第5回KATARI レポート
今年の世界経済 ~AI動向と世界経済トレンド~
開催日時|2026年1月21日(水)18:00~19:15
渋谷和宏
経済ジャーナリスト/作家
「もっと気軽に、もっと深く、ビジネスの知見を学べる場を」
そんな想いから誕生したのが、講演依頼.comが主催するオンライン講演サービス「KATARI(カタリ)」です。
KATARIの大きな特徴は、ライブ配信と“対話型”の講演形式。全国どこからでも参加できるだけでなく、質疑応答の時間をたっぷり30分確保。講師と参加者の双方向コミュニケーションを重視し、「聞いて終わり」ではなく、「納得して終わる」講演体験を提供しています。
この取り組みは、従来のリアル講演や録画配信とは一線を画し、参加者がその場で疑問をぶつけ、深掘りすることのできる“学びの実践現場”となっています。
Chapter 01
第5回KATARIの概要
世界の“いま”と“これから”を解きほぐす75分
2026年の幕開けとともに開催された第5回KATARIのテーマは「AI動向と世界経済トレンド」。講師はテレビや雑誌でもおなじみの経済ジャーナリスト・渋谷和宏さん。今回は、KATARIにおいて初めてホワイトボードを本格的に活用した講演となり、オンライン越しにも理解を助けてくれました。
「今日は元気が出る話をしたいと思います」
そんな一言から講演はスタート。AIが急速に社会に浸透する今、企業や個人がどう経済の流れを読み、どのように対応していけばいいのか。難しい専門用語が次々と登場するテーマでありながら、渋谷さんは一つひとつをゆっくり、はっきりと、丁寧に噛み砕いて解説。豊富なデータと洞察、そしてビジネス現場の視点を交えながら、世界経済の見通しと私たちの進むべき方向性を非常にわかりやすく提示してくれました。
Chapter 02
講演ダイジェスト
今年の世界経済 ~AI動向と世界経済トレンド

1|2026年の世界経済シナリオと「AIという最大のチャンス」
渋谷さんは冒頭、「2026年に向けて、日本には明確に2つの大きなチャンスがある」と提示しました。その一つ目がAIです。
一見すると、米国や中国が圧倒的に有利に見える分野ですが、「実は日本にとって極めて現実的な勝ち筋がある」と話を進めました。2019年から各国のAI投資を比較したデータが下記です。
- アメリカ:約50兆円
- 中国:約20兆円
- 日本:約1兆5000億円
この数字だけを見ると、日本は見劣りします。しかし、ここで重要なのはAI産業の本質です。渋谷さんは「AIは、これまでのデジタルビジネスとは次元が違う」と強調しました。
AI産業は、膨大な設備・ものづくりを前提とする産業です。
- 巨大なデータセンター(情報工場)
- 数十万〜数百万台規模のコンピュータ
- 莫大な電力(発電所レベル)
- 工場の物理的セキュリティ
データセンター1拠点だけでも必要な投資額は約30億ドル(約4,800億円)と、SNSのようにサイバー空間で完結する産業ではありません。
ここで浮かび上がるのが、日本の「ものづくり」としての本領です。渋谷さんはこの状況を、19世紀アメリカのゴールドラッシュに例えました。
当時、最も利益を上げたのは金を掘り当てた人ではなく、シャベルやツルハシ、作業着(リーバイス)といった「現場で不可欠な道具」を供給した企業でした。金鉱を支えるインフラを握った企業こそが、長期的な勝者になったのです。
「AI産業で、その立ち位置にいるのが日本企業。日本は19世紀のリーバイスと同じです」
生成AIの分野では米国が先行していますが、渋谷さんが特に強調したのが「フィジカルAI」です。フィジカルAIとは、センサーなどを通じて物理的な外部環境を理解し、自動車やロボットを制御するAIのこと。
この分野において、日本は圧倒的な優位性を持っています。生成AIに必要なデータでは米国に劣るものの、製造業・ロボット・産業機械のデータは日本が世界トップクラス。
「日本の部品、機械、ロボットが、AIの性能を引き上げていく」
日本はGAFAのようなプラットフォーマーにはなれないかもしれない。しかし、極めて有力なAIプレーヤーにはなれる。この「現実的な立ち位置」を正しく理解することが、日本企業の戦略上、極めて重要だと語られました。
一方で、AIの負の側面についても言及します。生成AIは「中立的に見えて、実はその国の政治体制や政権の価値観を反映する」という問題があります。
