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2013年02月01日

指導者が考えるべき”厳しさ”のかたち

 教育の現場でまたしても悲劇が起きてしまいました。スポーツ強豪校の大阪・桜宮高校男子バスケットボール部の主将が自らの命を絶つということで初めて発覚した顧問教師からの連日の体罰と、それを巡る学校や教育委員会の機能不全について。現在徹底的な調査が行われている最中ということもあり、断定的に話を展開したり、ましてや教育や指導方法を正解・不正解というどちらかにすみ分けすることはとても困難ですが、スポーツに長く関わってきた者として感じていることを今回述べさせて下さい。

 報道で様々な問題点が明るみに出ましたが、ざっと覚えているだけでも、例えば、

・自殺前日に少年が漏らしていた「いつにも増して今日は3,40発は殴られた…」ということ。殴られている現場には生徒達の他に指導側として数人のコーチ陣もいてそれを黙認していたこと。
・昨年にも同じバスケットボール部内で行われている体罰についての通報が教育委員会に寄せられていたが、委員会からの指示も、学校長は生徒側への調査をせず、クラブの顧問にのみ聞き取り調査をし、その時間も15分程度という簡易なものであったということ。結果、体罰はないと判定し報告していたこと。
・18年間同じ部活の顧問として教師は移動がなく、校長よりも教師の権限の方が強くなってしまっていたのではないかということ。
・これまで同じ方法で結果が出ていたため、鉄拳制裁を加えての指導法がよしと捉えられる歪んだ風土があったのではないかということ。

などがあったかと思います。

 あくまでも私の個人的な考えですが、まず、体罰について。

 今回のケース、これは体罰なのでしょうか?これはもはやリンチ暴行事件と言ってよいのではないでしょうか?昨年大問題になった大津市のいじめについてもその時同じような違和感を持ちました。教育に用いられる言葉は、時々普通の感覚からずれているように思うのです。

“体罰”や”いじめ”って、言葉だけだと実際に行われている厳しい事象より、軽く聞こえたりします。先に述べた大津市の事件をきっかけに状況は少し動きました。学校のいじめを犯罪行為として扱うケースも有りうるとし、警察が捜査協力するに至ったことです。この結果、全国のいじめ認知件数が前年度の倍に増えたことは、前進方向に動いた証拠です。

 以前は子供達がいじめられていることやいじめを見たということを口に出すと、もっといじめが酷くなったり、今度は自分がいじめられるのではないか?という不安があったと思うのですが、心理的に「正直に言っても守ってくれる」という安心感をやっと持つことができたからこその調査結果だったと思います。

今回の体罰の件も、やはり同様のことが言えるのではないでしょうか。「口ごたえしたと思われるともっと殴られるのが酷くなるのではないか?」「歴代の先輩方は皆これに耐えてきたのに自分が弱いと思われるんじゃないか?」などと心は揺れていたと思います。見せしめの様に何十発も殴られる異常さについて声を上げることができない風土が十数年かけて出来上がってしまっていたのだろうと想像ができます。

 私の指導というものについての持論は、ときに厳しさは必要だと思っています。私自身、指導が厳しくて有名なシンクロ競技に21年間関わってきましたが、その通り確かにコーチが投げかける言葉や要求は厳しいものでした。しかし、メッセージは明確でした。本能的にそこに情熱や指導者としての本気さを感じ取っていて、こちらも本気で応えようと自然に気持ちが動きました。

簡単には上手くいきませんが、それでも何度も挑戦を繰り返し、これでもか!と真の本気になれた瞬間、目には見えないけれども、ふと”越えた”と思える感覚があるのです。表現し難い感動を得るのです。当然、当時は子供なので、(二十歳を超えてからでも言葉を受け止めきれないこともありましたが)自分が思っている以上の能力を引き出せたり、自分の持っている可能性を広げてくれた場面は、いつも熱い叱咤の後です。そこで「ああ、これを私に教えてくれようとしていたんだ…」とコーチの言葉がすとんと腑に落ちるのでした。

この人間対人間の真剣な想いのやり取りに、暴力は一切必要ありません。痛みや、恐怖から逃れるために、生徒が能力を開花させる努力をするなんて、指導者として教えることはこんなことではないはずです。拳は熱い想いの裏返しなどではありません。コミュニケーション能力を磨かず、痛みで伝えようとするのは指導者として “逃げ”ではないでしょうか。

 最後に、思うことをもう一つ。子供達に”命”についてどう教えればよいのでしょうか。大人はまだ知恵のない子供に、辛い時の乗り越え方やその時の気持ちの持ち様など、自分自身の経験や生きてきた中で得た考えを伝え、より良い方向へ導く役目があると思います。だからこそ、大人も一生懸命生きなければいけないと思います。

今を生きる子供達は、辛い時に考えるのが乗り越え方ではなく、あまりに簡単に”自殺”で意思表示という手法になってはいないでしょうか?稚拙かもしれませんが私は物心ついたときから、誰に言われたのか「自殺した人は必ず地獄行きで、さらに地獄の中でも最も過酷な場所に行かされる。なぜなら人として一番犯してはならない罪だから。あなたを大切に思う人を一番悲しませるから」とずっと心に刻まれています。

三つ子の魂百までといわれますが、そんなおとぎ話のようなことでも私にとっては十分な抑止になっている気がするのです。これは親、これは学校、と子供に教える様々なことを押し付け合うのではなく、大人として子供にどう接するべきかを議論するべきではないでしょうか。

武田美保

武田美保

武田美保たけだみほ

アテネ五輪 シンクロナイズドスイミング 銀メダリスト

アテネ五輪で、立花美哉さんとのデュエットで銀メダルを獲得。また、2001年の世界選手権では金メダルを獲得し、世界の頂点に。オリンピック三大会連続出場し、5つのメダルを獲得。夏季五輪において日本女子歴代…

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