2009年05月01日

人見知りからトップ営業へ

―――前職の外資系教育会社には営業未経験からの入社。しかもフルコミッション型(完全歩合制)という特に厳しい世界へ飛び込まれました。なぜこのお仕事を選ばれたのですか?

「大学を出てからアパレル会社で営業事務の仕事を2年ほどしていたのですが、やはり若かったですし、単純に『もっとお金が欲しいな』と思ったんですね。ですから当然、入社当初の成績は散々でした。マニュアル通りにやってはみるものの、なかなか結果に結びつかない。とにかく優秀な先輩方の良いところを真似して、周りについていくのに必死の毎日でした。さらに、実は私は根っからの人見知りなのです。初対面の人の前では今でも緊張してしまいます。でも、地方の大学を出て、これといったスキルも経験もない、という状態でしたから、仕事を選べる状況ではなかったというのが正直なところです」

―――営業職で「人見知り」。かなり苦労されたのではないですか?

「普通は、人見知りと営業なんて結びつかないですよね(笑)。ただ私の場合は結果的に、この人見知りがプラスに働いたんです。というのも、昔から人と話すとき、『この人は何を考え、何を欲し、何を言おうとしているのか』と、相手の立場になって考えるくせが身についていたんですね。営業はお客様に商品を『買わせる』ことが目的ではなく、お客様に商品の良さを理解して頂いて、お客様自らに選んで買って頂くことが重要です。買わせるだけなら押し売りになってしまいますから、いかにお客様に『私にはこれが必要だ』と思っていただけるか。そこが営業の腕の見せ所。ですから、商品説明や知識を披露するような、一方通行のコミュニケーションではなく、むしろお客様の話を聴く側にまわり、その中から課題や問題を引き出さなければいけません。

 人見知りの私は、人と話している間に自分の心の中で、『こんなこと言ったらどうかな?』、『今この人はこんなことを考えているのかもしれない』と、常に反芻していました。考え過ぎて何も言えないのはかえってよくないですが、相手のことを考えるのはコミュニケーションでは大前提ですし一番必要なことです。それによって、こちらから発する言葉や言い方が違ってきますからね。トークやプレゼンテーションのスキルは努力すれば伸ばすことができます。ただ、相手が何を考えているのか、何を欲しているのかを推し量ることができなければ、いくらスキルを磨いたとしても、相手に気持ちは伝わりませんし、結果的にお客様も心を開いてくださらないんです。 ですから一見、営業としてはハンデにみえた<人見知り>を自分の<強み>として捉えて転換できたのが、その後の営業人生に大きく影響したと思っています」

―――日本でトップ、世界142カ国中2位という素晴らしい営業成績に到達するには、人の何倍も努力し、周りと同じことをしていては、到底達成できる成績ではないと思うのですが、具体的に、どのような取り組みをされてこられたのでしょうか?

[52週目標達成法については、著書『息を吸って吐くように目標達成できる本』 (ポプラ社)に詳しく書かれている]

[52週目標達成法については、著書『息を吸って吐くように目標達成できる本』 (ポプラ社)に詳しく書かれている]

「フルコミッション営業は、自分の努力がすべて形になって返ってきます。何もしなければ、お給料は1円も入ってきませんし、それどころか赤字になる可能性すらあります。自分の生活がかかっていますから、そのためにはアイディアや知恵をたくさん絞りました。中でも、これは著書にも書いているのですが、『52週の目標達成法』というのを一人でやり始めたんですね。1年を1週間ごとに52週に区切ったポスターを壁に貼る。1週間に1件は必ず契約を取ると決め、達成できたらそこに赤丸をつける。非常に原始的でシンプルな方法ですが、決意を目に見える形にすることが重要なんです。途中、達成が危うい週が何回もあったのですが、絶対に契約ゼロは作らないと信じていると奇跡のようなことが起こるんです。ずっと前に営業したお客様から『契約したい』と突然お申し出があったり、終業のほんの数分前に契約のお電話を頂くことも。結局、52週すべて目標を達成することができました。

 このことで、絶対に目標を達成すると信じることがいかに大切かを身をもって実感しましたし、『目標達成のサイクル』というものが体に染み付いたと思っています」

――――和田さんご自身は、厳しい世界でトップランナーとして走り続けられた要因は何だとお考えですか?