中国のAIに「世界で最も影響力のある人物は?」と聞けば習近平、米国のAIでは異なる回答が返ってくる。
「理想は米中が手を組むことだが、現実は逆に進んでいます」
AIを巡る世界は、技術競争であると同時に、価値観と政治の競争でもあるという指摘は、参加者に広い視野を投げかけました。
2|国内市場に眠る「もう一つの巨大チャンス」

二つ目のチャンスは、日本国内市場です。渋谷さんは「2026年、日本国内には非常に大きな需要が存在する」と説明しました。
象徴的な例がフルサービス型喫茶店です。これは、注文取りから配膳、会計までを店員が行う接客スタイルの喫茶店で、客が自ら注文・受け取りを行う海外チェーンのセルフサービス型カフェとは対照的な存在です。
このフルサービス型喫茶店が、2013年以降、郊外を中心に再び増加し、市場規模を拡大しています。背景にあるのが、2012年以降に始まった団塊世代の大量引退です。
2013年〜2023年までに約2,600万人が退職し、仕事中心の生活から、消費・余暇・体験へと人生の軸足を移しました。その結果、「ゆっくり過ごせる」「人のサービスを受けられる」場として、かつて姿を消しかけたフルサービス型喫茶店に再び客足が戻ったのです。
重要なのは、この世代の圧倒的な購買力です。
日本人の資産の約65%を65歳以上が保有しており、金額にすると日本のGDPの約2倍に相当します。
同様の構造はアウトドア市場にも見られます。キャンプ人口は1996年の1,580万人をピークに減少しましたが、2013年以降再び拡大。キャンピングカー市場も急成長し、「第二次アウトドアブーム」が到来しています。
さらに、医薬品市場、健康食品市場といった分野でも、主要な消費者は高齢者層です。
- 医薬品市場:2030年に400兆円規模
- 健康食品市場:世界で140兆円
日本は超高齢社会のトップランナーであり、この国内市場そのものが、海外から見ても「マーケティングと実証の最重要拠点」として位置づけられているのです。
渋谷さんは、こうした国内市場の動きを踏まえ、ネガティブに語られがちな「超高齢化社会」が、日本経済を再び動かす原動力になり得ると指摘しました。
高齢化は「縮小」や「負担」として語られることが多い一方で、実際には世界に先駆けて成熟した巨大市場が国内に存在しているということでもあります。
日本はその最前線に立つ国として、高齢者向けのサービス、商品、ビジネスモデルを磨き上げることで、内需の活性化と同時に、海外展開につながる知見と競争力を蓄積できる。
超高齢化社会は、日本経済の足かせではなく、再成長の起点になり得る。そんな前向きな展望で、このパートは締めくくられました。
Chapter 03
質疑応答
経済とAIに真正面から向き合う時間
KATARIの名物である30分間の質疑応答パートでは、学生、経営者、実務家など立場の異なる参加者から、現実的かつ切実な質問が数多く寄せられました。
渋谷さんはその一つひとつに対し、抽象論に逃げることなく、具体例と経験を交えながら応答。ここでは印象的なやり取りをピックアップして紹介します。
Q1|AIの影響で「なくなる仕事」と「増える仕事」は何か?
(質問者:来年から就職活動を控えた学生)
A|「仕事が消えるか」ではなく、「価値を生み続けられるか」で考える
渋谷さんはまず、「矢沢永吉さんを生成AIで代替することは不可能」と具体例を挙げました。理由は明確で、クリエイティビティを伴い、人に直接訴えかける仕事は、AIでは代替できないからです。
また、税理士などの専門職の世界では、インターネットの普及に加え、生成AIを使って書類を作成してから相談するお客様が増えています。ただし、その書類は「情報が誤っている」「現在の制度や状況に合っていない」といったケースも少なくありません。
生成AIは過去のデータをもとに答えを導くため、最新の状況を踏まえた判断や、これから先を見越した予測には限界があるからです。
企業の意思決定においては、「今、何が起きているのか」「これからどう動くべきか」を読み解く力が不可欠であり、ここは人間にしか担えない領域だと渋谷さんは強調しました。
そのため、企業の中枢を担うコアな人材や、将来を見据えた提案ができる人は、AIによって置き換えられにくい。
「将来の提案ができる人は、良い仕事を続けられる」
仕事が増えるか減るかではなく、自分がどの領域で価値を発揮できるかを考えることが重要だというメッセージが、就職を控えた学生に向けて語られました。
Q2|AIを前提にした中小企業の人員戦略はどう考えるべきか?
