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花のエネルギーは、心も人生も豊かにする

假屋崎省吾

假屋崎省吾

華道家

華道家・假屋崎省吾さんの主催する花・ブーケ教室には、全国から7000人もの生徒が集まります。また、美輪明宏さんから「美をつむぎ出す手を持つ人」と評されるなど、華道の繊細かつ大胆な作風と独特の色彩感覚には定評があり、各界著名人から高い評価を得てきました。その一方で、執筆、講演、テレビでのタレント活動など、幅広く活躍されています。

  そんな假屋崎さんですが、華道の世界に入ったのは、大学2年生のとき。実はそれまでは挫折の連続だったといいます。ピアニストを目指したが断念した高校時代。園芸学部に行こうとするも、受験に失敗。2浪して滑り止めの大学に入学するも、納得がいかないと別の大学に入り直したのだそうです。そして、ひょんなことからいけばなに出会い、草月会館でいけばなを習い始めたことが天職との巡り会いでした。花とともに生きる魅力について、お聞きしました。

 

假屋崎省吾と花~華道とともに生きる~

―――華道に興味を持たれたきっかけは、どのようなものだったんですか?

「もともと父と母が園芸好きで、私も物心ついた頃から見よう見まねで庭の花を育てていました。それから10年、20年と経って、大学に入ったある日、いけばなの先生がお花を生けているテレビ番組を見て、自分が育てていた花がこんなふうにして部屋を彩り、飾り、素敵な雰囲気になるということを知り、『自分も習ってみようかな』と思って、大学2年のとき、何の気なしにいけばな教室に通い始めたのが、華道の世界に入ったきっかけでした。それからお花の世界が面白くて、どんどんのめり込んでいきました。

大学を卒業すると、アパレルメーカーに就職しました。でも、『自分が一番好きなことではない』と思って3カ月で辞めてしまいました。スーパーマーケットやハンバーガー店など、いろいろなところでアルバイトをしながら、同時進行で花の仕事を行っていました。ちょうどこの頃から、画廊に通うようになり、『空間』という仕事に興味をもちはじめて、『いつか自分も個展がしたい』と思っていたところに、チャンスが訪れたのです。最初の個展は、お花ではなく、実は、土を素材にしたもので、その土の個展が『美術手帖』などで批評され、まずは美術関係の方々から認められて、ディスプレイや会場構成など、花だけではない仕事を頂くようになりました。そうして必死にやっているうちに、気がついたら、今のような状態になっていったのです」

―――華道家として、これほどまでに成功された理由について、ご自身ではどのようにお考えでしょうか?

 「 今と比べると、小さい頃の私は引っ込み思案で、人とコミュニケーションをとるのも苦手でした。野球などのスポーツよりもクラシックレコードが好きな、ちょっと変わった子どもでした。でも、父や母は、『省吾、好きなことをやりなさい』と私の個性を認めてくれていて、両親がそういう教育をしてくれたことが大きかったと思います。それからは、自分が『これは好きだな』と思うことを一生懸命やるようになりました。その道を究めるという言い方は堅いですが、『人に決められたわけではない、自分で決めた』ということが重要なのだと思います。私も、だからずっとやってくることができました。

  もうひとつ、2009年に50歳になりましたが、これまでいろいろな紆余曲折がありました。出る杭は打たれます。嫉妬、妬み、嫉み、いろいろなことがありましたが、そういうもの全部を自分の肥やしにしたのです。打たれれば打たれるほど、不思議なことにその分、余計にエネルギーとなって、自分の中で消化できました。ネガティブなものもエネルギーにして、自分で目標を持ち、それを追求しながら、何が何でも実現させようと取り組んできました。

  あとはやはり、美しいものに囲まれて育ったことでしょう。花、音楽、映画、建築、インテリア、旅行にもたくさん行きました。美しいものが、いつも自分のすぐそばにあって、その中に身を委ねていました。それが培われて、今に至っているのだと思います」

――――華道をさらに普及していくために、最近では、どのようなお仕事に取り組まれていらっしゃいますか?

iv48_02「最近では、音楽や舞台でのコラボレーションという新しい挑戦も始めました。フジ子・ヘミングさんなど、クラシックのいろいろな方々と舞台で、演奏に合わせてお花を生けるというパフォーマンスのコラボレーションも行っています。舞台美術の演出でも、野村萬斎さんはじめ、いろいろな方と取り組みを進めています。