「フルコミッションという営業スタイルが、良い意味での『危機感』を生み出していたことも大きかったのですが、最近感じるのは、要は、『辞めます』という最後のひとことを言い出す勇気がなかったからだと思います。消極的な理由ですが本音なんです(笑)。仕事が辛くて、「辞めたい」、「逃げたい」と何度も思いましたが、いつも最後のひとことが言えませんでした。それで、そのまま続けていると、状況が変わってきて結果も出始めて、仕事が楽しくなってくる。毎度、その繰り返しだったような気がします。でも私に限らず、どんな仕事でも、楽しいとき、苦しいときの波がありますよね。先月は仕事が辛くて辞めようと思ったけど、続けていたら結果が出たり、嬉しいことがあったりして、“やっぱり辞めなくてよかった”ということって誰でもあると思うんです。

 私自身も、『辞める勇気』よりも、『続ける勇気』を選んだ。突き詰めるとそこに行き着くんだと、最近、気がつきました。ですから今考えると、自分で選んできた道とはいえ、『お前はこの場所で頑張りなさい』と神様から<与えられた道>だったという気持ちが強いですね」

カリスマ営業の時間術― <集中時間>を作ってスキルアップすれば、時間はコントロールできる

――――最近、仕事と私生活のバランスの問題がビジネスシーンでも注目されていますが、実際のところ、特に若い世代はそんなことも言っていられないほど仕事量をこなさなければならない状況がほとんどだと思います。和田さんも営業の最前線にいらっしゃった時も含め、今も本当にお忙しいと思うのですが、仕事と私生活のバランスについてはどうお考えですか?

「仕事って自分の未来を作っていますよね。例えば、仕事で上司に叱られたり、お客さんにボロカスに言われたりしても、それは将来の<強い自分>を作っている。どうせなら良い未来はできるだけ早く作りたい。そう考えれば、頑張らなきゃいけない時期、つまり<集中時間>が必ずあるはずです。ですから、仕事が大変で休みが無いからいやだとか、仕事とプライベートを分けなきゃという考え方は、あまりに短絡的じゃないかと思うんです」

iv43_03――もっと長期的な視点で仕事と私生活を捉えるということですね。和田さんのおっしゃる<集中時間>とは、たくさん仕事をする、ということでしょうか?

 「スキルが未熟なうちは仕事量も重要ですが、自分の得意なことや、慣れていることをいくらたくさんやってもあまり意味はないです。ですからあえて苦手なことに取り組んでみる。誰にでも、“気がのらない仕事”ってあると思うんです。例えば、お客さんと商談するのは得意だけど、机に向かって企画書を書くのは苦手とか。そこをあえて「えい!」と飛び込んでやってみるんです。
 得意な仕事ってあまり頭を働かせていない状態ですから、脳がサボっているんですね。一方で、自分にとってハードルの高いことに取り掛かってみると、頭を使っていますから脳もフル稼働しています。ですから、苦手な仕事に対して腰をすえてやると、ほかの仕事のスピードがぐっと速まるんです。頭の基礎体力が上がるわけですからね。そうすれば、結果的に全体の仕事時間の短縮に繋がるんです」

――――<集中時間>を持つことが、結果的に自由な時間を作ることに繋がる。

「そうなんです。私も書籍やメルマガの執筆には最初はすごい時間がかかって、本当に大変でしたが、やり続けていると速くなるんですよ。今では、やり始めた頃の2分の1の時間で済むようになりました。1時間かかっていたのが30分間で済むようになれば、残りの30分間は自由な時間になる。スキルアップすればもっと自由に時間が使えるようになるっていうのが、私の考えですね。それに何より、“あんまりプライベートとれてないな”って思うことの方がストレスじゃないかと思うんです」

―――確かにそうですね(笑)。プライベートの時間を作るためにどうすればいいか、ということに集中したほうが生産的ですね。

「ただ決して、『休んだり、遊んだりしちゃいけない』というわけではないです。逆説的ですが、プライベートな時間は、たくさん働いて仕事を頑張れば持てるようになるんです。実際、なんでこんなに忙しいんだと思いながら、イライラしている方がミスをしたり、上司やお客さんとうまくいかなかったりする。だから、もっと前向きに仕事をとらえて、“この会社が好きだな”とか“この仕事が好きだな”と思えば、気持ちものってきますし、結果的に仕事が早く終われるんです。もしかすると上司から『今日は早くあがっていいよ』なんて優しさも生まれたりするかもしれない。でもそれは、いつもイキイキと頑張っている人だからなんですよ。文句ばかりの人に誰もそんなこと言わないでしょう? 厳しい言い方かもしれませんが、仕事を頑張りきれないうちから私生活と分けようとするから悪循環に入るのではないかと思います」

和田流リーダー論「部下を“お客様”のように思え」

―和田さんが初めて部下を持たれたのはいつでしたか?