(質問者:中小企業経営者)
A|AIは「裏方」、人は「顧客と向き合う前線」に配置する
渋谷さんはまず、AIが最も力を発揮する領域として、定型的な業務や情報収集を挙げました。大量のデータを集め、整理し、処理する作業は、AIに任せた方が効率的です。
一方で、企業にとって下記の重要な仕事は人間が行ったほうが良いものです。
- 顧客が今、何に困っているのか
- まだ言葉になっていない課題やニーズは何か
これらをリアルタイムで感じ取り、明確な言葉として示してあげるのは「人」であると強調しました。
「お客様と直接向き合うのは人間。その後ろで支える情報整理やデータ処理をAIに任せればいい」
この役割分担ができていないと、どれだけAIを導入しても、顧客は「自分たちを理解してくれている」と感じられず、結果として支持は得られない。人は前線、AIは裏方という明確な人材配置こそが、中小企業にとって現実的かつ効果的なAI活用である、という示唆が示されました。
Q3|BtoBビジネスは、顧客がAIを前提に動くことでどう変わるか?
A|「選ばれる理由」はより厳しく問われる
渋谷さんはまず、「AIが契約そのものに直接影響を与えることは少ない」と指摘しました。生成AIを使って調査データを集め、「どのような契約条件が妥当か」を検討すること自体は、今後さらに一般的になっていくといいます。
しかし、重要なのは契約書の文面ではなく、その前段階にある値決めなどの判断基準です。契約のポイントは、「どこに価値を感じるか」にあります。
AIを活用すれば、相場、類似事例、条件の違いといった情報は容易に比較できるようになります。その結果、値決めの場面では、単なる価格や条件だけでなく、下記の要素が、これまで以上に厳しく見られるようになります。
- 提供している商品・サービスの独自性
- アフターケアや継続的な関係性
- 長期的にどんな価値をもたらすのか
「AIを活用する以上に、オリジナリティをどう担保するかが重要になる」
BtoBビジネスにおいては、AIによって“比べられる前提”が整ったからこそ、比較されても選ばれる理由を持っているかどうかが、決定的な差になります。渋谷さんのこの指摘は、参加者にとって非常に実践的な示唆となりました。
その他の質問(質問のみ抜粋)

時間の関係ですべての回答は掲載できませんが、当日は、以下のような質問が寄せられました。
- アメリカとタッグを組んで経済を回していけば安心なのか?
- 今後、アメリカ・中国以外で注目すべき国はどこか?
- 20代、30代の若い世代は将来、団塊世代のような消費パワーを持てるのか?
- 渋谷さん自身が現在使っているAIツールは何か?
- 高市政権発足から3か月をどう評価しているか?
- 知的に、わかりやすく話すためのコツはあるのか?
- AIをビジネスチャンスにするため、国は十分な投資をしているのか?
