目次
人生最大の危機を教えてください。
シャープ技術本部コンピュータシステム研究所長から、情報システム事業本部コンピュータ事業部長に抜擢されたとき。
研究所はコストセンターで金儲けが出来ない。事業部は企画・開発・製造・営業部門を持つビジネスユニットである。製造業に職を得た限りは、事業部長として実業で金を儲けて会社に貢献したかった。が、一方、当時のコンピュータ事業部は毎期赤字を垂れ流す事業部で、不業績の責任を取らされて事業部長が毎年更迭されるという末期的状況であった。
その時の状況や危機が発生した原因を教えてください。
<1>
情報システム事業本部は当時、社内で唯一デジタル技術を商域とする4,000人強の閉ざされた村のような組織であった。そこへ入社以来、研究所で研究実績を上げてきた研究所長が、いきなり赤字続きのコンピュータ事業を立て直すという社長の勅命を受けて、落下傘で送り込まれた孤立無援の事業部長であった。
<2>
当時、事業本部には電子手帳のパーソナル機器事業部と日本語ワープロ「書院」のOA機器事業部という好業績の2事業部が存在し、毎月の本部経営会議では前任者が残した在庫の山の説明に本部長以下の矢のような質問、詰問を浴びせられる状況であった。
<3>
事業部の中は恒常的な不業績で精神的に疲弊しており、「何をやってもダメ」という雰囲気であった。また、事業部幹部のほとんどが事業部長より年長というやりにくい状況であった。
<4>
事業本部の人たちの感覚では「博士で研究所長なんて、金勘定を出来ない人が事業部長を勤まるはずはない」となる。したがって「社長が変なのを送り込んで来た」という考えで事業本部が統一されていた。結果、「事業部長の言うことは聞かない」、「現状の数字を厳しくチェックして苛め抜いて追い返す」という作戦が合意されていたようである。
赴任した初日に上司である副本部長と前任事業部長から「君に事業部長が勤まるはずはない。研究所に帰れ!」と言われた。また、とある上司に「西岡君はこれだけ苛めているのに、どうして病気をしないんだ?」と言われたことがある。その他、数限りなくあります。
危機とどのように向き合い、乗り越えたのですか?
<1>
上司(社長、副社長など)に一切泣き言も言わず、告げ口もせず(この話はその後の人生で初めて明かしました)、仕事のことをなんでも話す妻にも言ったことはない。ただ、一生懸命仕事をしました。商品開発の遅れや不良発生などの報告を聞いて、善後策を支持するために毎日の帰宅は午前様だったが愚痴は一言も言わなかった。「何時も明るくカッコ良く」を貫いた。
<2>
赴任直前に前任者が進めていたウルトラCの商品開発が道義的にも技術的にも問題があったことを知り、副社長、本部長、副本部長などすべての了解が取れていたものであったが、体を張ってキッチリと幹部たちを説得して、仕入れ済みの部品を無駄にしてまで商品開発を中止した。良く止められたものだと今もなお思う。
<3>
1年3ヶ月を経てなお赤字が続いた。が、社長が自分を首にしなかった。新しい事業年度を迎えるにあたって係長以上の事業部の幹部を集めて「来期はこうしよう。協力して欲しい」という言う事業部長の訓示をする際に、突然感情が昂ぶり、自分の口から出た言葉は、「お前ら、事業部長をナメてるだろう。業績が改善しないから直ぐに事業部に逃げて帰ると思ってるだろう。そうはイカンで。社長は西岡に任したと言っている。事業部長についてくる気のないやつは前に出ろ。別の部署に移してやる。協力できんものは外に出よ!」だった。誰も立たない。「みんな部屋を出ないということは西岡事業部長について来るということやな?いいか?今からでも出て行っていいで。次の職場はちゃんと用意してやるよ。(沈黙)よし、それなら来期からの戦略を説明する。疑問、反対はいつでも発言してよろしい。」を事業部に言って、初めてみんなの心が一つになったという確信を持てた。
<4>
「世界最小、最薄、最軽量」のノートパソコンの開発に成功し、ラスベガスでのCOMDEXショーで最優秀商品賞を受賞。テキサス・インスツルメンツからのOEM契約獲得などで事業業績は一気に改善して、一人前の事業部になった。
最大の危機に直面したご経験から、どのようなことが得られましたか?
<1>
危機を乗り越えるの近道なし。要領の良い手軽な道なし。誠心誠意努力するのみ。
<2>
押してダメなら引いてみな。
<3>
インテリ事業部長に「お前ら俺をナメてるやろう」と言われて、みんな「この人に付いて行こうと」と決心できたのは、決してヤクザのような言葉使いの事業部長を恐れたからではない。「この事業部長は我々の事業部を良くするために命を懸けるとコミットした」と確信したから。事業部長が自分たちの仲間だと確信できたのだ。
最後に、人生の危機に直面している人へ向けてアドバイスをお願いします。
<1>
人生は長い。何ヶ月か先には笑っている君が居るよ、きっと。
<2>
自分は不幸だと思っても、世の中にはもっと不幸な人もいるよ。しかも彼らは楽しくやってるよ。不幸かどうかは事実じゃなく心が決めるんだよ。
<3>
危機というのはね、神様がテストしているんだよ、君が負けるかどうかを。
西岡郁夫にしおかいくお
株式会社イノベーション研究所 代表取締役社長
シャープ、インテル、モバイル・インターネットキャピタルで数多くの功績を残した西岡氏。中小企業のIT経営を進めるため、経済産業省認定の資格制度であるITコーディネーターの普及をする「ITコーディネーター…
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