大学卒業後に博報堂に入社。若者研究を手がけ、若者向けのマーケティングや商品開発を手がけてきた。現在はマーケティングアナリストとして、未来に関わるさまざまな研究を行っている。
著書のタイトルにも使われた「さとり世代」「マイルドヤンキー」などが流行語にもなり、話題に。朝の情報番組、日本テレビ系列の「ZIP!」に出演し、その名は全国区になった。現在は、TBS「ひるおび」、フジテレビ「アオハルTV」、日本テレビ「バンキシャ」などにレギュラー出演している。
10代半ば〜20代後半の若者たち約1000人に実際に会って聞いた、リアルな人間関係やマーケティング動向など、“大人”からは見えにくくなってしまった現代の若者たちの本質は、企業活動にも大いに役立つ、と支持を得ている。
低成長に慣れ、当たり前になってしまった世代
若者研究、中でも2019年に会社に入った大卒社員、世代論でいうと「脱ゆとり世代」の研究が中心です。アメリカでは「Z世代」と呼ばれていますが、最初からスマホを持って、SNSを使っている世代。やっぱりこの世代は、過去とはずいぶん違っているんですね。新しい通信規格の5Gでは、動画がよりスムーズになります。
スマホ中心の先頭を走っている彼らを研究するのは、すべての企業にとって重要になってくると考えています。それが、脱ゆとり世代を中心にしている理由です。他にも、未来研究としてのキャッシュレス社会の研究など、世の中の将来の変化を考える上で重要なファクターになる、いろいろな研究テーマを追いかけています。
さとり世代は、2013年の新語・流行語大賞にノミネートされました。ただ、これは私が作ったわけではなく、ネットスラングだったんですね。ゆとり世代と呼ばれていた若者たちが、自分たちのことをゆとりと揶揄するバブル世代に対して、「自分たちこそお金もないのに外車を欲しがったりしていた、そっちのほうがおかしい、自分たちはゆとりなのではなく、さとっているのだ」という書き込みをしていたのを、友人でもある「2ちゃんねる」の西村ひろゆきさんが面白いとリツイートしていて、それを私も面白いと思って本のタイトルにしたら、流行語になっちゃったんです。
マイルドヤンキーは、その翌年の新語・流行語対象にノミネートされました。これは、ある自動車メーカーが、国内で日本の若い人に車が売れないのはなぜなのか、一緒に全国を調査したことがきっかけで、生まれているんです。昔から車好きのヤンキーというのはたくさんいて、車を改造したり、暴走させたりすることがあったりしたわけですが、今の車好きのヤンキーっぽい若者にインタビューすると、そういうことはないんです。見てくれはヤンキーでも、意外とちゃんとしていたりする。かなり緻密で大規模な全国調査を進めた中で、ヤンキーの風味は残っているものの、ずいぶんマイルドになっていたことに気が付いた。それで、マイルドヤンキーという言葉が生まれたんです。
バブルが弾けて10年くらいから若者研究をスタートしました。一言で言うのはなかなか難しいんですが、大ざっぱに言えば、こんな印象があります。
GDPの伸びない低成長経済、給与も上がらない中で、当初はおとなしくなっていく若者像があったんです。日本が成熟社会化していく一方、まだ昭和の残り香が残っていたこともあって、大きな不安を抱えたり、社会の中でもがいている若者たちが多かった。ところがここ数年、不景気慣れ、成熟社会化慣れとも言うべき状況になっています。日本の未来には、人口減や高齢化など暗い材料も多いわけですが、これにも慣れてしまった。メソメソしたり、もがいたりするのではなく、すべて受け入れてしまっている。
端的にいえば、日本がヨーロッパになったということです。日本よりずいぶん早く低成長社会になったのがヨーロッパでした。日本でも低成長が長くなって、これが当たり前になってしまった。実際、先輩たちを見てみても、先輩たちの時代も低成長なわけです。だったら、これでいいじゃないかと考えるようになっている。
日本の若者が幸運だったのは、就職状況がとてもいいということです。これは、世界的に稀有なことです。45年間、少子化対策も行われず、移民も入れてこなかったので、結果的に就職状況がとても良くなった。これが、現状満足でいいや、と若者に思わせる大きな要因になっています。とりあえず食いっぱぐれないだろう、という安心感です。
それこそ韓国では、名門大を出ても就職できないことだってありうる。アメリカはポスト主義ですから、一流大を出ても就職は保証されない。ところが日本は、新卒一括採用という、なんとも都合のいい制度に加え、少子化も加わって、若者が焦ったり、不安感を持ったりしなくなっているんです。