「はじめて部下がついたのが入社して半年経ったくらいです。かなり早いですよね(笑)。でもフルコミッションの営業組織は、たいていそれくらいで部下が入ってきます。自分の数字も追いつつ、部下の面倒も見る責任を持たされると、上司も部下も通常より早く育つからなんですね。その代わり、厳しすぎて辞める人も増えますが、実際、入社1~2年で、他の会社の5~6年分くらいのことは勉強できたと思います。営業の仕事の能力はもちろん、人材育成や組織の事までわかりますからね」

―――その後もスピード出世を重ねて20代で代理店の支社長に就任。当時は100名ほどの部下を抱えられたと聞いていますが、組織のリーダーを務めるにあたって、『軸』として持っていた考え方や姿勢はありましたか?

「昔、上司から言われたことなのですが、『部下をお客さんのように思え』ということです。それは決して、部下に気を遣うとか、迎合するという意味ではありません。先ほど仕事の話のときにも出ましたが、営業の仕事は、お客様に無理やり買ってもらうわけじゃなく、ワクワクしてもらって、共感してもらって、お客様の気持ちを動かすことなんです。いらなかったものが、自分に必要だと思えてきて欲しくなる。それは部下に対しても同じで、圧力をかけて強制的に数字を出させるのではなく、本人が自然に出したくなる、達成したくなるように導くのが上司の仕事なんだと。例えば、プレゼンテーションが苦手で嫌だなと思っている部下がいたとします。それを上司が『やれ!』と命令してやらせることはできますが、そうではなくて、そのプレゼンで本人が経験できること、成長できることをイメージさせるわけです。一緒にワクワクしてあげる。そういう気持ちの伝え方は、お客様に対する時とまったく同じなんですね」

―――とはいえ、厳しく叱らなければならない時もありますよね

「もちろんです。ただし、“叱ること”は相手のためにあるもの、という考えをベースに持っていなければいけません。失敗を許すことは格好いいですよ。でも、部下がミスの重大性を知らなければ、また同じ失敗をするんです。すると上司である自分も痛い目をみる。叱ることはストレスですし面倒です。叱らなくて済めば楽ですが、言っておかないと、あとで自分も部下も困る。ひいては会社も困る。そう考えれば、ビシっと叱れなければならない時は必ずあります。

 それは褒める時も同じです。相手のことを考えて褒める。例えば、必死にやっても結果が出ない場合は、むしろ一生懸命やったことを褒めました。単に本人のスキルが未熟なだけなので、それを磨けば結果は必ず出るんだと。あなたは『不合格』ではなくて『合格』が先に伸びただけ。本人だって準備不足だったと思えば、次はもっと頑張ろうと努力します。

 褒めるも叱るも相手のため。そしてとにかく“待つ”。色んなタイプがいますし、成長の速度にも個人差があります。たいていの人は急に変われるわけではなく、ジワジワと成長していきます。だから上司には『忍耐』が絶対的に必要です。これはもう本当に(笑)。せっかちだったらマネージメント職は務まらない。それが私の実感ですね」

iv43_04―――その中でも、キーポイントになった出来事はありますか?

「これは私の大きな失敗のひとつなのですが、私は若くしてタイトルと収入を得てしまったので、過信というか、心のどこかで驕っていた時期があったんです。無意識に『私が皆を食べさせてあげている』という気持ちがあったんでしょうね。一時期、組織から人が離れていった時期がありました。そこで、お金や地位や名声が、いかに人の心や人間関係を潰してしまうのか、ということを痛感しました。そのときに気づいたのは、たとえ数字上は、私が大きな売り上げをあげていたとしても、一人ひとりがどんなに小さい数字でも一生懸命やってくれて組織があるから、私はここに在るんだ。だからどんな人にも感謝しなければいけないな、ということ。そういう“謙虚さ”を失っていたのが、私にとっては一番の失敗でした。ただ、そんな状況の中でも組織に残ってくれた人もいたので、そこからは本当に一生懸命に人を育てました。

 私の経験から言えるのは、大きな成功を収めた人には、その分、大きな“テスト”が待っているということ。自分が試される時が必ず来ます。私はそこで傷ついて、自分に向き合って反省できたからこそ、今の私があると思っています。あの失敗から、自分がいま置かれている環境に感謝し謙虚になること、人から学ぶことの大切さを教えてもらいました。シンプルなことなんですが、つい忘れられがちなことです。私はこれからも講演会で、少しでも多くの皆さんにこのことを伝えていければと思っています」

―本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきましてありがとうございました。

取材・文:上原深音 /写真提供:株式会社ペリエ (2009年5月 株式会社ペルソン 無断転載禁止)