”ですね。しかし今の45歳前後、いわゆるバブル世代を見ると、2~3割まで下がります。これが団塊ジュニア世代(35歳前後)以降になると、さらに下がるでしょう。

 現在45歳以上の人々は定期昇給制度のもとに入社していますので、ポストに就けなくても、ある程度の金額の給料は確約されます。しかしそれがない現在は、序列が上がらない限り、”35歳で給料が頭打ち”なんてことも考えられる。つまり年金を払うだけ払って、受け取れない。さすがにこれは割に合わないと考えるのも無理はないでしょう。

 

―ちなみに私は91年入社、いわゆる”最後のバブル世代”なのですが、当時、短期間で辞めていく人は今ほど多くなかったと記憶しています。それは、現在のように転職市場が活況ではなかったのもありますが、それよりも、「自分もあんな風になりたい!」と思える先輩が社内にたくさんいたおかげでモチベーションが保たれていたからだと考えています。今の若い世代にはそのような”良き模範”となる先輩がいないのでしょうか…?

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【『若者はなぜ3年で辞めるのか?』はベストセラーに】

それは言えますね。会社を辞める理由は十人十色ですが、私が知る限り、辞めた人、それも優秀な人は、「社内に『こうなりたい!』と思える人がいなかった」と、口をそろえます。というのも、年功序列の中では、自分の5年後、10年後のおおよそのモデルが社内で見えるんですね。仰る通り、バブル世代までは、自分よりも上の世代が年功序列というレールの上におり、順調にポストに就いていったので、理想的なモデルはたくさんあったと思います。しかし団塊ジュニア世代以降は、先輩や上司が、社内で”地獄”を見ているのを目の当たりにしたのです。

  それは何かというと、バブルがはじけて、ポストに就きたくても席がまったくない。だいたい課長職は35~40歳が一般的ですが、その間に抜擢されないと、その後の出世コースは閉ざされてしまいます。更に、定期昇給がない場合、お給料は1円も上がらないまま、定年までの間、今の業務を20年以上も続けていくことになる。出世も見込めず、仕事の裁量が広がるわけではなく、これではモチベーションが上がるわけがありません。また、会社にもよりますが、平成不況の底の99年~2001年あたり、企業は45歳以上の中高年を大量にリストラしました。彼らはポストに就いて、高い報酬をもらっている立場ですので、次々にクビを切られていきました。

ですから今の20代は、新卒で入社したものの、このようにモチベーションの低い先輩や、次々にリストラされていく上司を見ているうちに、「ここは長くいるところじゃない」と考えて見切りをつけるのだと思います。いくら大企業にいたところで、幸せな未来が確約されるわけではないのだ、と。

 

対象はいつも「これからの人」

―成果主義や目標管理など、新しい人事評価システムを導入する企業が増えていますが、これも影響していますか?

iv33_Jo1これらのシステムが有効に機能しないのは、「既存の年功序列的な組織を維持する方向」で行なわれているからだと思います。

 具体的に言うと、バブルが崩壊して、定期昇給が約束できなければ、ポストも今までどおりの配分はできないという状況になり、企業は「目標管理」をして昇給しづらいシステムを作りました。では、このシステムの対象は?というと、「これからの人」、つまり若い世代なんです。更に、それでも人件費が足りないとなったら、99年に派遣法を改正して、多くの企業が派遣社員を容易に雇えることになりました。そこで誰を派遣するかといえば、多くは20代の若者です。

 つまり、既存の雇用制度や賃金体系にメスを入れるわけではなく、若い世代に全てしわ寄せが来ています。それから、世界でも非常に特殊なのですが、日本では法令上、労働条件の不利益変更(※)が認められていません。このような状況では、本当の意味での成果主義とはいえません。