もうひとつの若者の幸運は、デジタル環境です。一世代前のケータイ第一世代は、デジタル環境があっても、やれることが限られました。みんなとつながった、くらいでしかなかった。今の若者はスマホにSNSに動画です。同じケータイ世代でも、隔世の感があります。それこそケータイで映画も観られる、ドラマも見られる、ゲームもできる。そんな時代がやってくるなんて、誰も予想していなかった。しかも、多様なSNSで友達だけではなく、芸能人ともつながれたりするわけです。今から30年前にスマホがあったら、当時の若者は車に憧れたり、盛り場に行ったりするのではなく、家でまったり、というライフスタイルになった可能性があります。そのくらい、スマホの存在は大きいんです。
日本がヨーロッパのような成熟社会化すると、どうなるのか
成熟社会とは、変化の少ない社会。変化しない世の中を生きているわけですね。だから、変化を求めていない。特に目標もない。今に満足をしている。だから、消費もあまりしない。モノは売れなくなるということです。
ヨーロッパに行っても、例えばブランドショップで買い物をしているヨーロッパの若者はほとんどいません。買っているのは、中国の人たちや新興国の人たち。そういう社会になるということです。お金を稼ぎ、頑張ってのし上がろうというよりも、ほどほどに仕事して、ワークライフバランスを大切にして、早く家に帰って、余暇を充実させる。余暇も、ドライブでどこかに行く、というアクティブなものではなく、家でネットフリックスを見たり、お散歩したり、スーパー銭湯に友達と行ったりする。これが、ヨーロッパ型です。
そもそも1970年代からバブルを経て2000年代くらいまで、日本人は異常に消費をし過ぎていたんですよ。でも、もう豊かになった。大学生が一人暮らしを始めるとき、エアコンやトイレが部屋にあるのは今や当たり前です。衣食住はもう足りているんです。しかも、安いお店も日本にはたくさんある。ファストフードもおいしいし、安いお店でも世界的に見たらサービスは決して悪くない。貧しさからの脱却、みたいなわかりやすい動機はもう持ちにくいんです。目標を問うこと自体、もう時代錯誤なんですよね。
成熟社会の若者たちの多くは、もっと淡々と生きて、淡々と過ごしていくんです。だから、マーケティングとしては大変です。ただ、マーケティングができないわけではない。クラブでお酒をたくさん飲むのではなく、家の中でまったりしながら癒されるドリンクを飲みたいのが、彼らなんです。家でごろんとするライフスタイルに変わったのなら、それに合わせればいい。消費総額は減ってはいますが、まったく消費せずに人は生きてはいけません。そのときの人のニーズに合わせたものを作るのが、マーケティングの基本原則です。新しい世代の価値観、趣向、好みに合った商品を出せるような企業に変わっていけるかどうか。それが。令和の時代には大きな課題になります。
例えばアメリカでは、アマゾンがリアルショップを出しています。その場で買ってもいいし、アマゾンから注文してもいい。そこは、ショールームなんです。インターネット会社がIT技術を使って、いろんな小売りを出し始めていますが、ニューリテールと呼ばれています。まったく違う発想の小売りが、これから出てくるかもしれません。
若者が消費意欲旺盛で、トレンドというキーワードが強かった時代、ファッションは自分を象徴する一つの表現手法でした。ファッションビルにみんなが行きました。しかし、今の若者は、ファストファッションで十分なんです。いくらファッションビルを作っても、関心を示さない。それより今の若者のライフスタイルに合ったものが必要なんです。例えば、インスタグラムには、どんな写真が多いか。食べ物の写真です。家や車、洋服と違って、そんなに大きなお金を使わなくても自分を表現できる。インスタ映えして、人の関心を引けるものになる。だから、食への関心が高まっている。渋谷のファッションビルの中に、ファッションのフロアではなく、フードコートのフロアができ、人気になっているのは、そういう理由です。使うところが変わってきているんです。
消費自体への関心が下がり、使い途が変わっている背景には、わかりやすい変化があります。ひとつは、見栄がなくなってきていることです。あいつよりも早く車に乗る。隣の家より早く大型テレビを買う。そういう感覚がどんどんなくなっている。成熟社会は、そんなにガリガリ成長はできません。頑張ったら、成果が得られるとも限らない。だから、この20年くらいでどんどん見栄はなくなっていった。変化の激しい時代こそ、欲望は大きくなる。それが今は、身の丈思考になっているんです。
