2009年07月01日

「HAVE」や「TAKE」ではなく、「DO」がテーマの自然楽校

―――芸能界でポジションを築かれていたのに、ある時期からタレント活動よりも、自然やアウトドア普及にシフトしていかれます。それはなぜだったのですか?

「皆さんからすると、芸能界で生まれて、自然へシフトしていったように見えるかもしれませんが、本当は逆なんです。僕は自然に囲まれた、いわゆる田舎生まれ(福井県出身)ですから、都会へは出稼ぎに来ているイメージでした。今、富士山の裾野に住んでいますが、今でもテレビの仕事などで東京に出てくるときは、息を止めて水にもぐって獲物の魚を銛で付く、という感覚ですかね。あくまでベースは向こうで、都会は“漁場”、つまり生活の糧を得るところ、と捉えています。 僕はタレント活動を天職だと思ったことはないです。もちろん、歌を歌ったり、テレビでタレント活動することは面白いですよ。何千人の前でいろんなことができる、『行けるところまで行ったろ』と、目の前の仕事には全力で打ち込んできました。人生は1回きりだから、やるからには思い切りやるというスタンスはどんな仕事でも同じです 」

―――現在、清水さんが校長を務められている河口湖の「河口湖自然楽校&森と湖の楽園」では、農業体験、企業研修、子どもの自然教室などさまざまなコースが大好評ですが、当初はどういうコンセプトで立ち上げられたのでしょうか?

「最初は、本当に個人的に楽しむことが目的でした。僕自身が富士山を好きなのと、河口湖にはよく魚釣りに来ていたこともあって、その周辺で好きなことだけして暮らそうと思って探していたんです。そしたら、ぽつんと森の中にあった幼稚園の物件を紹介されました。廃園なんですが、広くて気に入りましたね。実は、最初は“当時の家族”と一緒に移住する予定だったんです。……ええ、“当時の家族”と(笑)。みんなで自然の中で暮らしたかったんです。しかし、なんと家族から、『私達は行きません。パパだけ行ってらっしゃい』と言われてしまって……まあ、2回目の離婚ですよ(笑)。しょうがないから1人でだだっ広い所に住んでいたのですが、徐々に空しくなってくるんですね。例えば、釣竿でもナイフでも僕は何でも手作りするんですが、完成したものを『できたー!』と高々と掲げても見てくれる人は誰もいない。僕の声がこだまするだけです(笑)。色んなものを作りましたが、自分の好きなことを好きなだけ、時間も場所も制限なくやれるのにどうも空しい。やはり人間って、好きなことでも自分のためだけでは気持ちがシュリンク(縮む)してくるんでしょうね。自分がしていることに対して誰かが喜んだり、関心を持ってくれないと縮んでしまう。

 その結果、移って半年ぐらいしたら、もうボーッとし始めたんです。自分のやりたかったことをやれているのに、こんなにつまらなくて、寂しくて……という気分ですね。やる気も湧いてこない。それで子どもやお年寄り、皆さんを集めて農業やりましょうとか、山に登りましょう、カヌーを作りましょうという企画をやってみたら、すごく面白いわけです。お金とか地位とか関係なく、自分の好きなことで人の役に立つことは非常に充実感があるから、これを徹底していこうと決めました。

  もうひとつは、今は人間が自然からあまりに遠ざかっているのが気になってましたね。不都合なことが世の中でたくさん起こっているのは、それも遠い原因にあるのではないかと感じたんです。子どもが親を殺したり、親が子どもを育てなかったり、お年寄りをないがしろにしたりね。どう考えても“不自然”ですよ。こんな世の中の不自然な状況を、少しでも自然に返すことに貢献できればと思いましたね。それで全国展開しようと『河口湖自然楽校』を立ち上げて現在に至ります」

――――実際、子育て支援や、セカンドライフサポートなど、都会では味わえない自然体験によって、皆さん本当に充実した笑顔になっていますね。

iv45_02「昔の僕は、モノをたくさん持つことが目標でした。高級車にも乗りました。でも、やがて自分が持ったモノの重さに背中がミシミシ鳴り始めるんです。家を持ったり、車を持ったり、会社を持ったりね。あれもこれも手に入れたいと頑張るほどに重くなってくる。重たいな。こんな苦しい生活、かなわんな。どうしたらええんやろ。そのとき、『下ろせばいいんだ』ということに気づいたんです。自分の持てる分だけ持てばラクじゃないですか。気持ちのいい生活って、たくさん背負い込まないほうがいいんだということがわかったんですね。

ですから、これからの僕の目標は『Have』ではなくて、自分でする、つまり『Do』です。できることは自分でしないと、結果的につまらない生活になるんですね。衣・食・住に加えて、『遊』も自分でやるほうがいい。僕もいろんなものを作りました。家、ツリーハウス、カヌー、食べ物、着物、子どももね(笑)。もちろん作れないものもある。でもそれは自分の生活に必要のないものだと考えればいい。もちろん、お金はある程度は必要ですが、『Have』や『Take』を求めるから、『もっと欲しい』となってくるんです。人に何かをしてもらったり、何かを持とうとするのではなく、自分が何をしている時に幸せを感じるのか、それを分かっている人のほうが、人生幸せなんじゃないかと思います 」