※「労働条件の不利益変更」:賃金の減額、退職金計算式の削減的変更、労働時間を長くする、逆に労働時間を短縮する代わりにこれに応じて賃金を削減するなど労働条件を引き下げること。この場合、その方法は就業規則の変更で行なわれるのが一般的で、労働者の同意が必要。

―若者たちが異変に気づいて辞めていく、ということですね。

 ただ、このように理論立てて辞めていく若者は少数派です。「なんとなくおかしい」と感じるものの、大多数は、発想や動機が従来と同じです。つまり、「今の会社より業績の良い会社へ移れば、何か”良いこと”があるかもしれない」と。しかし内実は先ほど述べたとおり、大差はありませんから、そういう動機で転職しても失望が大きいようです。

インターンシップ制度の皮肉

―企業側は、「3年で辞める若者」を出さないために、どのような対策を講じているのでしょう?

iv33_Jo6新卒者への対策に限って言えば、2000年あたりから、企業の採用スタイルが変わってきています。従来は…あまり良い言い方ではないのですが、「いかにして“その気”にさせるか」というスタンスでした。いったん入社すれば、簡単には辞めませんでしたから、採用時に「うちはこんなに良い会社ですよ」と、綺麗なところしか見せなかった。しかし転職市場が活況となり、誰でも簡単に転職できる環境になると、優秀な人材からどんどん辞めていく。そのような状況になって、企業はスタイルを180度、変えました。現場の泥臭い部分や、自社にとって都合の悪いことを積極的に公開するようにしたんです。その代表が”インターンシップ制度”(※)です。ところがこれが裏目に出てしまいました。

※ 「インターンシップ制度」:在学中に、就職先選びやキャリアプランのために、企業など実際の職場で働く経験をする制度。

―入社前と入社後のギャップを埋めるための策に、企業のほうがはまってしまったんですね。

結局、”日本企業離れ”が進んでしまったのです。しかも優秀校の学生はインターンとしても引く手あまたですから、企業はなおさら自分の首を絞めてしまった。ついこの間も、顕著な例がありました。東大の就活サークルの学生たちと話をしたのですが、第一志望の企業を尋ねると、いわゆる伝統的な日本企業は1社もなく、9割方は外資系の金融企業、もしくは戦略コンサルタント企業、残りはベンチャー企業です。その中の女子学生に志望理由を聞くと、「国内某大手企業にインターンで行ったのですが、まず20代の人間は雑用ばかりやっている。それから、女性の総合職がほとんどいませんでしたから」という答えが返ってきました。

 ただ、「企業側の情報公開」・「離職率の増加」・「転職市場の活況」、この3つの要素はスパイラルの関係ですので、どれが現状の起点なのかは、一概に判断できないところですが。

―学生の意識も、ずいぶん変わってきていますね。彼らは外資系企業やベンチャー企業を志望するメリットをどう考えているのでしょうか?

もちろん、すべての学生がキャリアプランを明確に持っているわけではありません。例えば、かつて「都銀の景気がいいらしい」という情報を受けて、都銀への志望者が増えた現象と同じで、「みんなが外資系に就職するから」という理由で選ぶ学生も多くいます。ただ、明確なキャリアプランを持っている学生に限って言えば、「自分の市場価値」を軸にしています。それぞれ、「30代で引退したい」とか「海外で仕事をしたい」、「起業したい」など、プランは多種多様ですが、労働市場における人材価値を高めたいという考え方は共通しています。ですから、社名などにはこだわらず、「この企業で何年かキャリアを積んだら、次はあの企業で違うキャリアを積んで…」と考えている人が割と多いですね。これは本当の意味での「就職」と言えます。ほとんどの人は「就社」ですからね。

 

世界で唯一の"職能給"というシステム

―ちなみに、海外の若者たちの就職状況について教えて頂けますか?

