2011年10月01日

議論しないなら、給料の高い人間が集まる会議なんかするな。

――西岡さんといえば、日本の大企業(シャープ)からアメリカの半導体大手インテルへの転身が大きな話題になりました。実際に転身されて、何が違うとお感じになったのでしょうか?

企業文化が違いましたね。例えばミーティング。日本の大企業では、会議の前に根回しが済んでいて、会議の時は議論がもう終わっていますね。だから、本番の会議では幹部以外の発言は期待されていません。

  一方、根回し文化のないインテルでは、本番の会場でものすごい議論をします。給料の高い人間が集まるのは、現提案にバリューアッドするためです。入社して初めて出た戦略会議で、日本インテルの来期の戦略をプレゼンテーションした時のことですが、スタートして3分も経たないのに質問が飛んで来ました。しかし、その場に質問者がいない。どこからの質問かというと、電話会議システムでイスラエルから質問が飛んできていたのです。インテルの会議は、バンバン来る質問や意見に適切に応対し、バリューを頂戴してキチッと持ち時間を守ることが求められる場なんです。適切な応対とは、適当に場を持たすことではありません。良い意見は受入れ、現提案をより良くしていく態度が求められます。 意見を聞いて、「Good point!」と練りに練って用意した資料をその場で修正して「Thank you! Anything else?」と、もっと良い意見を真剣に求めるのです。日本では考えられませんよね。会議の目的は出席者の積極的な参画で現提案をBrush Upすること。大変新鮮でした。

――発言することがいいことだ、それがプラスにつながるんだ、という発想なんですね?

日本の会議で発言が少ないのはもうひとつ理由があって、日本企業は何でもかんでもやりたがる総合メーカーが多い。そうすると重要な会議に出ても、必ずしも的確な発言ができるわけではないんです。例えばシャープの場合、コンピュータの部門長が冷蔵庫の部門長にバリューアッドするのはなかなか難しいですからね。そうすると、自分たちでわかってることを言うしかない、ということもある。そもそも、他の部門からの発言は期待されていない。だから、自分の領域だけ順番にしゃべる、報告するだけになるということが多くなるんです。

  外資の場合は選択と集中が進んでいます。インテルならパソコンに集中しているので、みんながパソコンについてわかっているのです。理解している者同士が議論するから密度が濃くなるし、いいアイディアが出てくる。選択と集中というのは、こんなところでも利点があるんです。

――専門家というところでは、そもそも西岡さんはコンピュータの専門家でしたが、半導体の専門家ではなかった。それでもインテルは、西岡さんを迎えられたんですね?

誘われたとき「僕は半導体は知りませんよ」と言いました。それに対してアンディは、「インテルには半導体の専門家は山のようにいる。日本では何故ワープロばかりが売れてパソコンが売れないのだ。どうしたら日本にパソコンを普及させる事が出来るのだ。それが出来る人が欲しい」と。当時の日本はワープロ全盛で、パソコンの市場はたったの130万台。『ワープロの市場をパソコン市場に変えるためにインテルに来てくれ』という訳だったんです。パソコンのCPUとしてほぼ100%のシェアだと言っても、パソコンの出荷が130万台だったらインテルが幾ら頑張っても130万個しか売れません。シェアが高いのも苦しいものですよ。シェアが10%なら頑張って20%にすることが出来ます。売上倍増ですよ。しかし、シェアが100%近いと言うことは、パイ(市場全体)を引き上げるしか売上を増やす手段はないのです。A社への販売数が増えてもB社で減るだけ、やっぱり合計は130万個です。その中で、ワープロ→パソコンへと市場を転換するというマーケティング活動は、凄くエキサイティングな仕事だと思い、誘いを受けました。

 ですから、パソコンメーカーに行って、もっと買ってくれという営業は副社長に任せてしまって、パソコンの普及活動に専念しました。マイクロソフト株式会社の古川享社長(当時)とも良く協力し合って、『なぜパソコンが便利か』、『電子メールを真に戦略的活用する方法』、『インターネット活用法』などなど、強面と言われたインテルのイメージから、一般の人にもわかるような優しいイメージを日本で作っていきました。結果、『Intel inside』というキャッチフレーズがどんどんマスコミに出て、インテルの名が新聞に出ない日はないと言われる一世代を作れたと思います。入社したときの130万台市場は、退社の時には10倍になっていましたから。

部課長に会社は変えられない。でも、自分の部や課は変えられる。

―――日本企業と外資系では、組織のマネジメントもずいぶん違っていたのではないかと思います。日本企業の問題点も改めて認識されたのではないでしょうか?