 

 

経営の壁にぶつかって気づいたこと

――――ただ平坦な道のりばかりではなかったと伺っています。2007年、自然楽校は企業として大幅なリニューアルが必要だったそうですね。

iv45_04「今、振り返れば放漫経営でしたね。『こういうものがあったらええな』と、色々なアイデアや理想を次々に出してそれを実現させていった。ただオフィスに戻ると、請求書の山(笑)。当然ですよね。スタッフも1万坪ぐらいの土地に最大で40人もいたんですよ。ターザンロープにしても、スタート地点に1人、降りる場所にも1人と配置。駐車場も入口と出口に1人ずつ。そうやってスタッフを配置していけば当然、人件費はボーンと膨れました。徐々に赤字が増え、そうするうちにスタッフが1人去り、2人去り…ついには4人になってしまいました。

 これはかなわんなあ、と悩みに悩んだ結果、気づいたんです。もともと、自然を体験する場所なのに、至れり尽くせりのサービスはおかしいだろうと。やはりお客さんとはいえ、自分のことは自分でやって楽しんでもらうべきなんです。都会のテーマパークとは違う、楽しみたいと思う人が楽しめる場所にしようと。『楽しませてくれ』というスタンスの人には、他にいくらでもテーマパークがある。そこで、うちに来られるお客さんには新たに3つの提言をしたんです。 1つは「自己責任」。自分のやった結果は自分で責任をもつ。2つ目は「自修自得」。自ら修め、自らそれを得て楽しむ。最後に「自他自由」。自分も自由だけど、他人も自由だから人に迷惑をかけない。それさえ守っていただければ、あとはほったらかし。勝手に遊んでもらうことにしました。たとえば、食事も自分でたき火を熾し食器を運んで、終わったら洗って元通りに片付けてもらっています。

 残ってくれたスタッフは4人になりましたが、本当に自然楽校に愛着をもってくれたスタッフだけが残ってくれたんですね。彼らが頑張ってくれたおかげで、今も問題なくオペレーションができています。さらに僕は、あまり現場に口出しをしないことにしました。カミさんにも、『あんたがやらないほうがいろいろ上手くいくから』と言われましてね。すると、本当にスタッフが生き生きし出して、会社も上手くいき始めたんです。僕が口を出さなくなった途端に(笑)。なんだ、僕が頑張れば頑張るほど、みんなのやる気を下げていたのかと。もちろん、仕事は山のようにあって忙しいですよ。でも、スタッフ達は楽しんで仕事してくれています。『校長は呼んだ時だけ来てください』なんてスタッフが言うから、夜のキャンプファイヤーの時に行くと、お客さんが皆さんワーッと物凄く歓迎してくれます。一日中ウロウロしていると、その辺のオッサン扱いですからね(笑)。スタッフも僕のことをよくわかってくれているんですね。自分の立ち位置が分かったおかげで、今はすこぶる良好です」

――――2007年1月に3度目の結婚をされ、同年11月には長男・国太郎君を授かった清水さんですが、自身の子育てとともに、自然体験で子ども達に何を感じ、何を学んで欲しいと思われますか?

iv45_05「おかげさまで、こんな私を拾ってくれる女性が現れたんですね。いや、これは謙虚な気持ちで言っているのではありません。妻が『私は捨てられたあなたを拾ったんだからね』と公言しておるのです(笑)。そして国太郎という、目に入れても痛くない男の子に恵まれました。

『森と湖の楽園』には、たくさんのお子さんが来るんですが、自然の物音が聞こえなかったり、暑い・寒い・臭い・痛いといった感性にスイッチが入っていない子も少なくありません。もちろん、子どもたちが悪いのではなく、育ってきた環境のせいです。人間には本来、誰にでも備わっているはずの感性なのですが、その経験をせずに、自然を迂回するバイパスを通って現在があるから、スイッチが入っていない子どもたちがたくさん育っているのかもしれませんね。特にゼロ歳から三歳の間に、人工的なものばかりに囲まれて育つと、脳が十分に発育しないという学説があるそうです。これまでの脳の研究で分かったのは、脳細胞というものは、全身運動や自然からの刺激によって発達するようになっていて、しかもゼロ歳から三歳までで80%のキャパシティが決まるのだそうです。ですからその時期に自然環境からの刺激が少ないと、小さい脳ミソになってしまうのかもしれません。子どもが小学生になったら連れて来ます、という親御さんがいますが、もっともっと早いほうがいいと思います。