質疑応答を通して見えたこと
質疑応答全体を通じて浮かび上がったのは、AIは「答えを出す道具」だが「問いを立て、選択する責任」は人間に残り続けるという一貫したメッセージでした。
参加者それぞれが、自分の立場に引き寄せて考え直すことができる、KATARIらしい密度の高い対話の時間となりました。
Voice 参加者の声
今回のKATARIでは、AIというテーマを軸にしながらも、「日本経済の現在地」「世界との関係性」「企業や個人がどう向き合うべきか」といった、視野を広げる学びに触れたという声が多く寄せられました。
渋谷さんの具体的な数字を交えた解説と、落ち着いた語り口が、年代や業種を問わず理解を深める時間となったようです。以下は、その中から印象的な声を抜粋・整文したものです(※一部編集あり)
「AIを点ではなく、経済全体の流れで理解できた」
サービス業・20代よりAIに関するノウハウを学ぶセミナーにはこれまで数多く参加してきましたが、日本、そして世界の経済との関係性まで含めて学べたのは今回が初めてでした。具体的な数字や事例を交えた説明のおかげで、難しさを感じることなく、楽しみながら理解を深めることができました。
「AI時代に、企業が進むべき方向のヒントを得た」
広告業・40代よりAI時代において、企業がAIをどう活用し、どのように成長につなげていくべきか。その考え方のヒントを多くもらえる講演でした。単なる技術論ではなく、経営や事業の視点で整理されていた点が非常に印象に残っています。
「日本経済の現状と今後が、すっと頭に入った」
情報通信業・60代より渋谷さんの口調が非常に聞き取りやすく、日本経済の現状や今後の動向について、全体像が自然と理解できました。専門的な内容でありながら、無理なく話が入ってくる構成で、改めて現状を整理する良い機会になりました。
このようにKATARIでは、最新テーマを扱いながらも、参加者が自分の仕事や立場に引き寄せて考えられる“整理された学びの時間”を大切にしています。
知識を得るだけで終わらせず、次の意思決定や行動につながる視点を持ち帰れることも、KATARIならではの特徴です。
Conclusion
終わりに
悲観よりチャンス、2026年をどう迎えるか

画面越しにも伝わる渋谷さんの落ち着いた語り口は、硬くなりがちな経済やAIの話題を、驚くほど親しみやすく、かつ現実感のあるものへと変えていきました。参加者からは、「複雑だと思っていたテーマが整理され、これからの事業や仕事を考えるヒントになった」といった、前向きな反響が寄せられました。
講演の締めくくりで、渋谷さんは次のように語ります。
「今の日本には、悲観する理由よりも、可能性を感じられる材料が多い」
AI、ものづくり、国内消費、そして超高齢化社会。
これらは課題として語られることが多い一方で、見方を変えれば、日本が世界に先んじて価値を生み出せる分野でもあります。特に、日本が培ってきたものづくりの力や、高齢化の最前線に立つ国内市場は、他国にはないビジネスチャンスを内包しています。
2026年に向けて、自社や自分の立ち位置を改めて見つめ直し、「この環境の中で、どんな関わり方ができるのか」を考える。
本講演は、日本の先行きを過度に悲観するのではなく、足元にあるチャンスに気づくための視点を与えてくれる、示唆に富み、元気の出る時間となりました。
Profile 講師紹介

渋谷和宏
経済ジャーナリスト/作家
1959年12月、横浜市生まれ。1984年3月、法政大学経済学部卒業後、同年4月、日経BP社入社。日経ビジネス副編集長などを経て2002年4月『日経ビジネスアソシエ』を創刊、編集長に。2006年4月18日号では10万部を突破(ABC公査部数)。ビジネス局長(日経ビジネス発行人、日経ビジネスオンライン発行人)、日経BP net総編集長などを務めた後、2014年3月末、日経BP社を退職、独立。 1997年に情報ミステリー小説『銹色(さびいろ)の警鐘』(中央公論新社)で作家デビュー。経済ノンフィクション『稲盛和夫独占に挑む』(日本経済新聞出版社)などをペンネーム渋沢和樹で執筆。また、ペンネーム井伏洋介として青春群像小説『月曜の朝、ぼくたちは』(幻冬舎)、『さよならの週末』(幻冬舎)。 本名(渋谷和宏)としては『文章は読むだけで上手くなる』(PHPビジネス新書)、『東京ランナーズ』(角川書店)など。 現在は執筆の他、TVやラジオでコメンテーターとしても活躍中。主な出演番組に「シューイチ」(日本テレビ)、「ZIP!」(日本テレビ)、「森本毅郎・スタンバイ!」(TBSラジオ)など。 2021年、『知っておきたいお金の常識』(角川春樹事務所)と『激変する世界の未来を予測する100年に1度の経済学』(総合法令出版)を、2023年、『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社新書)を上梓。

