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研修を成功させるための準備

前川孝雄

前川孝雄

株式会社FeelWorks 代表取締役社長

企業では、人材育成の重要性がますます高まっている。
そこで求められているのが、クオリティの高い研修。講演と研修では何が違うのか?今どんな研修が求められているのか?
いい研修を行うための準備とは?人材育成領域で大企業を中心に高い評価を得ている専門家集団FeelWorksグループの創業者、前川孝雄氏に聞く。

編集技術を使って研修やコンサルティングを行う

もともとリクルートで活躍されていた前川さんが、独立されて講演や研修活動を始められたきっかけは、どんなものだったのでしょうか?

前川孝雄

2008年の起業時、実はもともとは研修などをやろうと思っていたわけではないんです。遡る2000年代に学生、若手社会人180万人の読者がいた伝説のお化けメールマガジンの編集長をしていたとき、若い人から悩み相談が月に1,000通くらい来ていました。5年間ほど、そのすべてを読み特設チームを通じて返事や応援メッセージを返していたんですが、改めて感じたのは、企業社会で若い人がうまく育たなくなってきている、ということでした。ちょうど早期離職の問題が顕在化していた頃でもありました。一方で、日本企業は終身雇用が維持できなくなり、日本型の長期的な人材育成が瓦解し始めてもいたんですね。新卒一括採用、企業内人材育成が当たり前だったわけですから、若い人が戸惑うのは当然です。

だから、若い人を応援したい、現場の悩みに寄り添える仕事をしたい、と考えて、起業後はメディアに出たり、イベントをやったり、セミナーをやったりしたんですが、うまくビジネスになりませんでした。そんな中で、編集長時代に書いていた私の処女作『上司より先に帰ったらダメですか?』(2005年・ダイヤモンド社)を読んでくださった人事の方から、新人研修をやってほしい、という声がかかるようになりました。リクルート編集長時代から、講演は多数お受けしてきましたが、当時は研修となると門外漢です。研修業界の知り合いに研修の相場を聞き、見よう見まねでプログラムを作って、大手金融機関などで研修の仕事をスタートさせたのが始まりです。

その後、いかに新人など若手に研修しても、現場OJTを担う上司と接続できなければ、結局若手はうまく育たないし、何より日本型雇用が変化するなかで、当の上司層が部下の育て方に悩んでいる現実を痛感しました。そこで、コミュニケーションやマネジメント、リーダーシップにフォーカスをあて、『上司力トレーニング』(2006年、ダイヤモンド社)を皮切りに、最近では『もう、転職はさせない!一生働きたい職場のつくり方』(2018年、実業之日本社)など上司を支援する本も多数書き、それらをもとに今度は「上司力研修」「上司力鍛錬ゼミ」という独自プログラムを開発し、管理職経験ある講師も養成しました。

その結果、研修や講演のお声がけを多数いただくようになり、大手企業を中心に400社以上で管理職向けの研修を提供してきました。持ち前の編集技術を使って研修プログラムやコンサルティング、育成風土を創る社内報を提供するようになって、気が付くと10年以上が過ぎていました。

前川孝雄

研修会社はたくさんありますが、私たちに期待いただいているのは、現場のフィット感やライブ感だと思っています。既成のフレームワークや方程式に縛られず、時には現場の人にインタビューしたり、上司にインタビューしたりして、その企業ごとに細かくチューニングして、プログラムを作っています。さらには、私たちの講師は部下育成やチームづくりの現場経験を豊富に積んだ大企業の管理職経験者ばかりです。だから、現場にフィット感が出るんです。

 

上司世代の50歳からのキャリア自律が重要テーマに

最近では、どんなテーマでのご依頼が多いですか?

若手の育成、上司力の養成の重要性は今も変わりませんが、2000年代後半から2010年代にオファーが多かったのが、女性活躍推進でした。また、この5年ほどでいくと、働き方改革です。『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(2016年、ベストセラーズ)を書き、限られた時間の中で、どうコミュニケーションを取り、パフォーマンスを上げるか、マネジメントしていくかを支援してきました。さらには、若手のリテンションマネジメント。早期離職防止ですが、単に離職を思い留まらせればよいのではなく、大切なのはキャリア支援です。

個と組織の関係性が変わっていく中で、「四の五の言わずにやれ」「石の上にも3年」といった考え方は、すっかり古くなっています。若手はもちろんのこと、女性やベテランや外国人の部下が何を思っているか、しっかり受け止めないといけない。役割を提示して、一人ひとりに成長予感を感じさせるような組織支援が求められています。