もうひとつが、モテへの関心が落ちてきていることです。情報がなかった時代は、恋愛が若者のすべてのようなところがあった。女の子にモテたいから、いい車に乗りたい、洋服を着たい、いいレストランに行きたい、と男の子は考えた。しかし、今はどんどんジェンダーレス化しています。男女でも友情が成り立つ。恋愛がすべてではなくなっている。価値観が多様化した。モテの欲望が小さくなって、消費につながらなくなってきているんです。
若者の変化は、職業観の変化にもつながるのか
ヨーロッパ型の若者の職業観のキーワードは、共働き、ワークライフバランス、お金だけがすべてじゃない、無理して頑張らない、といったものだと感じています。低位安定、中位安定でいいから、プライベートを大切にしたい。余暇を大事にしたい。つまりは、個人主義が進んでいくということです。
実際日本のZ世代は、すでにかなり個人主義化しています。ちょうど昨年末、ハッシュタグで「忘年会スルー」が話題になりました。昔なら、1年の終わりに忘年会でもやろう、というのは当たり前の発想だった。しかし、個人主義の世代は、会社の好き嫌いに関係なく、プライベートな時間を割かれてまで強制されることに抵抗感があるんです。
30年ほどで会社がどんどん入れ替わるアメリカと違って、日本は老舗の大企業や中小企業がたくさんあります。古いやり方が、変化しないまま残っていることが多い。しかし、それはもう受け入れられなくなっていきます。そして、おそらく数年で、「人手不足倒産」という言葉がテレビや新聞で取り上げられる時代になると思います。今の若者の気持ちをつかめないと、会社に入社してくれない。もうそういう時代が来ているんです。目線を低く、距離感を近く。上下感覚を作らない
ポイントはたくさんありますので、例えば、ひとつ。採用ホームページでロマンスグレーの70代の経営トップが、熱い言葉、強い言葉で「グローバル人材を求める」「会社をぶっ壊すような人材がほしい」といったメッセージを発信しても、刺さる若者はどんどん少なくなってきていると思います。
就活調査もやってきましたが、そんなことよりも2、3年上の先輩が、休憩時間に楽しそうに過ごしている動画でも流したほうが、今の若者にはウケがいい。根性論が残っている世代からすると、2、3年目のまだ青二才が休み時間にキャピキャピしている姿を採用ホームページに載せて効果があるのか、と思われるかもしれませんが、効果あるんです。意志を持って昔ながらのロマンスグレーの熱い採用マーケティングを進めて、こういう人材が欲しい、とやるのもありかもしれません。ただ、それで採用できなかったらつぶれる、くらいの覚悟を持ってやるべきだと思います。
また、そういう採用ができる人気企業もあるんです。業績も伸び、給与も高く、熱いメッセージが刺さる若者を惹きつける企業なら、いろんなことができる。しかし、中途半端が最も危険です。人手不足で、若者人口は少ないんです。学生たちは金の卵状態なんです。ある意味、迎合するしかない。これがすなわち、マーケティングです。彼らのニーズをつぶさに探ってみれば、ロマンスグレーの70代では魅了されないんです。
若い世代の目線で、採用ホームページを作る。社風を変える。オフィスもきれいにする。インスタ映えで育ってきた子たちです。毎日、美しいものに触れ、審美眼を鍛えてきている。いくら業績が良くても相手にはしてもらえません。それでも意志を貫いて、人手不足倒産でつぶれるか。若者のニーズに合わせるか。どちらかです。
若者の本音を捉える方法
インスタが象徴的ですが、人に見られる前提、「いいね!」をもらう前提で投稿しているわけですね。映えたいわけですから、過剰演出している若者もいれば、ちょっと背伸びしている若者、一方で普通の自分だよ、と言い張る若者もいる。度合いは人によって違いますが、基本的にバーチャルにあるのは、背伸びした自分ですね。
ストーリーという機能ができて、日常そのものを見せる若者も増えてきていますが、本当の日常は載せません。やっぱり背伸びした自分を載せるんです。こうしたデジタルツールができたことで、ホンネとタテマエが昔以上にわかりにくくなっています。もともと日本人はイエス、ノーをはっきり言えないわけですが、テクノロジーがますますわかりにくくしていると言えると思います。特に今の若者はわかりにくい。
例えば、ミスをして叱る。昔なら、多少は落ち込んで反省したりもしたわけですが、今は、その場では「すいません」と言いつつも、その後が違う。叱った側が見ていないLINEで「あいつ、うぜぇ」みたいなコミュニケーションをしているわけです。ガス抜きがいくらでもできるんです。表面上、意外と反抗的じゃなかったり、とんでもないことをしでかしたりする若者はいないように見えますが、暖簾に腕押し状態、というのはよくありますね。一見、ちゃんとしているようでまったく伝わっていなかったりする。なんとも評価しにくいタイプの若者が増えているという認識を持っています。