自然楽校では、わざと、というか「自然に」なんですが、とても寒い目にあったり、暑かったり、土を食べたり、怪我したりする。でもそのおかげで脳細胞が刺激され発達していくんです。危ないからとか、汚いからとか、子どもを必要以上に過保護に扱ってはいけないと考えています。もちろん、うちの国太郎はいつも泥まみれ。自然まみれにして、只今実証実験中です(笑)」

長生きしたいから、「忙・楽しく」チャレンジし続けたい

―今は健康そのものにお見受けしますが、4月には十二指腸ガンの全摘出手術をお受けになったとうかがいました。

iv45_06 「実は、それまで20年近く健康診断を受けていませんでした。むしろ『健康診断を受けるから病気になるんだ』なんて言ってたぐらい(笑)。そんなとき、とあるプライベートクリニックの方と出会いまして、プライバシーも守られて設備も揃っていて、とても素晴らしい環境だったので、僕も試しに人間ドックをやってみようと思ったんです。『これでホントに病気が見つかったりしてね』と笑っていたら、再検査。シャレになりませんでした。最初はポリープだから内視鏡ですぐ取れるという話でしたが、あれよあれよという間に入院が必要になったんです。病理検査で『ガンが見つかりました』、内視鏡ではダメだから開腹手術をしますと言われて、十二指腸ガンでした。ただ、『まだ初期ですから大丈夫ですよ』と言われて『すい臓、胆嚢、胃も取って調べましょう』と提案されました。転移しているとまずいですからね。

 その時、先生からセカンドオピニオンはどうしますか、と聞かれました。僕は『先生にお願いします』と即答しました。これは、あくまでも個人の考え方の問題だと思うのですが、がんが見つかったのは十二指腸の乳頭部。通常ならとても発見しづらい場所なんだそうです。しかも初期状態で見つかった。こんなラッキーがぽんぽんと続いてきているのに、ここで迷うことでラッキーの連鎖を断ち切りたくなかったんですね。しかもラッキーはまだ続いていて、その先生は日本で3本の指に入るぐらいの名医だったそうで、手術でバッコーンと取っていただきました。ほかに転移も見られず、本当にありがたかったですね」

―――大病を患って生活や人生観に変化はありましたか?

「田舎へ移り住んで自然の中でのんびり暮らせるかと思いきや、実は、ものすごくせかせかした生活をしていたんです。仕事でたびたび東京や、その他の地方へ行かなければなりませんでしたから、朝はものすごく早いし帰宅は深夜を回ることも。その日のうちに家に戻れなくて、車の中で寝たこともありました。病気をしてみて、改めて『ああ、不自然な生活やったな』と、それまでの生活を省みました。同時に、人生には限りがあることを身をもって実感したからこそ、これからの人生、一瞬一瞬を全力で生きていこうと。これまでも思っていたことですが、より一層強く感じるようになりましたね。

 それから、僕は楽しくて面白いことだけやるという考えでしたが、最近それだけでは長生きできんな、と思い始めました。『ラク』と『楽しい』は違うんです。嫌なことはしたくない、ではアカン。嫌なことは自分にとってチャレンジになる。苦しいことの先に感動がありますからね。ラクなことだけでは感動ある人生にはなりません。長生きしたいな、という思いだけでは人間はダメです。絶対に死んでなるものか、生き抜いてやるって強い信念というか、生きる張り合いみたいなものがないと人間は負けます。ラクでノンビリだけでは4日後に死ぬかもしれません。ですから、僕は全身全霊でウリャアーっと立ち向かうようなチャレンジを常に見つけていこうと決めました」

iv45_03―――今はどんなことにチャレンジしていらっしゃいますか?

「最近ね、うってつけのものを見つけたんです。名づけて、『マムシ谷プロジェクト』(笑)。先日、知人が『土地を買ったけど、草薮にマムシがいっぱいいて困っているんだ』と嘆いていたんです。話を聞いてみると、傾斜地で水が溜まるわ、マムシがウヨウヨいるわで手がつけられないそうです。これは最高だと、僕のアンテナがピクピク反応しまして、そこに家を建てたら面白いんじゃないかと(笑)。雨が降ったら大変だし、マムシに噛まれるリスクはあるし、より厳しいチャレンジができそうだなと考えていたら、物凄くワクワクしてきました」

――――すごいチャレンジですね(笑)。それでは60歳を前に、今後ご自身がどうありたいかを教えてください。そして講演に来られる方にメッセージをください。

「苦しさの先にある楽しさを求めるチャレンジをしていかないと生き残れないだろうし、生きている実感もないと思います。忙しくてしょうがないけど、楽しさを感じる。企業経営なんかは、まさにうってつけですね。これからも、自然楽校の運営を基軸にしながら、そんな『忙・楽しい(いそたのしい)』ライフスタイルを目指していきます。ちなみにこれ、『エロ・かっこいい』から真似てみました(笑) 」

――本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございました。

取材・文:佐野 裕 /写真:上原深音
(2009年7月 株式会社ペルソン 無断転載禁止)