 ただ、キャリア支援として若手に「あなたは何をやりたいの?」と聞いている上司本人が、実は何もキャリアを考えていなかったりするわけです。実際、辞令1枚でどこでも飛んできたわけですし。それでは、部下も上司に憧れようがない。

だから多様な部下のキャリア支援の前提として欠かせないのが、上司自身のキャリア自律でもあったりするんです。キャリア自律とは、会社任せのキャリアではなく、自分はどういうキャリアを築いていきたいのかを考え、自分の働きがいや成長に向けて今の仕事の意味づけをはっきりさせることです。終身雇用や年功序列を信じて会社からの辞令で異動や昇進を重ねてきた上司層にはとても難しい課題です。しかし、上司がキャリア自律できていなければ、部下のキャリア自律も支援できないですよね。さらには、人生100年時代となり、定年がリタイアではなくなった現代には、上司自身の幸せのためにも、会社任せではないキャリアを考えなければいけません。50歳からのキャリアづくり、定年後の60代、70代の働き方を考えてもらうことが益々注目されてきているのです。

実際、上司の側も自分の将来キャリアに悩んでいます。会社員人生は、役職定年、定年、嘱託や出向と続いていくわけですが、もう一度、自分の人生のハンドルを自分で握りましょう、50歳からもうひと勝負しましょう、という提案をしています。先々は会社を離れる、という選択肢も含めて。

このニーズが今、ホットになってきていますね。実際、30冊目の著書として『50歳からの逆転キャリア戦略』(2019年、PHP研究所)を書きましたが、飛ぶように売れています。年金財政への懸念から、政府も定年後の転職や独立支援の努力義務を企業に課そうという動きもあります。50歳からキャリア自律はこれからますます重要度を増します。これに対応するために私たちも「50代からの働き方研修」を開発しましたが、上司世代向けのキャリア研修も増えており、今後は、ロールモデルが少しずつ増えていくと思っています。

前川孝雄

また『年上の部下とうまくつきあう9つのルール』(2011年、ダイヤモンド社)も書きましたが、独自開発した逆年功の「ミドル・シニアの部下の活躍を支援する上司力研修」の引き合いも高まっています。

 

行動変容のきっかけを生み出せるのが、研修

いわゆる「講演会」と「研修」では、何が違うのでしょう?

よく申し上げているのは、聴講者や受講者にとって、講演はインプット、研修はアウトプットだということです。起業まもなくの10年以上前にショックを受けたことがありました。ある大企業で講演に呼ばれ、「人が育つ現場」の大事さについて、私より少し上世代の管理職に熱弁しました。私自身の失敗談も交え、部下を育てましょう、部下一人ひとりの思いに耳を傾けましょう、上司自身が変わり行動を起こしましょうと。
 聞いてくださって、感動してもらえて、そうだよね、その通りだという声を沢山もらいました。我々も新しいことを学んで、新しい時代のマネジメントに挑戦しないといけない、と。

懇親会でも、たくさんの方に声をかけられました。わかってもらえた、と思いました。ところが、話を聞いて感動し、自ら部下に働きかけようとおっしゃっていたベテラン管理職のお一人が、事務局をやっていた若い部下に、その場でこう言ったんです。
「そういうことで、君、次の講演をよろしく用意しといてくれ」

講演も意味があります。短時間で刺激を受けられる。学びがある。ただ、刺激を受けても、行動変容のきっかけまでは講演だけでは難しいのかもしれない、と思いました。だから研修では、自分たちが内省してもらうことを重視しています。自分はどうなのか。自分はどうあるべきか。

グループワークで経験を共有する。新しい知を発掘する。自分も変わらないと、と気づく。その気づきの連鎖を作る。それを具体的な行動計画に落とし込んで、自ら行動変容して、アウトプットしてもらう。言ってみれば、講演は食材の仕入れ、研修はそれを受けて調理するイメージでしょうか。

実際、グループワークのファシリテーションをやっていると、思わず本音が出て来たりするわけです。若手育成にしても、女性活躍推進にしても、理屈を言うことは簡単です。わかったつもりにもなっている。でも、自分が本当に心の底から思えているかどうか。実はやらされ感を持っていたり、何らかのバイアスがかかっていたりします。そのことにはっきり気づけることは極めて重要です。そこから、本当の腹落ちが起こる。

前川孝雄

もっと定着化させたい、もっと持続効果を持たせたいということで、数年間、ゼミ形式で伴走したりすることもあります。編集技術を使って、変化した上司を社内報で部下を育てられる上司としてスターにしていく。上司力アワードを年1回開催して表彰する。そんな提案をすることもあります。これからの時代の上司のロールモデルを創っていくわけですね。

「誰が言うか」で受け手の反応は大きく変わる

「社内講師」と、「外部の講師」はどう違いますか?