一時、先を競ってアメリカ流の人事管理を取り入れた会社がありましたが、『やっぱり日本流が正しい』という論調が増えると、またまた競って日本流に戻しました。こういう付和雷同というか、付け焼き刃的導入が一番いけないと思います。『年功序列→成果主義』もその良い例ですね。急に成果主義に変えても、『部下の成果を年功序列で部長になった人が評価している』というのでは、『仏作って魂入れず』の典型でしょう。成果主義を正しく行うためには、まず評価者の教育を徹底する必要があるのです。その大仕事をやらずして成果主義は機能しませんよ。
 
  だからといって、『日本企業はやっぱり日本流で良いのか?』というと、それは違うと思います。社長が双六の上がりのポジションであってはならないのです。 社長の椅子は激務に耐えに耐えて、やっと座る椅子であってはいけません。社長の椅子はガンガン働くための椅子です。1期か2期の任期を無事に終えて後任にタッチするバトンではないのです。

――日本の会社組織で、部課長クラスはどうすればいいのでしょうか?

残念ながら、部課長自身がある日突然立ち上がっても、会社を変えることは難しいと思います。部課長に与えられた職責には限りがありますから。しかし、一方で『トップが変わってくれないから会社が変われない』と嘆いても、何も変わりません。小なりと言え、自分の組織を与えられた部課長は、まず自分の組織を活性化させていく喜びを持てるポジションであるはずです。そして部下たちは、それを待っています。

 思い出してみて下さい。ここ数年、外から来られた社長が目覚ましく会社を建て直した例が幾つもあります。V字回復ですね。ですが、社長が折角のV字回復で時間と資金の余裕を作っているのに、その間に素晴らしい商品を開発し売らないと、企業はまたまた苦境に戻ってしまっています。だれが素晴らしい商品を開発し、製造し、マーケティングし、販売するのですか?やっぱりそれも社長なのでしょうか?それが出来ない部下たちを持つ社長にやっぱり責任があるのでしょうか?それをするのは開発部、製造部、営業部でしょう。そのそれぞれの組織には部長が居るのでしょう。そのギリギリの努力をしてから、トップのことをぼやいて欲しいモノです。

  部課長たちがその会社では部課長になれたけれど、余所にいっても同じように部課長になれるのでしょうか?外に出て市場価値がありますか?我々は自分の市場での価値を常に認識しながら給料を取らなければならないと思います。

――リーダーシップについても、なかなかうまく発揮されていないという声が日本企業からは聞こえてきますが?

iv_Nishioka_03むしろ日本企業では、僕はリーダーシップが発揮しやすいと思いますけどね。なぜなら、外資の場合は、それこそリーダーだらけだからです(笑)。日本の場合、リーダーシップを発揮できる人が少ないから、出来る人にはチャンスも多いのです。例えば、アメリカで英語がペラペラでも尊重されませんが、日本ではまだまだ英語が堪能なら大きな強みです。僕がやっている丸の内『西岡塾』は、次世代のリーダー向けに企業のミドルを全人間的に叩き直す研修をしています。

 リーダーシップは『全人間力』が必要なのです。学歴や資格や知識だけでは、人は付いてきません。自分自身が夢を持っていること、誰よりも仕事をすること、何か新しいことが出来るはずだと常に探していること、夢を上司や部下に伝えるコミュニケーション能力があること、人に好かれること、説得力があること、新しい提案をする勇気があること…これらがリーダーシップには必要だと思います。右肩上がり経済の中では、仕事はどんどん上から落ちてきた。だから何もしないで待っていても仕事が出来た。ところが、今は自分で仕事を創らないといけない、仕事は落ちてこない。どうするんだ?ここでイノベーション力を発揮してほしいんですよ。

――何が日本のリーダーシップには足りないんでしょうか?

その気になれば、本来リーダーシップを発揮できる能力があるのに、まだその気になっていないということです。言い換えれば危機感がない。部下を叱る自信もない。『西岡塾』では、僕が塾生を叱ると驚かれます。会社では上司に叱られたりしないというのです。ある時代から、学校で級長になりたがる子どもが少なくなりましたよね。先生の犬(幕府の犬みたい)でカッコ良くないといって。みんながリーダーであることにサメてしまっていて、そんな空気が蔓延している。これは危険ですね。やっぱり活躍しているほうが面白いんですよ。リーダーシップを発揮したいと思っている人間がいるなら、ちゃんと触発してやらないと。その楽しみを認識させてやらないと。

日本の産業界は、老木と大木だけでできている森のような状態。

――今、企業に求められているのは、どんな人材なのでしょうか?