また、年に何度も展覧会を行っています。百貨店などでも行っていますが、最近では、花と歴史的な建築などとのコラボレーションも増えていて、2010年には京都や九州地区で行う予定です。展覧会やコラボレーションは、自分が興味をもっていることはもちろんですが、いろいろな方々が大勢おいでになるので、街おこしになるのです。 例えば、10周年を迎えた目黒雅叙園での展覧会では、7万人ものお客様がお見えになりました。食事やお土産も買っていかれますので、まわりの商店街や飲食店も活性化して、経済効果につながります。こういう時代なので、企画を行う側も、展覧会などを行うと費用が…、などと思われるかもしれませんが、美しいものを見ることで、何十倍、何百倍も自分に、周辺に跳ね返ってくるのです」

 

大切なのは、『気がつく』か『気がつかない』か

―――假屋崎さんは、「華道」の世界以外でも、大変美意識を高くもたれているようにお見受けしますが、私たちも普段の生活から美意識を高めていく方法は、あるのでしょうか?

iv48_03「美意識は、普段の生活でいくらでも高められます。例えば、毎日の通勤でも磨くことができます。駅まで歩く途中には、面白いもの、素敵なもの、変化のあるものがたくさんありますから、そういうものをぜひ発見してほしいと思います。例えば、冬なら街路樹は枯れて葉が落ちて、他の季節には見られないような木の枝振りが見えて、それはとても美しいのです。

  また、帰りに駅前のスーパーに買い物に寄っても美意識を磨けます。野菜が色とりどりにならんでいるコーナーがあるでしょう。ここでは、隣同士が同じ色ではないはずです。オレンジの野菜の隣には、黄色い野菜や赤い野菜が置かれていて、色の配置が美しく、人の目を引くように作ってあります。上手に配置すれば人の目を引くことができて、売れていきます。このように、街の中には、自分が気がつかなかったような配色や空間づくりがたくさん使われています。そういうものを見るだけでも、美意識につながります。それを見ていてどう感じるかです。美しさを自分なりに考えてみるといいと思います。

大事なことは、『気がつくか、気がつかないか』ということです。それによって、美意識はどんどん変わります。気がつかなかったことに気がつくと、いろいろなものも変わっていくと思います。仕事でも、気がつくことによって、仕事の能率が上がったりしますし、相手に響くものが作れたり、新しいお客様が獲得できたりします。実は、1から100まで、すべてはつながっています。ただ生活するのではなくて、すべてつながっている、ということに気がつくことができたら、もっと意識的な生活が送れるようになるでしょう」

―――仕事でもぜひ活かしていきたいことですね。

「仕事では、『やるべきことをちゃんとやる』ということも大事ですが、『2つ先、3つ先を考えて行動できるかどうか』が重要です。何かをやろうとしたとき、きっとこういうことになる、ということは、ある程度、想像できますが、それは2つあったりもします。そういうときに、2つ両方を考えて行動できるかどうかです。こっちに行ったときには、こういう準備が必要だ、こっちに行ったときにはこういう調べ物が必要だ、と予想して、そこから先のことも考えておくことが大切です。

  ひとつくらい先のことを考えているのでは、普通です。それは誰でもやっています。そこから先、『次の次』や『次の次の次』まで考えているかどうかです。それが結果を分けることになると思います。でも、これがなかなかできません。では、どうやって先々まで考えられるようになるかですが、それは結局、相手に対して思いやりが持てるかどうかだと私は思っています。そうした思いやりから生まれる気遣いが、この人にお願いすれば大丈夫、という信頼を生んで、他の人や他の仕事につながっていきます。結局、すべては人と人ですから、まずは目の前のことをちゃんとすることです。

  例えば、大草原に木が1本、立っているとしましょう。土の中は見えませんが、根っこがひしめきあっています。それが人生だと私は思っています。根は日頃の生活の中で、仕事の中でこそ培われます。だから、基本の根幹である日頃の生活や仕事こそ、きちんとしないといけません」

iv48_04―――華道の分野にとどまらず、メディア出演や執筆などでお忙しいかと思いますが、仕事をする上で心がけられていることをお聞かせください。

「制約を逆に楽しんでしまう、ということです。仕事をお受けすれば、必ず制約はあります。でも、制約があれば、それをふまえてどうしようかという、ファイトが出てきて、燃えてきます。そして、難しい制約の中で一生懸命やって結果を出せたなら、ハードルが高ければ高いほど、大きな達成感が得られます。制約のない中で自由にやってほしい、というほうが、かえって困りますから、むしろ、何か1つ、2つないですか、と聞いたりします。そこからアイディアのヒントが生まれたりするからです。予算の制約、こんなイメージでなどの要望、そういうものをクリアすることで、ここまでできたんだ、という自分の実力も確かめることができます。