社内講師の魅力は、なんといっても社内事情を一番わかっていることですよね。社内で発言力がある人が登壇すれば、みんな聞いてくれます。ただし、平成の30年間、日本企業が苦しみ抜いたのは、高度成長期の成功体験を引きずり、変われなかったからです。多くの企業が、変わらないといけないと思っている。働き方改革も、生産性向上もイノベーションもそのためです。今までの仕事のやり方でいいのか。変革が求められている。
しかし、変革やイノベーションは内部から起こすことは極めて難しいものです。社内でずっと過ごし、同一性の中で生きていれば、同じ行動をしてしまうのは必然です。そこに、私たち外部講師の介在価値があると思っています。

世の中がどう変わっているか、多くの企業現場を見て来たからこそ言えるその会社の課題は何か、働く思考の変化はどうか。そんな話からハッと気づきを得てもらうことで、社内で化学変化が起こせたりする。また、経営者や人事の責任者によく言われるのは、変わらないといけないことは明確にわかっているのだが、自分たちや社内講師が伝えても変わらない、ということです。「あなたに言われても」ということにもなるし、特に女性活躍推進などが典型的ですが、総論は賛成だけど事実上はガラスの天井はそのまま、なんてことにもなってしまう。

前川孝雄

講師は男性で、と依頼されるケースも少なくありません。いまだ管理職や経営幹部の大半を占める男性に受講してもらうのに、講師が同じ男性でないと難しい、ということです。男性の視点から、女性部下の成長の大切さを語ってもらったほうが説得力がある、と。伝えたいメッセージは同じ。でも、誰が言うかで受け手の反応は大きく変わります。それこそ、一家言ある人間のほうが聞く耳を持ってもらえることは少なくありません。外部の講師、外部の有識者をうまく媒体として使ってもらうことには大きな意味があります。

チーム意識を持つこと。餅は餅屋に任せ連携すること

外部講師に依頼して研修を成功させるための注意点はありますか?

まず、依頼する側にチームとしての意識を持ってほしい、ということですね。もちろん、講師が研修講師なり、ファシリテーターを務めるわけですが、それは経営層や人事などからのオリエンテーションから始まる全体のチームワークの中の一部分だということ。その位置づけが作れるかどうか。

よくあるのは、著名な講師を呼んで、あとはすべてお任せすれば大丈夫だろう、という考え方。これではうまくいきません。やっぱりチームが大事なんです。そのためにも、講演会でも研修でも、しっかりと事前の準備や打ち合わせをしておくことです。特に、目的をはっきりさせて共有する。その上で、講師の持つ経験知のどの部分を強めに出してもらうか、すり合わせておく。そして、あとは任せる。

事前の内容について事細かにチェックしたい、一言一句確認しておきたい、と言われることがあるんですが、実はこれは微妙です。当日その場の雰囲気もあるからです。また講師がせっかくの持ち味を出せなくなりかねないからです。経営層の意向や受講者の反応が気になり、おかしなものにできない、という気持ちはわかりますが、枝葉末節まで決めてしまうと、外部講師に頼む効果は激減します。逆に、任せるためにこそ、目的をはっきりさせておくことが大事になります。また、受講者や聴講者がどんな人で、どんな状況にあり、どんなことを考えているのか、どんなニーズを持っているのか、伝えたほうがいいですね。そこから、講師はどんなパフォーマンスがベストかを考えていきますので。

あとは、研修当日、仮に1日8時間の研修だったとしても、始まりと終わりの30分程度は、主催者側の時間にしてもらっています。始まる前に社内の責任者から、オリエンテーションや趣旨説明をしっかりしてもらう。受講する人に、何を学んでもらいたいか、しっかり自分の言葉で伝えてもらう。また終了後は得た学びのポイントを自社ならではの観点で締めるのです。これによって、受講者はスムーズに現場と接続できます。また、丸投げではない、という空気を醸し出せる。チームワークが発揮できるんです。

研修を依頼する前に考えておくといいことはありますか?