iv33_Jo5国によって違いはありますが、アメリカは基本的に解雇ができますので、失業率は若者より、むしろ年配者のほうが高いです。若くて優秀な人はすぐに就職できますね。ドイツやフランスは終身雇用がベースなので解雇は基本的にできませんから、若年層の失業率は高止まりの状況です。フランスでは全体の失業率10%に対して、若年層は20%を越えています。大学を卒業して、すぐに就職できる人は非常に少ない。多くは、しばらく無職か、日本で言うところの”フリーター”を繰り返すうちに、チャンスを見つけるなり、スキルを磨くなりして、企業にもぐりこむパターンがほとんどです。

 ただ、海外と日本で決定的に違うのが賃金体系です。アメリカもヨーロッパも”職務給”です。これは、担当する職務の種類や内容で給料が決まります。アメリカはそれが徹底していますので、「新卒でマネージャー」とか「2年目で事業部長」という人が結構多い。日本ではまず考えられないことですよね。一方、日本は”職能給”です。これは世界でほとんど唯一の賃金制度で、年齢で給料が決まります。ですから、30歳までフリーターをしていた人が企業に就職しようとして、「新人並みの給料で使ってください」とアピールしたところで、企業は新卒以上の賃金をあげなければなりません。それならば、低賃金で使える新卒者を採用するのは自明の理ですよね。

―再チャレンジが難しいシステムになっている。

日本では、大学教育から企業の採用方式、賃金体系までの全てが、高度経済成長時期に作られた1本のレール、つまり年功序列が前提で成り立っているんです。しかし、今はそれ自体が崩壊していますから、そこからこぼれた人は救われないというのは非常に残酷だと思いますね。

3年で「辞めさせない」ために ―企業がするべきこと

―今後、離職率を抑え、企業を発展させていくためには従業員満足(ES)の向上は非常に重要な要素になりますが、企業が具体的に取り組むべきこととは?

 現在、3年以内に辞める人は新卒全体の35パーセントといわれていますが、そのうち、明確なキャリアプランをもって辞める人と、そうでない人の2つのパターンに分けられます。それに合わせてES向上のためには2つの方法が考えられます。

 まずは明確なキャリアプランを持つタイプの人への取り組みです。彼らは今後、間違いなく会社の大きな戦力になっていきますので、何はさておき、そういう人をまず手当てしないといけません。そのためには、職務給の導入以外にありえません。能力がいくらあっても、横並びの昇進しかありませんから、優秀な人ほど自分の能力が発揮され、正当に評価される場所を求めて辞めていってしまうわけです。ですから、年功ではなく、能力でポストを配分するためにも、少なくとも管理職以上は完全職務給にする以外ないです。

―後者の、明確なキャリアプランを持たない、つまり「なんとなく」辞めていくタイプの人に対しては、どのような取り組みが考えられますか?

iv33_Jo8こちらのタイプが多数派だと思うのですが、割と手当てしやすいかと思います。というのも、年功序列は、連続した年代を採用することで初めてシステムとして機能する面があります。たとえばOJTなど、比較的、年齢の近い先輩から指導されることで、組織としての一体感が調整できますし、指導する側もマネジメント力が磨けますよね。ところが93、4年以降に採用数が激減して、企業によっては採用数ゼロのところもありました。年代構成に偏りが出て、若者が孤立してしまったのです。新卒で入社したら、一番年の近い先輩はバブル期に入社した40代の人だった、という例もありますから、その点を手当てしましょう。

―具体的には?

もちろん抜本的には、2、30代へのリソースを増やすことですが、一番、お金のかからない方法は、マネジメントのガイドラインを作成して現場の上司に徹底させることです。かつて、年代の近い先輩社員が果たしてきた役割を、中間管理職にやらせるんです。例えば、定期的に若手との面談の機会を設けて、ヒアリングして意思の疎通を図ることで一定の効果はありますよ。この方法で離職率をゼロにしている会社もあります。あとは「嫌がられない程度に」飲みに誘うこともアナログですが有効です。

iv33_Jo3―「飲みに誘う」のはいまだに通用するんですね。
  個人的に安心しました(笑)。

意外に、まだ通用するんですよ(笑)。やはり、大学を卒業して組織に入った時というのは、誰しも不安や葛藤を感じますよね。これは普遍的なことですから、それを丸くしてやることが、入社3年以内の社員に対する会社の大きなマネジメントだと思いますし、中間管理職の役目でもあります。そのようなサポートが何もなくて放置されていては、当然、離職率は上がります。やはり人材の回転率が異常に高い会社は、業績もよくないですからね。