タテマエとホンネが、昔以上に無理なく切り分けられるようになっているんです。いろんな顔の自分を演出できるようになっている。そして、そもそもホンネを言う義務もない。なんでわざわざ会社でホンネを言わないといけないのか、と思っている。ですから、ホンネを言わせようと思ったら、信頼を勝ち得たときしかありません。そうすれば、少しずつホンネが出てくる。もしくは、なかなかホンネを言ってくれないのが前提ですから、企業や上司は徹底的に若者を分析し、観察調査によってホンネを探るしかありません。
Z世代、ミレニアム世代とまさに上手に付き合っているのが、青山学院大学の陸上競技部の原晋監督でしょう。若者のモチベーションを上げ、決して有名選手をかき集めているわけでもないのに、素晴らしい駅伝チームを作り上げています。
私は共著『力を引き出す 「ゆとり世代」の伸ばし方』(講談社)も出している友人でもあるのですが、見ていて感じるのは、まず決して上から目線にならないことです。横から目線なんです。50代だと学生からすれば父親以上の年齢ですが、友達とまではいかないけれど、従姉妹のお兄さんくらいの目線で接している。監督が冗談を言ってからんでいったり、面白いアダナを学生につけて、学生から「監督、やめてくださいよぉ」などと放課後に男子高生がふざけ合っているような雰囲気です。今の若者たちはSNS的ともいえますが、上下関係の少ないフラット関係を求めているんです。だから、上も下も作らない。ヒエラルキーがない。そういう雰囲気を作っている。
ただし、完全に友達になると失敗します。基本的に、ルールもゆるいんですが、例えば朝、寮から出るときに玄関の自分の名前のプレートを裏返しにすることを怠ると激ヅメされます。朝、挨拶をしないのも同様。いくつかの基本の基本だけは、厳しくするんですね。最低限のところだけ緊張感を持たせるけれど、あとはフラット。これでいいバランスを作っているんです。
あと、やっぱり人間は自分が立てた目標でなければ、達成感がないんです。言われたこと、やらされたことでは、モチベーションは高まらない。これは仕事でもそうですが、小さくても裁量権があれば自発的に頑張れるんです。だから、必ず自分で目標を考えさせ、プレゼンをさせる。監督不在の合宿で、みんなの前で発表して、バッシングされながら修正して、というプロセスを長時間かけてやっています。これが、本人の原動力になり、かつ思考力、プレゼン力もつけてくれる。社会に出ても役立つスキルです。
何年か前に、いろんな企業の若手社員に理想の上司についてアンケートして、キーワードをランキングにしたことがあります。昭和の感覚からするとびっくりかもしれませんが、1位は「かわいい上司」でした。目線が低い、距離感が近い。上下感覚がない。まさに原監督がそうですね。そして、締めるところは締めるところが、原監督のポイントです。逆に、上下をつけたがる昭和型の人は難しくなってきています。気を付けたほうがいいです。
いろんなテーマがあります。まずは若者のトレンドですね。上半期に何が流行っているのか、下半期はニーズがどう変わるのか、商品開発のヒントは何か。また、もうすぐ分析がまとまりますが、若者とメディアと広告というテーマ。インスタをどのくらいやっていて、どのくらい広告に接触しているのか。ベーシックなデータが、意外に少ないんです。中高年のメディアデータとの比較もできます。それから若者論。どんな価値観を持っているか。さらには、若者の採用、育成について、などでしょうか。
若者は人口が少なくなってきていますから、企業社会も消費者としての若者には目をそらせがちです。コンビニにはインスタ映えする商品は、ほとんどない。それは、今のコンビニユーザーの平均が50代だからです。しかし、若者たちは未来の消費者なんです。未来は彼らが、消費の主役になるんです。彼らをしっかり見ない企業は、未来が危うい。未来のことを考えたいなら、若者を見たほうがいい。若者研究とは、未来研究です。とても、大事な研究なんです。
原田曜平はらだようへい
マーケティングアナリスト
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー等を経て、現在はマーケティングアナリスト。2003年度JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。 講…
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