やはり主旨、目的を整理しておくことですね。また、受講者の人数、どんな心理状態の人が多いのか、どんなことが現場で起こっているのか、どんなことが気になっているのか、できるだけ詳しく把握しておく。

従業員向けの意識調査などがあれば、それを見せてもらうのも、ありがたいことなんです。定量調査だけではなく、定性調査のコメントを読むことも、どんな人がどんな濃淡でやってくるのかを知る上で、貴重なインプットになります。場合によっては、本番前に受講する対象層の方々数人にインタビューさせてもらったり、座談会を開いてもらうこともあります。講師からのメッセージのピントを合わせるためです。

人材育成は、これから変えていかないといけない重要テーマ

最後に研修講師の立場から、研修や講演の主催者にメッセージをいただければ幸いです。

前川孝雄

日本企業は大きな変わり目に来ています。採用でも、AIを研究しているような特殊な知見を持つ新卒社員を1,000万円の年収で募集するニュースがありました。一方で、中高年人材の年収はどんどん下がっています。何が起こっているのかというと、メンバーシップ型雇用が、ジョブ型雇用に変わってきているということです。若い頃の給与は低めだけれど、我慢してくれれば後払いでもらえる。退職金のおまけまでついてくる。職種や勤務地も限定せずに、会社の事情に応じてジョブローテーションしていく。その代わり、雇用を保障するよ、というのが日本型のメンバーシップ雇用でした。欧米型のジョブ型雇用は、この期間は、どの地域でどんな職種でどんなパフォーマンスを期待するから、いくら払う、というもの。時価で給与が決まるということです。その代わり、終身雇用の保障はない。

私は本業の傍ら、青山学院大学で教鞭を執り10年以上経ちます。学生にも言うんですが、初任給は上がっていますが、それは雇用が保障されないメンバーシップ型雇用から、ジョブ型雇用へ移行しているから、なんだということ。

ただ、これまで成果主義も、タレントマネジメントも、欧米から入ってきたフレームワークをそのまま受け入れてもうまくはいきませんでした。欧米でうまくいっているからといって、日本でうまくいくとは限らない。そもそも働く成り立ちはもちろん、宗教的な背景を含めて価値観が異なるからです。耳障りのよいフレームワークを鵜呑みにすべきではない、ということです。
私は、心理的安全性を育むメンバーシップ型雇用の強みを土台に、キャリア自律を促しやすいジョブ型雇用の長所を取り入れていくハイブリッド型に移行させていくべきだと考えています。若手が一人前のプロフェッショナルに育つ日本型雇用のいいところは残していく。一方で、ミドル以降、会社依存を助長させ学び直しが進まない課題になっているところは見直していく。

70歳までの雇用延長が取沙汰される昨今、会社べったりになって、考えなくなって、プロフェッショナル人材になり切れない人材が増えていることは、深刻な課題のひとつでしょう。10年選手、15年選手になれば一人前になって、会社と対等の立場に成長していないといけない。その意味で、人材育成は、これから変えていかないといけない重要なテーマ。ここで、社内だけの同質的な考え方を打破していくためにも、外部講師をうまく使ってもらえたらと思っています。変化のティッピングポイントにしてもらえたらうれしいですね。

そして、ここで大事なことは、現場の本当のニーズをしっかりつかむことです。例えば、管理職研修は、新任研修に力を入れる会社がほとんどです。実際には、本当に上司として困っているのは、3年から5年以上、我流マネジメントをやってきた人たちなんです。変化のスピードが速い時代。一度学んだことの賞味期限はどんどん短くなっています。企業が変化し持続成長していく要となる管理職層が変化に追いつけていないことは致命的です。ダイバーシティ、働き方改革、ハラスメントetc.当人たちも悩んでいます。彼らこそ、研修で支援しないといけない。

また、人事の担当者は書籍を読み、外部セミナーに熱心に通うなど、とても向学心ある人が多いんですが、私はもっともっと現場の声を聴いたほうがいいと考えています。人事が行くと現場は警戒する、というのもわかりますが、やはり直接膝つめで対話しないと本当の人材育成課題はわからない。わからないまま流行りの研修を開講するだけでは押しつけになってしまいかねません。こうした現場の本当のニーズがつかめていると、外部講師とタッグを組むとき、とても大きな効果を発揮します。

――企画:大川 拓馬/取材・文:上阪 徹/写真:対馬 玲奈/編集:対馬 玲奈

前川孝雄

前川孝雄

前川孝雄まえかわたかお

株式会社FeelWorks 代表取締役社長

「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げる人材育成の専門家集団FeelWorksグループ創業者。研修事業と出版事業を営む。兵庫県生まれ。大阪府立大学(現大阪公立大学)、早稲田大学ビジネススクール卒業…

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