僕は自分の部下を有言(Commitment)と実行(Execution)で4つの人材タイプに分けます。有言実行、有言不実行、不言実行、不言不実行の4つです。『あなたはどのタイプの部下を持ちたいですか?』という質問をすると、不言不実行は論外として、日本人が好きなのは有言実行です。講演時に手を上げて貰うと、9割強の手が上がります。でも有言実行というのは、実はできることしか言っていない可能性があります。次に好まれるのは「男は黙って実行あるのみ」の不言実行タイプです。でもこの人はコミットメントしていないわけです。黙っていて出来たことだけ報告している。これでは会社は変わりません。さて、残りの有言不実行を「言うばっかりで何もしない」と取らずに、出来ないようなことでも「やるべきと信じたら提案する」と解釈すれば、企業や組織の改革にはなくてはならないタイプといえるのではないでしょうか。

――日本企業の閉塞的な状況から、抜け出す方法はあるのでしょうか?

iv_Nishioka_04日本企業には強いところが本来たくさんあるんです。でも、強いところに集中しないから強さが薄れてしまう。サイズや量に拘る、大量生産薄利多売の時代は終わったのです。幾ら技術的にイノベーティブでも、技術だけでは直ぐに追いつかれてしまいます。アップルの快進撃はiPod、iPhone、iPadが、技術的に真似が出来ないほど優れていて、故障しなくて、安くて…だから売れるのではありません。iTunesというネット上の仕組みによってどんどん楽しいコンテンツが入手でき、このコンテンツがどんどん増えていって、世界の友達とも繋がっていって、3万円で買ったものに『商品を購入してからドンドン楽しさが倍加していく』という仕組みがあるためです。

 機械だけなら、日本企業はもっと良いものを作れるでしょう。こういうイノベーションが日本では出来ていないのです。そして『やっぱり日本は物作りに拘るべきだ』と言っている。これまでの我々の常識は『モノは買ってからドンドン古くなって価値が下がる(原価償却といいます)』でした。しかし、アップルは買ってからドンドン面白くなる仕組みを同時に用意して、商品を売っているのです。これが何故日本企業には出来ないのでしょうか?出来ますよ。そのことが分かり、組織がきっちりそのことを戦略の中央に据えれば「出来ますよ」。やろうとしていないだけなのです。

――企業経営に、あるいは組織マネジメントに、一番重要なことは何なのでしょうか?

一番大事なことは『社員のやる気を引き出して活躍できる仕組みを作り、活躍した人を正当に評価し待遇すること』だと思います。人口減少の右肩下がりの経済の中で、1つの会社が6万人の社員(家族を入れると20万人)を裕福に養える時代は終わったと言う認識がまず必要です。経済の原点に戻って、小さくても強い会社を増やさなければなりません。特徴のある強い中小企業がいっぱい要るのです。その中から、条件が合えばやがて大企業になっていくでしょう。自然界のような新陳代謝を取り戻す必要があると思います。そういう企業社会こそ、本来あるべき姿ですよ。

 ベンチャーがそうですね。大企業が取れないリスクをベンチャーが取って、新技術を開発します。大企業はそれをベンチャーとwin-winで協業し、世に出して世界をリードする。大企業に固定化され、循環していない今のような状況は、老木と大木だけでできている森のようなものです。いずれ間違いなく滅びるでしょう。そうじゃなくて、大木から種が飛んで小さな木になり、凄い低い確率でも、なかには幼木や成木に育つものが出てきて、その中から大きく成長していく木もある。そういう状況こそ、健全な姿でしょう。その意味では、大企業はベンチャーをもっと上手に育ててやらないといけない。それは自分のためでもあるんです。

――様々な企業でのご経験を経て、これから、どのようなことをやっていきたいとお考えですか?

やっぱり最後は人なんですね。だから、教育に行き着くんです。しかも、単に知識を学べる教育ではない。知識は本を読めばいいんですから。そうではなくて、人間力です。それは、いろんな刺激で鍛えられていく。まったく違う性格、違う業界、違う職種、そういう人たちと会うことで研ぎ澄まされていく。そういう人間力を磨ける場を作っていきたい。実際、『西岡塾』では、そういうカリキュラムを用意しています。いつもと違うものがたくさん体験できる。そうすると、人は変わるんです。多様な価値観の中に放り込まれて、まったく変わったと言ってくれる人がたくさんいる。それが励みです。

 講演もそれは同じだと思っています。いつもと違う刺激を、価値観を手に入れることができる。心が震える体験をすることができる。それが重要です。

――本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。

取材・文:上阪徹 /写真:丑久保美妃 /編集:田中周子
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