 ただ、お仕事を引き受ける以上は、100点を目指しますし、妥協はしません。適当にやるのであれば、最初からやらないほうがいいと思います。非の打ち所のないようなものに仕立てないといけません。それは、とても大事なところです。苦しみもあります。でも、苦しい中でも楽しい部分があります。そして出来上がったときには、嬉しさで苦しかったことも忘れてしまいます」

花は心のビタミン~花のエネルギーを感じて~

――――假屋崎さんは、敷居が高く思われがちな華道の世界を「花から始まるライフスタイル」「花は心のビタミン」と唱えられて、私たちの生活に身近なものとして紹介されています。

iv48_05「やっぱり花のある生活は、豊かです。玄関でも洗面所でもテーブルでも、どこでも、たった1輪、お花があると雰囲気が変わります。家庭の環境は無味乾燥になりがちですが、花はそれを変える力を持っています。花があるだけで、みんなやさしい気持ちになれると思います。

  また、花のエネルギーを誰もが知っています。例えば、友人が病院に入院したら、お見舞いにお花を持っていくでしょう。結婚のお祝いにもお花をプレゼントするし、結婚式はお花で埋め尽くされます。そして、お葬式には、棺の中にお花を入れて最後のお見送りをします。まさに冠婚葬祭にお花は欠かせないわけですが、それはお花にエネルギーがあるからです。

  そんな花のパワーを一人でも多くの方に知ってもらいたい、気づいてもらいたいと思って、活動しています。身体に効くビタミンはたくさんありますが、精神や心に効くビタミンも大事だということです。精神や心のビタミンとは何かといえば、それは文化だと思います。そして、華道はその文化のひとつです 」

――――講演会では、私たちが身近に楽しむことができるように、花を上手に生ける方法も教えていただけるのでしょうか。

「ご家庭でも簡単にできる花のいけ方をお話しています。また、いつも個展などでご覧いただいているのは、完成した大きないけばなですが、それがどんなふうに作られていくのか、お花を生けるパフォーマンスをお見せすることもあります。最初は1本だけの花に、また1本、また1本とプラスされて、だんだん色が入っていって、素敵なものが生まれていきます。そんな姿もお見せできますので、お花のパワーを皆さんに感じていただけると思います。

  また、花を生けるのは、頭で考えたり、悩んだりするよりも、自分でやってみる方が早いです。1本から2本へ、2本から3本へ…、だんだん花を増やしていくことは、楽しいことです。それに、日本には四季折々の花がありますから、年中違う花に出会えます。花屋さんで、公園で花を見て、これとこれを組み合わせてみたらどうか、とイメージを膨らませるのもいいです。頭の中で考えていてもやっぱり限界がありますから、まずは行動に移してみてほしいと思います 」

iv48_06――――假屋崎さんご自身も行動に移されることを大切にされているそうですね。

「こだわるものはこだわる一方、興味があるものなら、いろいろなものに挑戦してみたいと思っています。実際、いろいろなお仕事のお話がありますが、チャレンジ精神は常に忘れないように、とにかくやってみる、ということを大切にしています。

  そうすると、人との出会いもさらに膨らませることができます。私はとにかく後ろ向き、マイナス思考が嫌いです。何が起きても、前向きに、プラス思考に、エネルギッシュに取り組んでいきたいと思っています。目指すは生涯現役、寿命が尽きるときまで働いていたいですから」

――本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。

取材・文:上阪 徹 /編集・写真:田中 周子
(2010年2月 株式会社ペルソン 無断転載禁止)  

假屋崎省吾

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假屋崎省吾かりやざきしょうご

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華道家。Kariyazaki Flower Professional Education School主宰。美輪明宏氏より「美をつむぎ出す手を持つ人」と評され、繊細かつ大胆な作風と独特の色彩感覚には定…

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