―システム面とメンタル面、情と理のバランスをうまくとっていくことが重要ですね。弊社へもここ数年前から、若手社員のモチベーションアップが目的の研修系講演へのお問い合わせが増えています。中でも、スポーツアスリートのメンタルスキルは、ビジネスにも落とし込める点が多々あります。ストレスに対処するスキル(「コーピング研修」)や、自分でモチベーションを向上させるスキル(「セルフモチベーションアップトレーニング」)などへのニーズが高まっており、企業側の危機感がうかがえます。

3年で「辞めない」ために―若者がするべきこと

―さて、個人レベルでは、「もはや会社に依存する時代ではない」と、明確なキャリアプランを持って辞めていく若者と、一方で「なんとなく」辞めていく若者がいます。現状のシステムに矛盾を感じつつも、自立心を持ってキャリアを築いていくために、彼らはどんな考え方や行動をしていくべきでしょう?

まず、どういう生き方をするかは個人の自由ですから、企業の中に残ることが悪いとは言いません。しかし、常に「自分の市場価値」を意識してキャリアを作っていくべきだと思います。

 例えば、ついこの間、ヘッジファンドに勤める28歳の男性に話を聞く機会がありました。彼は新卒で有名外資系金融企業に入り、3年できっちり辞めて、現在は新興のヘッジファンドで高給を得ています。外資系企業は、いつクビが切られるかわからないシビアな世界ですから、彼に「雇用のリスク」について尋ねてみたんです。すると面白いことを言っていました。「僕に言わせれば、日本の大手企業や金融機関に勤める人のほうが、はるかにリスクの高い生き方だと思います」と。つまり、”つぶしのきかない生き方”に見えると。彼は、「もし、いま会社をリストラされたとしても、来週から別のファンドに勤められますよ」と言っていました。

―つまり、現在の労働市場で生かせるスキルや能力が身についているか、”自分の市場価値”を常に客観的に判断することが重要ですね。

僕もやはり3年以内の転職はあまりおすすめしないです。やはり3年で1つのキャリアですからね。しかし辞める人には、さまざまな動機があります。明確なキャリアプランを持っているとか、完全に職種変更したいとか、入社前後で労働条件にギャップが生じる場合だってないわけではありません。そうなると、今の日本では転職は新卒後3年以内が勝負なんですよね。でも、今の仕事の延長上に自分のキャリアプランがあるのなら、それは耐えなければいけません。ですから、まず自分が何を求めているのかということを見極めてから残るなり、辞めるなりを決めないといけないですね。

本日は貴重なお時間の中、どうもありがとうございました。 (了)

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<インタビュアー>

鈴木 勝彦 (すずき まさひこ)/ 株式会社ペルソン 専務取締役

1991年4月株式会社リクルート人材センター(現 リクルートエージェント)入社。人材紹介業における求人/求職両者のコンサルタントを歴任。IT業界を中心に、求職者募集の企画立案、イベントを実施。2003年株式会社ペルソン入社。スポーツ、研修分野の講師との関わりが深く、若手社員向けのモチベーションアップのための研修プログラム「アスリートから学ぶビジネス研修-セルフ・モチベーションUPトレーニング-」の企画、構成、制作、トレーニング講師をおこなう。

編集・写真:上原深音  (2007年3月1日 株式会社ペルソン 無断転載禁止)

城繁幸

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城繁幸じょうしげゆき

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